ウクライナの謎:「ノーム」と「シェフチェンコ」 | 黄昏オヤジの暴発日記

黄昏オヤジの暴発日記

退職後の第二の人生を手探りで進むオヤジのモデルガン+独り言。黄昏に染まりながら気まぐれに発火しつつ、この世の由無し事に毒を吐く(令和4年5月20日・タイトル一部修正)

 少々久し振りの銃器、「珍銃」ネタである。
*お断り(その一)

 当方のブログ、ここしばらくプチュ忌避系の内容が多いせいか、同様の懸念を持つ皆さんがお越しになるようになった。当方も、せっかく来ていただいたのでお礼ではないが、そんな皆さんのブログを拝見させていただくようにしている。すると中には、以前ならば当方のところなど絶対お立ち寄りにはならなかったであろう「まともで善良な」の方々をお見掛けするようになった。

 しかし今回は、オヤジ本筋の銃器ネタ。なので今回はプチュ系の記事を期待の方はご遠慮をされた方がいいと思う。もちろん読んでいただいて結構であるが、きっと意味不明で少し不愉快になられるかもしれませんので…
*お断り(その二)

 時間があると「珍銃」ネタを探しにネットを狩猟する。見つかるとできるだけ情報を収集し、評価というと偉そうに聞こえるが、自分なりの考えを添えて紹介してきた。概ねそれで何とか格好がついた。ところが今回は難物であった。海外のサイトで見つけて半年余り、結局謎は残ったまま。どうにも、歯がゆくもどかしくむず痒く、脳みそと好奇心が欲求不満で隔靴掻痒なのである。この満たされぬ思いを自分一人でしまい込んでおくのは精神的に良くない。そこで勝手ながら皆さんと分かち合うことにさせていただこうという趣旨。どうかこの思い、共有願いたい。


 そんな今回のモデルはいずれもウクライナ製。
 まずは前座の「ノーム」から。


 「ノーム・アサルト・ピストル」は1995年にキエフ特殊装備設計局(KB-S)によって設計・製造された試作拳銃。ちなみに、キエフ(今ならば「キーウ」)特殊機器設計局とは、1993年3月に当時のウクライナ保安庁の支援を受け、特殊部隊と正規軍の双方に提供する扱いやすい高出力の武器の製造を目的として設立された組織。幾種類かの興味深い武器を製造しながらも2006年に解散している。

*これがウクライナ製折畳み式ピストル「ノーム」。バランスは悪いですね。サイドに見えるレバーはセイフティなのか折畳み・展開時のロックレバーなのか分かりません。

 見てのとおりこれはとても珍しい折畳み式のピストルとなっている。表面の処理はよろしくなく、どこか地下で作られたような粗製拳銃のような印象を受ける。しかし、上で紹介したとおりちゃんとしたプロが設計したもの。

 諸元であるが、口径は9×18マカロフ弾、マガジン装弾数は20発で銃の重さは1,180グラムということは分かっているが、それ以外の全長や全高など大きさは不明。見た感じでは、展開した状態でほぼフルサイズくらいの大きさだと思う。

*この写真から内部にボルトがあるのがうかがえる。ハンマーらしきものが見えないのでストライカー方式だろうか。確かなことは何も分からない。

*右側はさらにのっぺらとしている。マガジンを装着したまま折り畳めるのが実用的ですね。折り畳んだ状態で「大きなホッチキスです」と言ったら通用するかも。

*下は商品パンフレットのようです。一番上のサブマシンガンも折畳み式です。名前は「ゴブリン」といいます。

 

 ここに紹介した写真が残っているだけで内部の構造は不明。わずかにスライドではなくボルト作動だということがうかがえるだけ。使用するのがマカロフと同じ9×18弾だからブローバックなのではと考えられるが、軽そうに見えるボルトだけで安全に動いたのかとちょっと疑問も残る。折畳み式なのだから耐衝撃性でも劣るだろうしなぁ。撃発方式もハンマーなのかストライカーなのか判然としない。バレルの先端には外周にネジが切られ円形のパーツがかぶせられているが、これを外して代わりにサイレンサー(サップレイサー)を装着できるそうだ。銃本体は折り畳んで隠し持つことができ、いざとなれば銃口にはサイレンサーとくれば、用途は想像がつくというもの。折り畳んだ状態から展開し射撃姿勢に入るのも容易だったらしい。「007」の「Q」に見せたら「俺ならもっとうまく造れる」というかもしれないが、これで実用には事足りるのだろう。

