ある日のこと。
僕はイコトのシンちゃんの家に遊びに行った。
シンちゃんとは同じ中学一年生で、
小さいころから兄弟のように仲良し。
お互い釣りが好きで、この日はシンちゃんのお父さん、
つまりはおじさんが釣りに誘ってくれたのだった。
ところが、おじさんは急用が出来てしまい、釣りは急遽中止。
おじさんは、
「見たい映画があれば好きに見ていいぞ!」
そう言って出かけてしまった。
おじさんは、釣りも好きだけど、映画も大好きでDVDを数百枚もっている。
早速、僕とシンちゃんは何を見るか、それぞれがDVDを物色した。
密かに、AVと言われる未知の世界を探したけど、それは見つからなかった。
が、僕とシンちゃんがひとつのDVDに釘付けとなった。
「透明人間」
どうも昔の作品だ。
でも、僕たちはその怪しげな雰囲気にすっかり飲み込まれていた。
いや、正直に告白すると……透明人間 = スケベシーン満載!!!
という高等な数式が、お互いの脳裏に浮かんでいただけだったのかもしれない。
僕たちは、ドキドキしながらDVDを再生した。
モノクロ画面が妙に艶めかしい。
し、しかし、だ。
この映画に、スケベシーンは皆無だった。
人体実験で透明人間になってしまった男がギャングに立ち向かう、って内容だった。
「透明人間」という題材を扱いながら、
女子更衣室にも入らずストイックな作品に仕上げてしまう監督に
罵声を浴びせながら、僕らはイジェクトボタンを押していた。
同時に、先走っていたお互いの息子に、それぞれが詫びた。
そして、どれだけ「透明人間」になりたいかを語り合った。
「透明人間」になったあかつきには……そ、そんなの……い、言えないよ(笑)。
「気分を変えよう!!!」
僕らは、おじさんの好きな香港映画を見る事にした。
こんな時は、思いっきり笑って自分たちの愚行
を無かった事にしてしまった方がいい。
すると、シンちゃんが一本の作品を棚から取り出した。
変わったタイトルだった。
「ご、ごふくぼし?」
「ちがうよ、ごふくせい(五福星)っていうんだ。
すんごく面白いって、前に父さんが言ってたんだ。」
「じゃ、これにしよう!!!」
映画は……もう面白くて面白くて最初から涙が止まらなかった。
ところが、あるシーンになって僕とシンちゃんの笑いが止まった。
登場人物の一人が、ベッドの上に座って「透明術入門」という本を読んでいるのだ。
「透明術入門」……つまりは「透明人間」になる術だ。
するとその髭を生やした登場人物は、「透明人間」になる為の呪文を唱えだした。
僕とシンちゃんの目があった。
僕は一時停止ボタンを押した。
同時にシンちゃんは、紙と鉛筆を持って来た。
そして、心を落ち着けてから再生ボタンを押した。
その呪文が広東語なのか、意味の無い事をゴニョゴニョ言ってるだけなのか、
まったく不明だったけど、僕らは耳に入って来るままを紙に記した。
その為に、そのシーンを何度リピートしただろうか???
聞き間違いがないか、書き間違いがないか、
二人して紙に穴が開くくらい確かめあった。
そんな状態が、2時間ぐらい続いただろうか……
その呪文を完璧に書き記した、僕とシンちゃんの「透明術入門」完成した。
と、おじさんが帰って来た。
僕たちは、なにかイケない事をしていたかの様に、
慌てて「五福星」のDVDを片づけると、
なんとなくジプリ作品を手にして茶を濁した。
そして翌日。
2時間目は体育の授業だった。
これが、僕の狙いだった。
体育の授業……しかも、今日からプール開きだ。
女子は勿論、女子更衣室で着替える。
僕は、女子更衣室に一番近い男子便所の個室に入った。
そして、「透明術入門」を取り出した。
僕は胡坐をかき、深呼吸すると静かに呪文を唱え始めた。
「………………。
……………………。
…………。
…………………………………………。
…………。」
呪文を唱え終え、静かに目を開く。
と、なにが変わったワケでもない。
だって、自分の目には自分の姿が見えている。
呪文は完璧なはずだった。
唱える時も、一度もかまなかった。
「あ、そうか。
自分の目には見えるんだったな。」
おじさんが帰宅して慌ててDVDの再生を止める間際、
あの登場人物がそんな事を言っていた。
「さすがに衣服は脱がないと駄目だろうな……うん、そうだな。」
僕は自問自答しながら、生まれたままの姿になった。
これで、まさに「透明人間」だ。
みなさんに、この雄姿を見せれないのが残念で仕方がない。
さ、いよいよ女子が脱ぎ脱ぎしている女子更衣室に突入だ。
憧れの祐子ちゃんの、大きいとは決して言えない、
あえて言葉にするなら「中乳」が拝めるぞ!!!
僕は、男子トイレから威風堂々と女子更衣室にむかった。
裸足で廊下を歩くのが、こんなに気持ちがいいなんて……。
僕の期待度を示す、ある肉体の一部分はMAXを示している!!!
何度も言うが、見せれないのが残念だ。
そして、女子更衣室の前に立った。
中からは、クラスメイトの女子の声が聞こえる!!!
MAX! MAX! MAX! MAX! MAX!
MAX FIRE!!!!!
僕はそのドアをそっと開いた!!!
ぎゃああああああーーっっっ!!!!
女子達の叫び声と共に、僕の人生は確実にあらぬ方向へと曲がった!!!
3日後……シンちゃんの人生も、僕の人生と同じ方向へ曲がったという……。

