「作家」にも色々あります。
小説家、脚本家、放送作家、映像作家、作曲家、彫刻家、漫画家等など。
共通することは、何もない所から人物や物語など色々な世界を創造し、
その作品上の「神」となる存在だということです。
また、その職業柄、あらゆる事象に敏感であり精通しておくために、
常日頃からアンテナを立てて情報を得る能力に長けていなくてはなりません。
と時折、そのアンテナに常識では
考えられないものが飛び込んでくる時があるようなのです。
今週は「作家」と呼ばれる特殊な職業の方たちの
体験した出来事を紹介したいと思います。
* * * * *
私は小説家・矢代久美。
高校在学中、某出版社の新人コンテストで最優秀賞を獲得してデビュー。
デビュー作「夢追い人」はいきなりベストセラーでロングセラー。
精力的に書き続け、芥川賞、直木賞……もうありとあらゆる賞を総なめにしてきた。
それに、それぞれが映画、TVドラマ、舞台、
漫画、アニメーション、ラジオドラマにもなっていて、
そのすべてを私自身、把握しきれていない。
それに、今年はハリウッドでの映画制作が決定している。
私の本棚には、そんな輝かしい作品がズラッと並んでいるのだ。
現在、五十路の仲間入りを果たしたけど、創作意欲は年々増すばかりだ。
でも、「いつかは書けない日がやって来る」……そんな不安が常にあった。
そしてその不安がチラチラと現実となって見え始めてきた。
アイディア帳もしばらく活用していない……ネタ切れ???
書こうという意欲はあるんだけど、アイディアが枯渇状態なのだ。
その事は、担当の編集者やもろもろの関係者には黙っている。
ただこんな事は今回に限った事じゃない。
何年かおきにそんな行き詰まった状態になって来たものだ。
でもその度に、新しいジャンルにチャレンジして成果をあげて来た。
それは奇跡だったのかもしれない。
性格的に同じジャンルを延々と
続けるタイプじゃなかったのが功を奏したのかもしれない。
でも、もう新たなジャンルは見当たらないのだ。
ロマンス、ミステリー、アクション……すべて書き尽くしたのだ。
究極の、まだ誰も手垢もついていないよな斬新なジャンル・作品を書かないと、
私の作家としての、いえ、私自身の存在価値が無くなってしまう。
全身全霊をかけてこれが
最後の作品となっても構わない、それほどの作品を書きたい。
そんなある朝のことだった。
いつも通りパンとコーヒーを口にしていると、
天からひとつのアイディアが降りてきた。
粟立った。
知らず知らずに自分を抱きしめていた。
武者震いさえした。
究極だ!
こ、こんな作品、誰も書いたことが無い筈……いや、絶対にない!!
だって斬新過ぎる!!!
私はパンとコーヒーをそのままに書斎へ走った。
そして、ワープロソフトを立ち上げた。
今、頭にある文章を早く打ち込まないともったいないっ!!!!!
……そんな勢いだ。
出版されるまでしばらく時間が掛かるだろうけど、
今これを読んでくれている方にそのさわりを少しだけ紹介するわ。
心して読んで……私の最新作、また賞をとってしまうだろう絶対的な最新作よ。
「悪魔の私」
私は悪魔だ。
きっとそうだ。
高校を出るまでは優しいヒトだったのに、会社にはいってから
なんだか凄い酷いことをするようになった。
課長の飲むお茶にいつもゴミとか入れてるし、
生理の時じゃなくても課長の顔を見るとすんごくイライラする。
「最近さあ、絵里の顔ってなんか悪魔的だよね。」
おんなじ職場の朝美にはこんなこと言われちゃうし、
昨日も悪魔っぽいのが出てくる夢見たし。
もう間違い無い。
…………
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