 折畳み式のため、製造が面倒でコストが高そうに思えるが、実際は大半が単純なプレス加工だけですむらしくコストは低いという。ただ、工夫を凝らしたノームであったけれど、結局採用にはならなかったらしい。ニーズがそれほどなかったということなのだろうか。今ならば状況が違うだろうが…。内部構造もそうだけれど、折り畳んだ状態から展開して射撃するシーンが観たいなぁ。

*こんなものを見つけました。実銃なんでしょうか?スライドストップがありませんね。実弾を撃ったらとっ散らかりそう



 さて、ノームよりもさらに分からないのが「シェフチェンコピストルPSh-4(ウクライナ語表記だと「ПШ-4」)」とその周辺モデル。

 まず外観から異様である。まるで鎧を着せたかのようにやたらとゴツゴツとしている。バレル周囲のリブなど機関銃並みである。触ったら痛そうだし、ほこりやゴミが入ったらとても掃除しにくそう。そしてトリガー下にあるもう一つのトリガー状のパーツ。グリップセイフティなのだろうか、それともほかに役割があるのか…。何か既存のピストルをベースに、趣味悪く仕立てたC級SFの安価なプロップのように見える。とにかく記憶には残るスタイル。

*下は9ミリ口径のPSh-4モデル。やたらゴツゴツしています。トリガーの下にもう一つトリガー状のパーツがありますね。またトリガーガードの形状もおかしいです。見たこともないようなパーツが付いていますが役割は不明です。このピストル、すべてにおいて謎が多いのです。

*こちらは45口径だと思われるPSh-45モデル。少しすっきりしましたが、トリガーガードが上下二つになり異様さは相変わらずです。

 このピストルも先の「ノーム」と同様に、キーウ特殊装備設計局で製造された。設計したのは、ヴィクトル・シェフチェンコという人物。1990年代後半、旧ソ連の当時極地航空パイロットに配備されていたマカロフピストルの後継モデルとして開発されたらしい。不時着時に遭遇するかもしれない北極狼相手にマカロフでは歯が立たないため、より高威力の銃が求められたためという(本当か?)。それが、ソビエト連邦の崩壊に伴い要求されなくなり、特殊部隊のカテゴリーに移されたという。当時の旧ソとウクライナの関係を考えればそんなこともあったのかもしれない。さらには、アメリカの連邦捜査局、つまり、あの「FBI」の採用拳銃のコンテストにも参加したという話もある(申請はしたが実際に参加はしていないという説が有力)。とにかく、形もその出自にも不思議が多い。
 さて、その諸元であるがそれ自体も不明なところがある。
 おそらくベースモデルのPSh-4が9ミリ口径であるのは間違いないが、使用カートは通常の9×18PMという通常のマカロフ弾のほか9×18PMMという強化版のマカロフ弾、それと通常の9×19パラべラム弾となっている。それぞれ別のモデルなのか一つのモデルですべて使用できるのか不明。マガジン装弾数も15発という情報と16発という情報がある。全長172ミリ、バレル長142ミリ、全高138ミリ、重量900グラム。
 PSh-45という45口径モデルの場合は装弾数11発。全長218ミリ、バレル長182ミリ、全高149ミリ、重量1160グラム。
 この他にPSh-18(018という表記もあり)というモデルがあるが口径9ミリという情報と45口径という情報があるし、PSh-921というモデルに至っては口径9ミリで9×19弾と9×21弾のいずれも使用可能となっている。本当なんだろうか?

*下のモデル名は不明です。ウクライナ語の分かる方、何が書いてあるのか教えてください。

*イラストですが、これがPSh18、その次がPSh921。921のスライドには「9×19、9×21」と刻印が表現されています。実際にそうならば両方使用できるということでしょうか。ケース長が違うんですけどいいのかな…。謎です。

*バリエーションはいろいろあるようですね。二つある全長の表記の短い方はバレルの長さです。異様に長いです。そのわけは下で説明します。

 なお、全長に比べてバレルが異様に長いが、これは後で説明する特殊なシステムによる。

 それでは順に見ていこう。

 

 バレルリブ

 まず機関銃も顔負けのバレル周りのリブ。これは、バレルの素材がアルミ合金で過熱しやすいために放熱用として設けられているらしい。またこのおかげでバレルの振動が早く収まるという説明もあった。本当か?

