夏「はぁっ…はぁっ…」
今回はもうダメかも。
警「いたぞ!追えっ!」
夏「くっ…。やばいっ…。」
ひ「夏鈴!こっち!!」
夏「ひかる!うんっ…!」
私は夏鈴。
仕事は…
人の物を盗むこと。
まあ、所謂、悪党なのかな。
そして今は警察から逃げてるところ。
お目当ての物を盗んだ矢先、警報が鳴りだして、あっという間に警察がやってきた。
そして今、一緒に逃げてるのは、ひかる。
私は元々ソロだった。
誰とも組む予定も無いし、どの組織にも所属していない。
でもある日、盗みに入った建物から脱出しようとした時に、ひかると出会った。
真っ暗な中、月明かりだけに照らされて
椅子に座って片方の足を上げながら
ひ「私と組まない?もっと稼がせてあげる。」
と不敵な笑みを浮かべながら誘ってきたのだ。
普通の盗人なら有り得ない、真っ白な服を着て。
正直、そんな目立つような格好だし、何処の馬の骨かも分からない奴となんて…
と思ったけど、眼力と妖艶な表情に惹かれて気付いたらOKを出していた。
確かにひかるは凄かった。
今までの倍…いや、3倍は盗みが上手くいくようになった。
なのに何故かここ数件、最後に警察にバレて途中で退散することが増えたんだ。
きっと私の気の緩みのせい…。
ひ「夏鈴、考え事は後にして!今は逃げなきゃ!!」
夏「あ、う、うん。ごめん。」
今日も盗み終えて、バックに詰めてあとは出るだけだったのに。
そして逃げに逃げて、逃げ込んだのは建築途中のビル。
夏「なぁ、ちょ、ちょっと待って。ひかる。ここ入って大事なん?」
ひ「きっと、大丈夫。」
警「おい!ここに入ったよな??しらみ潰しに探せ!!」
夏「!!」
ひ「夏鈴、こっち。」
夏「え、階段昇るん!?上に行ったら逃げられないんじゃ…」
ひ「夏鈴、下見ちゃダメだよ…。もう追っ手が来てる…昇るしかない。」
夏「…。分かった。」
走って階段を昇って行ったが、走り続けるのはしんどい。
何度か途中のドアが開かないか試したが、ガタついて開かなかった。
このビル、違法建築なんじゃない?ビルの周りにもなんか色々置きっぱなしになってたし…。
って思ったけど、別に私には関係ない。
夏「ひ、かるっ。ハァッハァッ」
ひ「ハァッ…夏鈴、屋上に行くしかない。」
夏「そしたらもう、袋のねずみじゃ…!」
ひ「いや、まさか屋上に行くなんて思わないよ。それに、近くの建物に飛び移れるかも…。」
夏「…そうだね。昇るしかない。」
バンッ
ひ「ふぅ…着いた…。」
夏「どこか、飛び移れるビルは…」
ひ「んー。無さそうだね…」
夏「くそっ。どうすれば…」
ひ「夏鈴。」
夏「何?」
ひ「面白い話しようか?」
夏「この焦ってる時にどうでもええわ…それより逃げる方法を…くっ!?」
パッと明るく照らされた。
辺りを見渡すとなんと拳銃を構えた警察。
上空からはヘリに照らされていた。
夏「な、なに!?」
警「警視庁の大園だ。〝夏鈴〟だな?もうここまでだ。」
夏「くっ。ひかる、どうする?!ひか…る…?」
私の横にいたはずのひかるがゆっくりと警察の方へ歩いていく。
玲「ご苦労さまでした。〝ひかる警部〟」
ひ「うん。玲も、速やかに動いてくれてご苦労。」
夏「ひかる!どういうことやねん!!」
ひ「夏鈴、さっき聞いたじゃん?面白い話しようかって。私は潜入捜査をしてたの。夏鈴があまりにも盗みを働くから。お偉いさん達の知り合いが困ってるからって。ごめんね?」
夏「っ…!」
玲「さぁ…。大人しくお縄につけ!!」
やられた。
やっぱりひとりの方がよかった。
ひとりだと裏切られることもないし…。
まあ、もう、ここまでかな…。
夏「…。」
ひかると大園っていう刑事の後ろからじわじわと警察が近寄ってくる。
妖艶な表情をしたひかると目が合う。
あぁ、出会った時もこんな顔だったな…。
私はきっとこの顔に惚れてたんだ。
夏「ひかる…ばいばい…」
そう小さく呟き、私は屋上の端まで走っていくと、飛び降りた。
玲「おおい!!!!なんだと!?この高さから飛び降りるだと!?おい、急いで追えっ「追うなっ!」」
ひ「追うな。追わなくていい。」
玲「し、しかし…」
ひ「玲。この高さだ。きっともう…。急いで追う必要は無いだろう。」
私は夏鈴。
仕事は…
人の物を盗むこと…だった。
でも、こうして盗みを働く人生は幕を閉じた。
ひ「夏鈴…ばいばい…」