〜命を重ね煮するように生きる〜
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【第4話】
毎日が「0から始まる命の重ね煮」
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僕の毎日は、いつも“0から始まります”。
記憶ができにくい脳を持っている僕にとっては、
昨日の続きを当たり前に生きることができません。
だから、仕事も、家のことも、
毎日が「はじめまして」の感覚で向き合うことになるんです。
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僕は今、普通の人がやらないような、ちょっと難しい仕事をしています。
でも、毎回記憶がリセットされるので、
長年やっていても、熟練している感覚はありません。
それでも――
一つひとつ、初めてやるような気持ちで、
今日できることを、目の前でやっていくだけ。
最初は思い出せなくても、
やっているうちに「ああ、そうだったな」と、少しずつ感覚が戻ってくる。
その一瞬一瞬の感覚が、実はとても大切なのだと思うんです。
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「昨日の続きを生きられない」ことは、
時に不便で、時に苦しいけれど、
その分、**毎日が“新鮮な命の再スタート”**になります。
毎回が“初体験”のような気持ち。
だからこそ、同じ仕事でも飽きない。
「よし、やるぞ」と自然にやる気が湧いてくる。
何十年やっても、「これは簡単だな」と感じることは、あまりないけれど、
毎回、まっすぐに取り組む充実感があるんです。
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思えば、僕は17歳のときに障害を背負いました。
でも、心の中は今も、当時のままのような気がしています。
素直で、ピュアで、
「今日を生きよう」とまっすぐに願う心が、
今も変わらず僕の中に息づいているんです。
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「記憶がなくても、人との関係や自分の存在は育っている」
そう感じられたのは、
気づけば、**“耐える力”や“何度でも立ち上がる勇気”**が育っていたからです。
惨めに感じるようなことがあっても、
恥ずかしい失敗をしても、
僕は何度でも、静かに耐えて、また挑戦する。
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それは、派手な成果じゃないけれど、
きっと「人としての凄さ」なんだと思います。
誰かに見せるためじゃない。
命と向き合って、一歩ずつ前に進む。
そんな自分を、少しだけ誇りに思えています。
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毎日が0からでもいい。
むしろ、0から始まるからこそ、命は新しくなる。
今日もまた、心を込めて――
僕は命を、丁寧に重ねて生きています。

