ひかるside
ひ「んんっ。ふぁ〜あ。」
朝起きると、隣にあるはずの温もりは無く、リビングに行くとキッチンで朝ごはんの用意をしている夏鈴がいた。
夏「ひかる、おはよ。」
ひ「おはよう。ねぇ、なんでフード被ってんの?あ。」
ぴょんと飛んで夏鈴のフードを外すと、案の定昨日の耳がまだあった。
腰の辺りを見てみるとモコっとしてるあたり、しっぽも残ってそうだ。
ひ「寝ても治んなかったんだね…」
夏「うん。どうしよう…」
ひ「んーもう少し様子見するしかないね。今日はレッスンだけだから…あ!そうだ!!」
私はあることを思いつき、寝室へと戻った。
ひ「夏鈴!これ!」
夏「これって、TikTokの撮影の時にひかるが被ってたバケットハットじゃ?」
ひ「そう!今日はこれ被って耳隠してなよ!!それと、ちょっとダボってした服着てたらしっぽも隠れるんじゃない?」
夏「んー。そうだね。なんとか隠そう。」
夏鈴side
ガチャッ
ひ「おはようございます!」
夏「おはよございます…。」
今日のレッスンはツアーに向けて、アルバムに新しく入った曲のダンスレッスン。
だからいつもよりは人が少ないのが救いだった。
…松田とか武元がいたら大変なことになりそうだし。今日は井上ときらちゃんに注意かな。
天「かり〜ん!おはよー!」
夏「っうぉ!天、おはよ。」
なんて考えてたら天に後ろから抱きつかれた。身長が近いのもあるけど、最近よく天に抱きつかれる。
…まあ、甘えてくれてかわいいからいいんだけど。
天「ん?夏鈴、腰の辺りどうしたの?タオルでも入れてんの?」
夏「え。い、いや。なんでも…」
保「たしかに!なんか今日いつもにも増してダボッと感のある服着てんなぁ!あ、もしかしてどっか痛めてるとか!?え、大丈夫なん!?」
夏「だ、大丈夫…」
綺「あ、藤吉さん!その帽子、森田さんのですね!!私も被って森田さんのように可愛くなりたいので貸してください!」ヒョイッ
夏ひ「あ!!」
天と保乃の質問攻めから何とか逃れようと考えてる間に、どこからか現れたきらちゃんにさっと帽子を取られてしまった。
ぱっと頭を抱えて蹲ったがもう遅い。
保「夏鈴ちゃん!なにそれ!」
保乃の馬鹿でかい声のせいで、楽屋にいたメンバーの視線が私に集まってしまった。
…はぁ…。もうこうなったら言うしかない。
夏「耳。」
一同「…」
天「それは見たらわかるよ(笑)なんでそんなんつけてるん?ひかるにつけられたん?」
夏「つけてるんやない。生えてるん。」
一同「…は?」
夏「昨日家帰ったら耳生えてた。あ、しっぽも。ひかる曰く、オオカミなんやって。」
一同「…ええぇぇ!」
保「ひいちゃん、ほんまなん??」
ひ「うん。ほんと(笑)この太さは犬じゃなくてオオカミで…」
保「いや、そこじゃない!ほんまに夏鈴ちゃんオオカミの耳としっぽが生えてんの?!」
ひ「うん。ほんとだよ。寝ても治んなかった(笑)」
ガチャッ
マ「おはよー。ん?なんだか騒がしいな…まあいいや。先に、各ユニットと1期生曲のレッスン、その後、条件反射の振り入れだって。準備して各スタジオに入ってね。」
ナイスタイミングなマネージャーさんのおかげでなんとかその場を切り抜けることが出来た。
しかも先に、One-way stairsのレッスンだったから、ひかると2人だし、耳やしっぽの事も忘れてダンスに集中することができた。
…が、やはり井上ときらちゃんは侮れなかった。
ひ「いい感じだったね!」
夏「うん。やっぱりダンスも私たちっぽいね。ひかるとのダンスはやっぱ楽しいわ。」
ガチャッ
松武「お疲れ〜!!」
夏「…なんでおるん?」
松「だって、井上ときらちゃんから連絡来てたんだもん。」
武「〝速報!藤吉さんにオオカミの耳としっぽ!!〟って(笑)」
夏「はぁ…。」
「「触らせて〜!!」」
そういうが早いか、みんな私の耳を触ってきた。
んっ…またむずむずする…