*実射シーン。エジェクトされたカート(左排莢)が写っています。射手はシェフチェンコさん自身ではないかと思います。

動画シーンはこちらからリンクをたどっていただければご覧になれます

 


 トリガーの下のもう一つのトリガー
 トリガーの下に位置する第二のトリガー状のパーツの役割については、ネット上ではいろいろ説明があるのだが今一つ(二つ)分かりにくい(H&K・P7のスクイズコッカーみたい)。

 セイフティを解除するとともに、ハンマーかストライカーをハーフコッキングの状態にし、素早い射撃を可能にする仕組みかな、と思うがよく分からない。なお、押し込んだ状態でロックできるようだ。また、それを解除する仕組みがあり、そのスイッチがトリガーガードやグリップパネルに設けられているという。確かにトリガーガードにはスライド式の仕組みがあるように見えるし、右側グリップパネルには何かのボタンのようなものがある。ただ、マガジンキャッチにも思える。さらには、モデルによって形や位置が違っておりどれがそうなのかよく分からない。PSh-45の場合、下の段のガード内のパーツを前方に押すとマガジンが外れるのは確認できた。ほかは…、お手上げです。

 トリガーガード自体は簡単に外すことができ、本来の機構というかシステムはフレームではなくスライド内に設けられているという。そういえば打撃方式もハンマーかストライカーなのか分からない。横から見る限りハンマー状のものは見えないのでストライカーじゃないかなと思う。それにシングルアクションかダブルアクションかも不明。アメリカのサイトではダブルアクションとあった。トリガーの位置からは難しいようにも思うが、もしかしたら第二のトリガーが何らかの役目を負っているのかもしれない。あぁ、とにかく内部を見てみたいなぁ…。


 作動方式は「ホーン式」
 作動方式はガス圧利用のディレードブローバックなのであるが、その方式は「ホーン式」というらしい。はっきり言って「ホーン式」など聞いたことがなかった。おそらくマニアでも「ホーン式ディレードブローバック」と聞いて「あぁ、あれか」と分かる方はまずいないと思う。

 「ホーン」とは人名で、第二次大戦中のドイツの銃器設計者の一人であるクルト・ホーンという人物に由来する。大戦末期に、ホーン式ディレードブローバックシステムを採用した「ホーン・アサルトライフル」を設計・製造している。この人は、戦後あのヒューゴ・シュマイザーとともに旧ソ連に連行・抑留されたが、その際にはこの銃も押収されソ連軍に詳細に研究、評価されている。

*最前列、酒樽風のボトルを抱えにこやかに笑っているのがホーンさん。そのすぐ後ろ。向かって左から二人目の笑っていない人物があのシュマイザー氏です。旧ソ連での抑留時代の風景です。

*これが「ホーンアサルトライフル」。その下が「ホーンシステム」の心臓部。

 システム自体は、すごく簡単に言うと、「発射ガスの勢いを利用してピストンをボルトに強く押し当てて後退作動を遅らせる」というもの。

 このシェフチェンコピストルの場合も、二個のピストンが発射時のガス圧を受けてスライドに強く接触し、後退を遅延させる仕組みという。ただし、実際にどこにどんな形でピストンがあるのかははっきりしない。私は、チャンバーの下辺りに左右に一つずつピストンがあり、ガス圧を受けそれぞれが突き出しスライド内部に接するものと考えているのだが…。

 装填方法
 さて最も分かりにくいのが、カートリッジのマガジンからバレルへの装填方法。はっきりしているのは以前「19世紀末のマグナムオートと21世紀初めのコンパクトオート」で紹介した「マーズ」と「ブルパップ9(旧「XR9-S」)」と同様、マガジンからカートを後ろに引っ張り出し(あるいは押し出し)、それを上に持ち上げてバレルの中に押し入れるという方式であるということ(海外のサイトで「リバースローディング」方式という表現があったので以下これで統一)。

 ただし、その細かなシステムが分からない。マーズやブルパップ9はスライド操作1回でカートをマガジンから引き出しバレルに装填している。しかし、このシェフチェンコピストルに関して、海外の説明の中にはスライド操作が2回必要というものもある。実は、このモデルの実射動画があるのだが、その中で操作者が続けて2回スライドを操作する場面があり、あながち根拠のない話ともいえない。しかし、マーズなどがスライド操作1回で支障なく動いているのに、このモデルに限って2回必要とは思えない。私としては1回に1票を入れる。とにかくスライド内部の構造が一切不明なため、本当のところが分からずもどかしい。

