★★★★★

有岡城の戦いの中、城内で起こる事件の謎を通して、荒木村重と牢内の黒田官兵衛との対峙を、重厚に描いている。

戦国ミステリーではあるが、戦や武将達の駆け引き、事件と事件が繋がり、やがてそれらの背後にあるものが見えてくる。

とても面白かった。

・この戦は荒木家の、ひいては毛利家、本願寺の浮沈を賭した大戦である。他家のことなど斟酌する余裕はない。黒田家が絶えようと続こうと、村重には何の関わりもないことだ。
 一方、村重は、官兵衛を捕らえることで松寿丸が殺されることになるとは、露ほども考えていなかった。…
 考え尽くして決したことには、その結果はどうあれ、村重が悔いることはない。だが、考えが及んでいなかったことには ー 薄い、紙のように薄い、悔いが残る。

・「進めば極楽 退かば地獄」
… 進めば極楽とはつまるところ、自らの力で自らを救おうとする、教えに沿わざる振る舞いぞ。退かば地獄とは、阿弥陀仏がなにとてそのようなことを誓われようか。
… 進もうにも進めぬ者にも極楽はあるのだ。
(進まずとも極楽はあるぞ)

・官兵衛はおのれの知略を、一人のおとこの名を永遠に貶めるために用いた。だがその結果はどうだ。
… おれはたしかに、我が子に誉れなき死をもたらした村重の、名を殺そうとした。それが何をもたらすか、考えもせずに。