普段の生活をしている中で違和感はあった。
ある期間だけすっぽりと記憶が抜け落ちている。
でもそれが、どんな記憶なのか、なぜ記憶が抜け落ちているのか。
そこまではいくら頑張っても分からなかった。
でも、ひかるにここに来たことがあるでしょと言われた途端、昔の記憶が断片的にだが蘇った。
それは思い出したくもない辛い苦しい記憶。
だから封印してたんだ。
この場所にいい思い出は無い。
1秒でも早くこの場を去りたい。
それなのに。
それなのに、あの時と同じ苦しみを味わうことになった。
しかも今度は
短い期間ながらも一緒に苦楽を共にしたひかるの手によって。
そのショックも大きくて。
天のことを気にかけてあげる余裕がなかった。
はやく。
はやくこのじかんがおわれ。
幼い頃の自分に戻ったかのように
そう願うことしかできなかったんだ。
『なにしてるの?』
聞き覚えのある声でばっと顔を上げると、そこには見覚えのあるねこがいた。
夏「レオ、ン?」
『なんでまたここにいるの?もう帰ってきちゃダメって言ったじゃん。』
夏「え、あ、う…ん。」
『まあいいや。でも、僕はまたかりんに会えてうれしいよ。で、あの子は?』
夏「あの子は天。あの子もねこの言葉が分かるの。…だからきっとここに連れてこられた…んだと思う…。」
『そっかぁ。僕もさっきあの子と話して反応があったから、きっとそうかなぁと思って。』
そこからレオンと昔に戻ったように話をした。
初めて会った時のこと。
あの頃の記憶は今の今まで忘れてたこと。
それからどうやって大人になったか。
今探偵をしてること。
天と出会った経緯。
…そしてひかるのこと。
『ひかるね。かりんがここにいた時も居たんだよ。』
夏「そうなんだ…。知らなかった。」
『でさ。探偵のかりんさん?いつまでそうやっていじいじしているんだい?』
夏「…」
『君は昔の君じゃない。あの頃は無力な子どもだった。でも今はもう無力じゃないでしょ。君の、その手であの子を、てんを守らないと。』
夏「…」
『今のてんは、昔のかりんと同じだよ。このままだと、かりんみたいに記憶を閉じ込めちゃうんじゃない?嫌な記憶だけじゃなくて、かりんと過ごした楽しい記憶まで。それでいいの?』
夏「…だめ。でも私に天を救うことなんて…」
『できるさ。今の君の目を見たら大丈夫だと思うよ。さ、行きな。』
夏「…レオン。ぎゅってしていい?」
『もちろん。』
レオンと話して力が湧いた。
まずは天に謝らないと。
夏「天。ごめん。」
そして、天を救わないと。