S村の海は枯れていた。
隣のT町までいくと網ですくえるぐらいに魚が泳いでいるのだが、S村近辺はまるで何かに呪われたように、魚がいない。そこで村の有権者たちが集まり、打開策として作り上げたのが「見返りさん」だと言われている。
何に近いかと言われれば、人身御供がたぶん一番近い。
けれど今の時代、さすがに人が一人いなくなると何かと不都合が多いので、代表になったものが身体の一部を差し出すという具合に取り決めがなされた。
『こんな大事なものを捧げたのだから神も自分たちに何かしてくれるべきだ』という真に自分勝手な理論から作り出された神は、やがて名前も「見返りさん」という何のひねりもないものに落ち着いた。
人身御供と異なるのは、神が見返りを求めるのではなく、人が求める点だ。
偶然かどうかはわからないが、「見返りさん」の効果はあった。
指の見返りにサンマを。
足の見返りにカレイを。
眼の見返りに鮭を。
効果があったと知れば、より多くを求めるのが人間である。
やがて、S村に熊が現れるという噂が流れた。
現在、熊に食われたと報告された人間は30人ほどになり、村の特産品に蟹が加えられた。