僕……以前、
この「漢的恐怖劇場」に登場したことがあるんですが、
(前回のエピソードはこちら)
今回は匿名でお願いします。
一応、当時は漫画研究会に所属する
中学二年生だったのですが……。
まぁ、実のところ何がどうなったのか……
僕もよくわかってないんです。

事の発端は、あの日の夜。
僕は学校の七不思議「踊り場の鏡」
を検証しようと、校舎に忍び込んだのです。
本当なら、友人のIくんと一緒だったのですが、
Iくんは、そう、早熟なIくんは
3年のK先輩(♀)とまぐわうからってドタキャン。

仕方なく、一人で挑んだのですが、
噂通り深夜の二時に踊り場の鏡から、
鏡の世界に引き込まれてしまいました。
ええ、「K先輩ってさ、ヤリマンだったよ!」
って、Iくんの電話の声を聴きながら……。

僕は、一生鏡の世界で暮らすんだろうと思っていました。
脱出の仕方なんてわからないし……
とにかく真っ暗で何も無い世界だったのですから。
時間も何もわからず、ただ、ただ、
チェリーボーイだけはなんとかしたかったと後悔していたのです。

ところが、どういうワケか、気が付くともとの世界に戻っていたのです。
場所は、自分の家の洗面所でした。
きっと、洗面所の鏡から元の世界に帰れたのでしょう。

父さん、母さんは僕を見ては驚き、泣いていました。
なんと、僕が失踪してから5年の月日が流れていたのです。
両親が当然の様に警察に捜索願いを出していたので、
警察に事情を話さないといけませんでした。

僕は正直に話しました。

夜の校舎に忍び込んだってこと。
Iくんの初体験が4組のHさんだったってこと。
Iくんが、3年のK先輩に誘われたんだってこと。
K先輩が、巨乳でヤリマンだったってこと。
その話に僕が勃ったってこと。
そして、「鏡の世界」へ行ったってこと。

ただ、Iくんがイケメンで、僕がいけてないってことは黙っていました。

でも、「鏡の世界」の件だけは
誰も信用してくれませんでした。
そりゃそうですよね、
子供でもそんな嘘言いませんよ。
僕はしばらく強制的に病院へ入院させられました

何を言っても信用されないので、
もう病院の先生や警察の言うことに頷いていました。
最終的に、僕は「家出」をしていたという事に落ち着きました……
ええ、無茶苦茶です。
警察は「鏡の世界」なんて非現実的な事を言う僕の一件を、
早く片付けたかったのでしょう。

病院も、「家出」に落ち着くと直ぐに退院となりました。
不思議なことに、近所中で僕の事をどうこう言う人はいませんでした。
勘ぐり過ぎかもしれませんが、
入院期間中になんだかの箝口令が近所中に敷かれたのかもしれません。

直ぐに、Iくんが遊びに来てくれました。
Iくんは、あの夜のK先輩との避妊に失敗。
中学に通いながら一児の父となり、
中学卒業後、即結婚して立派な社会人になっていました。

そう言えば、僕も中学は卒業という事になっていました。
でも、高校へ進学する頭も無いので、
退院後は父さんの紹介で小さな工場に就職しました。
初任給でチェリーボーイを卒業したのは言うまでもありません。

 

 

 

 

もとの世界に戻って半年……。
今になって、僕、思うんです。
何故、「鏡の世界」から戻ってこれたのかなって。

実は、強制的に戻されたんじゃないでしょうか???
「鏡の世界」にも一定の法則というか、
そういう何かがあって、
僕はその基準に満たなかったんじゃないでしょうか???
チェリーボーイだったからじゃないでしょうか???
Iくんみたいにイケメンだったら、
「鏡の世界」でもうまくやっていけたんじゃないでしょうか???
勃ってたからじゃないでしょうか???……ってね。

とにかく僕は、これからは普通に生きていきたいと思っています。
ただ、コレだけは言っておきます。

不思議な世界は、
きっとキミの直ぐ側にも……
あるんだよ。



大和田隆雄 怪奇現象シリーズより