夏鈴side
BACKSLIVEが明日に迫ってきた。
先日、警察の方から、犯人が捕まったと聞いて安心した。
次、外に出てくるのは3年後くらいらしい。
そして、幸い私がアイドルをしていることは知らないらしい。
3年後…
櫻坂がもっと大きなグループになってて、犯人が私に気づいてしまうかもしれないけど…
まあ、どうするか、どうなるかはその時考えよう。
森田さんと私は恋人関係だと知った。
私は自分のことを責めに責めた。
犯人にも…ちょっとは腹が立ったけど、それよりも忘れてしまった自分に腹が立つ。
と、同時に森田さんに申し訳なくて…
森田さんは少しずつ〝いつも通り〟にしようとしてくれてる。
森田さんのことを考える時の頭痛は減ったけど、保乃に聞いても井上達に聞いても全く思い出せない。
「はぁ…」
保「夏鈴ちゃんおつかれ!なぜ恋もDead endもええ感じやったで!」
「あ、ほの。ありがとう。」
保「なんか浮かない顔しとんなぁ。疲れた?」
「んー。疲れたは疲れたけど、やっぱり明日がちょっと不安かな。ライブってのがはじめてだから…。」
保「そうやなぁ。お客さんがよけおる前でパフォーマンスするんは初めてやもんな…練習付き合うで!」
「いや、悪いよ!さっき、ダンサーさんにお願いしたから、あと少し確認したら戻るから。先、楽屋戻っといて?」
保「ん!分かった!」
ダンサーさんには頼んでない。
けどちょっと1人で頭の整理がしたくて嘘をついてしまった。
森田さんとのことももう少し考えたいし…
そうして、照明がほとんど落とされたステージで立ち位置や振りの確認を始めた。
まずは2日目のDead endから確認しよう。
イントロが始まったらメンバーの入れ替わりがある。
ここでは配信のカメラに私が1人で抜かれて…
立ったままのパフォーマンスだから、指先や髪で魅せて…
ここからは階段をあがる…
階段をあがったら照明は私に強く当たってるから…
さて、ここはどう表現しようか…
鼻歌を歌いながら頭の中で確認していた私は、誰かが近づいてくることに気が付かなかったんだ。
ひ「夏鈴…」
声のするほうに目を向けると、そこに居たのはさっきも頭の中で思い出そうとしていた森田さんだった。
「森田…さん」
まさか誰か来ると思ってなかった私はびっくりして振り返る。
その時、思わず右足を滑らせてしまった。
あ、やばい。
そう思い、もう片方の足を出し、何とか耐えようと思ったが、リハで疲れきった足は思うように動いてくれない。
あぁ、だめだ。
床に…
ぶつかる…!
諦めて目を閉じたその時。
右手に懐かしい感覚があった。
(「あ、いつもの。」)
(ひ「うん!」)
(ひ「じゃあまた後で!」)
これは?
私と森田さんが手を繋いでる?
あ、これ、前に保乃が言ってた〝握手〟か。
そうだ…あの日…
また後でって…
他の映像もきた…
まって…
一気に流れ込まない…で…!
「…っ。あっ…あ゙ぁ…」
身体には思っていた衝撃が来なかった。
代わりに耳元で声がする。
ひ「夏鈴!大丈夫?!っ!ご、ごめん!すぐ離れるかr」
ああ。
そうだ。
この声は。
この匂いは。
この手のぬくもりは。
「まって。
〝ひかる〟。」
そう。私の愛する人だ。