もう、ネス湖に潜り続けて何年になるだろう……。
全長35km、幅2km、水深は最大で230mだという。
そして、なによりこの湖が有名な理由は、アイツがいるからだろう。
そう、ネッシーだ。

ガキの頃、テレビのスペシャル番組で紹介された1枚の写真が、
俺の、そう渡辺和太の人生を変えた。
かの有名な「外科医の写真」だ。
確かに、世に出回っているネッシー写真は沢山ある。
目撃談もはいて捨てるほどある。
しかし、ほとんどが偽物だろうし、信頼出来るモノでない。
俺に衝撃を与えた ※「外科医の写真」すら、怪しいってことは百も承知だ。

でも、ネス湖には古くから怪物の伝説がある。
また、写真や目撃談も、中には本物がある筈だ。
だから、俺はこの目で確かめたいんだ。
真実を!!!
それだけでいい。

どうせ写真を撮影しても偽物扱いされるだろうし、
目撃談を語っても信用するのは怪しげな研究家だけだろう。
俺だけが、俺だけが俺の目で真実を確認出来れば、それだけで満足だ!!!
その為だけに、アイツを追い続けている。
馬鹿と思われるかもしれないが、
漢の浪漫を追い続ける姿はそういうものだろう。

思えば、人見知りで、方向音痴で、英語の成績はいつも「2」だった俺。
そんな俺が高校を卒業して、誰にも秘密で単身イギリスに乗り込んだ。
あれから三十数年……もう今年の秋で50歳丁度だ。
そろそろ結果を出したい。

が、現実は厳しい。
俺の肉体は厳しい自然の中をサバイバル生活だけで
過ごしてきたせいでもうボロボロだ。
洞穴での生活、ギリギリの栄養、冬場でも体力限界までの潜水……
無理を続け過ぎた。

そう思えば、この年齢まで大きな怪我も病気もせずに、
たった独りで生きてこれたのは奇跡だと思う。
その奇跡をもたらしたのは、俺のアイツへの情熱だけだ。
しかし、たまに目が霞む……視界も狭くなってきた感じもする。
それに、今年に入ってから吐血が続いている。

俺は、夕日の映える湖に叫んだ。

「オイ、ネッシー!!!俺にはもう時間が無い。
これだけ潜ってんだ!
ネッシーよ!!
一目でいい。
俺の前に、その姿を見せてくれ!!!
わかってんだろ???俺がいることを!!!
俺が何十年もお前を捜し求めていることを!!!
俺はお前が好きだっ!その一心でここまでやって来たんだ!!
ネッシーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」


そして、50歳の誕生日をむかえた。
両親も80近い年齢になっているだろう。
妹も47歳か。
……昨夜から吐血が酷い。
もう、体中の血を吐いてしまった……そんな勢いだった。
もしかしたら、今日が最後の潜水になるかもしれない。

俺は、潜った。
潜り続けた。
朝、昼、晩……潜り続けた。
視界は無いに等しい。
手足も痺れてきた。
すべての感覚が無い。
もう、限界だ。

その時だ!
その時だった!!
何かが俺に近付いて来た。
そして、見た……いや、見た様な気がするんだ……アイツを。
デカイ身体、長い首、背中のコブ、そして大きなヒレ……
霞んで視界の狭くなった俺に目の前にアイツが……。
アイツが、俺を見詰めている……
そんな気が……し…………た……ん………………だ。


※            ※            ※

イギリスの某地方新聞
その片隅に小さな記事が掲載された

 

 

 

 

『マラーゴック湖にて

日本人男性の水死体発見!!!』

イギリス・ネス湖
その周辺には、規模こそは違えどもネス湖と同じ様な
細長い湖がたくさん点在している
その事実を、多くの日本人はほとんど知らない



※「外科医の写真」は1934年4月ロンドンの外科医(本当は産婦人科医)
のロバート・ケネス・ウィルソンが撮影した、
ネッシー写真でも一番有名といわれる写真で、
研究者の間では、当時から偽物扱いをされていた。
そして1993年11月、ウィルソンの関係者、
クリスチャン・スパーリングが亡くなる直前に偽物であるとカミングアウトした。
日本でも大々的に報道され
「ネッシーは存在しない」という風潮が根付いてしまった。