「瀬戸際の期待」
蕭々と尾を引く鳥の音(ね)
振り向けば
花薄(すすき)ほのかに揺蕩い
穂影を重ね人と見紛う
絹糸(けんし)の風のすらり渡る野の広さ
にひとり
待つ人は来ず
歪められた約束に降る白髪(しらかみ)の
原一面に置き去られ
深まり違(たが)えた秋口
解(ほと)く支度も
欺くものも
踏みゆく方位もみあたらず
爪先立つまま
思いは荒みあぐね
佇みつくす葬り損ねた刻だけが
階(きざはし)の欠けたぶん頑なな
塔に聳える
待つ人は来ず
玻璃ささくれる頂へ
綾に巣くう金の陽光
はらっても
はらってもくりかえし
遠近(おちこち)に
早霜を踏む足音が
解れ髪の心細さでからみつく
熱(ほとり)病む耳朶を撫で
風の靡く度
綿毛の枢(とぼそ)を静かに開き
遅ればせ紫苑の香る 幻
爪先立つ足許を
染まり忘れた朽葉のくすぐり
穂影の波を 重ね
重ね
未だ
瀬戸際の心持ち覚めやらず
花薄芳馥とむせかえり
早秋が降りしきる
-'84,12,-