ひ「猫と話せる…?夏鈴、本当なの?」

夏「…どの子に聞いたの?」

天「えっと、真っ白のねこちゃん。」

夏「ああ。最近仲良くなった子か…。あとの子達には、夏鈴が、君たちと話せるのは内緒ねって言い聞かせてたのに。」

ひ「ちょっと待って。夏鈴、本当に話せるの?

夏「うん。黙ってた。ごめん。」

ひ「いや、謝って欲しい訳じゃなくて…、びっくりしたというか…。」

天「内緒だったんだね。ごめん、夏鈴。」

夏「…ううん。大丈夫。で、天。何を助けて欲しいの?」

天「あ、そうだった。僕、最近誰かにずっと見られてる気がするんだ。」

夏「え…。」

ひ「ちょ、ちょっと待って!一旦飲み物用意しよう。」










夏「で。天、改めてどういうこと?」

天「僕の気のせいかもしれないんだけど、学校からの帰りにじっと見られてる気がする。」

夏「どこら辺で?」

天「家までの間ずっと。夏鈴と会った神社で、よくねこと遊んでから帰るんだけど、そこでも。」

ひ「お家の人には言ってる?」

天「…言ってない。言っても無駄だと思うから。」

あの時と同じだ。天の表情が曇った。

夏「天。来て?」

天「?」

天を呼び寄せ、長袖のTシャツの袖を捲る。

ひ「…っ!!これ!」

天「…。」

夏「この痕どうしたの?」

天「お仕置だって。僕は居ても“価値”ってのがないんだって。」


そういう天の腕には沢山のタバコを押し付けられた痕があった。

私もひかるもどう返していいか、パッと出てこなかった。

夏「天。ちょっとだけジュース飲んで待っててくれる?」

ひ「あ、なんか遊べるもの…。夏鈴、この前、調査がてら旅した時に買ってたぬいぐるみは?」

夏「…捨てた。」

ひ「は?じゃあ仕方ない、ここらにある本読んでいいからね!」





ひ「夏鈴。あの子って…虐待受けてる?」

夏「…ネグレクトもかな。長袖はタバコの痕を隠すためだろうね。この肌寒い季節に短パンはおかしい。肌着も着てないし。それに小3にしては痩せすぎてる。」

ひ「なんで小3なの知ってるの?」

夏「持ち物の中に教科書がチラッと見えたから。」

ひ「なるほど…。」

夏「だから、天の前でお家の人の話はあんまりしないほうが、いいかもしれない。」

ひ「わかった。でも、調査に必要なことは聞かないとだもんね。」

夏「それは許してもらおう。それに、この件…」

ひ「ん?なんか引っかかる?」

夏「いや、なんでもない。」






天「お話終わった?」

夏「うん。お待たせ。でさ、その誰かに見られてるってのはいつからなの?」

天「んー。1ヶ月前くらいから?」

夏「その時、なんか変わったことあった?」

天「んー。あ。お母さんに、僕がねこと話せることを話したかな。」

夏「…!なんで!」

天「だって…その日お母さんいつもよりしんどそうで…。僕がねこと話せるんだよ、って言ったら、すごいね、って褒めて、びっくりして、元気になってくれるかなって…思ったから…。」

夏「…。夏鈴たちとお母さん以外には言ってない?」

天「うん。言ってない。」

夏「とりあえず、言わない方がいい。内緒にしといて。」

天「うん。わかった。」



そこからも色々話を聞いたところ、ねこと話せるようになったのは3年生になってすぐくらい。お母さんにお仕置されて悲しくて神社にいたら、ねこが話しかけて来たことがきっかけだったらしい。

まだ百発百中、ねこが言ってることが理解出来るわけではないらしいが、悲しくなったらねこの話を聞いたり、話を聞いてもらったりして心を落ち着かせてるらしい。




ひ「ね!今日はこの後帰るの?」

天「うん。…帰りたくないけど。」

ひ「ご飯は?いつもどうしてる?」

天「1人で食べてる。」

ひ「じゃあ、食べて帰りなよ!」

夏「うん。そうしよ?あ、でも親御さん、怒らない?」

天「大丈夫。今日も夜お仕事でいないから。僕が何してようが気にしてないし。」

ひ「じゃ!決まり!もし何か言われても友達になった人と食べたって言ったらいいよ!」

夏「ひかるのご飯。美味しいから。あ、漬物もあるよ。食べる?」

天「…うん!!」


誰かと一緒にご飯を食べるのが久々だったようで、天は時折涙しながら、バクバクとご飯を食べていた。

年相応の笑顔をやっと見れた気がした。