やめない理由 | しなこの理由

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40代女子の心のお話

ペタしてね


6年前、事務所に出入りを始めたころ、時々すれ違うプロデューサーの高幡は、大柄で不機嫌、おっかない印象だった。そんな4年後、偶然、新しいプロジェクトで高幡のチームに入ることになった。やばい・・・苦手だ。でも、デザイナーのさおりさんの夫だと聞いて、思いなおした。


さおりさんはフリーランスのデザイナーで、前に仕事をしたことがある。30代半ばなのにどこか若い蕾のようにかたい、早熟で尊大な少女のような人だった。端っこのとろけた茶色い目をしている。高幡は、さおりさんの趣味に合うくらいだから、悪い人ではないのかもしれない。


後に日常茶飯事になる彼の自慢話によれば、妻はとびきり上等な女で、一流のマスコミに15年も勤務して、フリーになってもその仕事を任されているし、貯金も数千万。古風で育ちが良くて美意識が高い、自立していて仕事ができて、女特有のこだわりや面倒くささがなくて理想的、というわけ。趣味のピアノもプロクラス、高幡との間には娘もいる。


口ぶりから、そんな上等な女オンパレードみたいな女が、最後に彼を選んだことに3年たって、まだ感激しているのがわかる。そんな話題の主語は「おれとさおり」なんだから。彼は彼女のアイデンティティに映して自分の価値を確認している・・・力まかせじゃ外せない、しっかりはまったレゴブロックのようだ。


いつも、そのスペシャルな理想の女と比べられているような気がしてしまう。本当のところ、彼が考える以上にさおりさんとは比べようがない。イキモノとしてのテクスチャーもスケールも違う以上優劣などつけられるはずがない。



高幡とは、もう一年半仕事をしていて、物書きだから、仕事を見ていれば人間性はまるわかりだ。だからもう、私の本質などわかっているのではないかと、楽観していた。


評価がこうまで低いのなら、フリーランスとしては、現場を捨てる判断をすべきだ。プロジェクトがうまく進んでいないのは、私のせいじゃないのだ。