夏鈴side
天が何かを指差した時。
雲がさーっと晴れていき、辺りが明るくなった。
夏「綺麗...」
天の視線の先。
そこには月明かりに照らされた1本の大きな桜の木があった。
天「私ね。何人も見送ってきた。ここで。すっごく気が合った子から、よっ友みたいな人、すっごく可愛がってくれたおばあちゃんまで。いーっぱい。」
天「実はね、私もその度に、夏鈴と同じこと考えてたんだよ。だけど、中庭の桜の木を見る度にそんなこと考えちゃダメだって思った。」
天「夏鈴はさ、桜の木が散っていくのは悲しいことだと思う?」
夏「...うん。だって散った花びらは、もう戻ってこない。」
天「私はね、悲しいとは思わない。“かっこいいなぁ”って思うの。」
夏「...?」
天「桜は花を咲かせて散るまでに、みんなにわくわくした気持ちをくれる。みんなを笑顔にする。嬉しい気持ちにさせる。元気をくれる。そして散るその瞬間まで見る人に綺麗だなぁって感動を与えてるんだよ。」
夏「...」
天「それにね、散った時には葉っぱをつけて、もう次に花を咲かせる準備を始めてる。」
天「だからね、私はいつもさよならした人たちとあの桜の木を重ねるの。さよならした人たちは皆、私に何かしら残してくれてるから。だから、私は前に進まなきゃって。」
天「もちろん、散ってく桜を見る度に、もう少し満開でいてくれたら、ずっと私のそばにいてくれたら、とは思うよ?だけど、ずっと咲き続ける花がないように、私たちの命もいつか終わりが来ちゃう。」
天「ならさ、どうやって綺麗に散っていけばいいか考えたらいいじゃん。」
天「私は理佐先生みたいな散り方がいい。自分のことも周りのことも考えて、誰かの記憶に残るような散り方がしたい。」
夏「...うん。あんな、理佐先生からの手紙にこう書いてあった。」
“これから天ちゃんも夏鈴ちゃんも大人になっていく。夢や理想を抱く。でももしかしたら思うように行かないかもしれないよ。私もそうだったから。だけど、それすらも楽しんで欲しい。今を必死に生きていれば、未来は必ず開けるから。”
夏「...って。だから夏鈴も。理佐先生みたいな、あんなに美しい散り方ができたらな、って思うよ。」
天「うん!そうしよ!私たちは理佐先生の最後の生徒だ!誇りに思おう!」
それからしばらく2人で手を繋いで桜が散るのを見ていた。
夏「...んん。」
ひ「あ、やっと起きた。いつまで寝てるん。しかもなんで泣いてるん?」
長い長い夢を見ていた気がする。
気づいたら目から涙が流れていたようだ。
行かなきゃ。
そう思い、私はベッドサイドに置いてあった、天からの最後の贈り物を持ってある場所に向かった。
ひ「あ!やっとどっか行くの?もう!夏鈴が全く動かないから、退屈だったんだからね〜!」