齋「ねね!私たちにも触らせてよ!!」
気付いたら1期生さん達も帰ってきてて、次はあっという間に1期生さんに囲まれた。
由「ほんとだ!耳もしっぽもふさふさしてるね!」
小「オオカミなんて触れないからレアだね!!」
ひ「…」
なーんて、条件反射の振り入れが始まるまでずっとみんなに頭を撫でられたり、可愛い可愛いと言われ続けた。
菅「お疲れ様〜」
「「はい!お疲れ様でした!」」
夏「はぁ…散々な目にあったわ…。疲れた。ひかる、帰ろ?ひかる??」
ひ「…」
普段は楽屋でもそんなに人に囲まれることがない分、今日は疲労感が半端ない。
早く帰ってひかるとゆっくりしたいなと思って声を掛けたが、ひかるは無言で帰る準備をしてそそくさと楽屋を出て行ってしまった。
夏「なんなん?」
天「んー、夏鈴がみんなに人気で嫉妬したんじゃない?」
夏「えーひかるに限ってそれは無いでしょ。」
保「なー!夏鈴ちゃん、ひいちゃんと喧嘩でもしたん?」
夏「いや、してないけど?なんで?」
保「さっき廊下ですれ違った時、ひいちゃん泣いてたで?」
夏「え!ちょ、帰る!おつかれ!」
なんで?なんかしたっけ?
One-way stairs、満足してたんは夏鈴だけやったとか??
分からん。とりあえずひかる見つけなきゃ…!!
夏「ハァッハァッ。おった。やっぱここやったか。」
ひかるが居そうな場所。
それはひかるがよく息抜きに使う小さな公園だった。
俯きながらベンチに座っているひかるの横に座る。
夏「ひかる?どしたん?夏鈴、ひかるになんかした?」
ひ「…じゃん…。」
夏「え?」
ひ「そんなにみんながいいならみんなとずっといればいいじゃん!!」
夏「えぇ…どういうこと?夏鈴はひかると…」
ひ「だってさっき、みんなとずーっと楽しそうにしてたじゃん!!頭触られたりしっぽ触られたりして喜んでたじゃん!!」
夏「いや、喜んでなんか…」
ひ「だって、しっぽが揺れてた!!!」
夏「いや、それは…身体が勝手に…」
ひ「ああ!もう!違う!それは分かってる…分かってるの…。今の夏鈴の身体はオオカミさんだから…。でも、夏鈴が気持ちよさそうな顔をみんなに見せてるのが嫌だったの…。」
夏「…」
ひ「っ、ごめんね、こんな嫉妬心向きだしで…ごm…んっ。」
大きなひかるの目に沢山の涙が溜まってるのを見た瞬間、いてもたっても居られず、何も悪くないのに謝ろうとする口を塞いだ。
そこから角度を変えながらしばらくキスをしてそっと唇を離すと、ひかるが驚いた顔をしていた。
夏「ごめん。ひかる。不安にさせて。なんか耳の辺りを触られるとむずむずして変な感じがしたの。それでその…なんかいつもみたいには感情がコントロールできなくて…」
ひ「うん…。分かってる。耳って普段誰も触らないし触られない部位だから、敏感なの。」
夏「そうなの?だからむずむずしてたのか…」
ひ「…あ!!夏鈴!耳が!!」
夏「え?」
ひかるに言われて頭を触ると、耳が無くなっていた。
夏「治った!!あ!しっぽもない!!なんで急に??」
ひ「ふふっ。あれじゃない?」
そう言いながらひかるが指さした先にあったのは綺麗な満月。
夏「わぁ…綺麗…満月だ…。」
ひ「やっぱりこの不思議な出来事は月が関係してたのかもしれないね。」
夏「ふふっ。」
今日は中秋の名月。
月明かりのもとで2人で手を繋いで綺麗な月をしばらく眺めた。
来年も一緒に見られたらいいな。
おまけ
ひ「夏鈴。そろそろ帰ろう。」
夏「ん。」ギュッ
帰る為に立ち上がろうとした瞬間、先に立っていたひかるにギュッと抱きしめられた。
夏「ん?ひかる?どうした?」
ひ「次はひいがオオカミさんになる番やけんね。夏鈴の本当に気持ちよさそうな顔、見ていいのはひいだけやけんね。」コソッ
夏「っ///」
かぁっと顔が熱くなる。
普段、あまり私からしないキスは、ひかるの中の狼を目覚めさせてしまったみたいだった。