 なお、作動を表すイラストも存在するがこれがまた怪しい。見れば分かるが途中でバレルが後退している。しかし実際にはバレルは動かないはず。写真で見ても動画で見てもバレルが後退するようなシステムには見えない。それに、ディレードブローバックでバレルが後退する必要などないはず。なので、私はこのイラストは誤りと考える。

*これがそのイラスト。2番目をよく見るとバレルが後退している。私、これはおかしいと思います。また、カートを前から押し出しているが、私はマーズやブルパップ9のように後ろから引っ張り出していると思います。

 

 なお、最初の諸元のところでも述べたが、全長に比べバレルがとても長い。これはリバースローディング方式の長所。メーカー側は同サイズの銃に比べてバレルは50%長くなると主張している。それはどうか分からないが使用するカートの全長分くらいは確実に長くなっているようだ。

*向かって左がPSh-4、右が45。下のカラーのものも45と思われます。


 スライドのホールドオープン(スライドストップ作動)
 通常の銃のホールドオープンは全ての弾薬を撃ち尽くした状態で行われる。しかしである。このシェフチェンコピストルの場合は、最終弾を残してスライドストップするのである。マガジンからカートが後ろに引き出され、バレルラインまで持ち上げられ、まさにこれから前進してチャンバーに装填されようかという段階でスライドが停止するわけ。射手は、次が最終弾でありマガジンはもう空であることが知らされる。そのままスライドストップを操作しカートをチャンバーに送り込み最終弾を発射するか、空マガジンを排出し新たなマガジンを挿入するか選択することになる。
 不思議に思うが実はこれは必然なのである。

 ホールドオープンは空になったマガジンのフォロアーが最上部まで上がった際に、スライドストップを押し上げることで行われる。通常の銃であればそれは最終弾が発射され、スライドが後退した段階。しかし、リバースローディングだと最終弾から一つ前のカートを発射しスライドが後退した際にマガジンから最終弾が引き出される。つまりマガジンは空となりフォロアーが最上部に達し、スライドストップが作動するわけ。そにため、最終弾を残した状態でホールドオープンする。お分かりか?
 実際のシチュエーションでも、通常の銃(スライドが前進する際にマガジンから前にカートを押し出す方式)であると、ホールドオープン状態で新しいマガジンを入れて解除すれば、スライドの前進に伴い新しい弾薬がチャンバーに装填されて射撃が継続できる。だが、リバースローディングであると全弾が発射されたホールドオープン状態から、新しいマガジンを入れて解除しても機構上新しいカートは装填されない。必ずスライドを操作しなければならないから、理に適っている。あ~でも面白い!たまらんですわ。

 エジェクトも個性的

 空カートは左側に排出される。ここもはっきりと分からないのだがエジェクターは無いらしい(エキストに関する記述はなかった)。射撃が行われスライドとともに空カートが後退してくる。同時に、下から次のカートが持ち上がってくるので空カートはそれに押し出されて外に排出されるようだ。動画で見ても左側に排莢されている。

 ただ、エキストを基点にエジェクターで蹴り出す通常の方法とは異なり、排出方向は安定しておらず勢いも強くない。設計者は、排莢の勢いが穏やかなことも長所であると述べている。

 ゴツゴツした異形の外観に、不思議な二つのトリガー、聞いたこともないホーン式ディレードブローバックにリバースローディングとくれば「珍銃」もここに極まれりというところだが、分からな過ぎる。

 残念ながら、ネット情報によるとシェフチェンコピストルは「組織上の問題と資金上の問題」から制式化、製品化されることなく消えたらしい。

 設計者のシェフチェンコさんはその後ウクライナでゴム弾を発射する装薬ピストル(そのような護身用銃のニーズがあるらしい)を数種類設計している。「PSh1T」というコンパクト拳銃はカートがマガジンからそのまままっすぐチャンバーに装填されるシステムになっている。これも面白い。

*下が「PSh1T」特殊なゴム弾頭を発射する装薬カートを使用する護身用ピストル。見てのとおりマガジンが通常のチャンバー部分まで上がっています。そのままスライドが前方に移動し、まっすぐカートをバレルチャンバーに押し込みます。なので装弾数は8発と見かけ以上に多い。これも探せば射撃シーンが動画であります。

*下はグレネードランチャー。これもかなりイケているデザインですね。映画のプロップにぜひ欲しいところです。

 また、RGSH30という名の大変コンパクトなグレネードランチャーの設計にも携わったらしい。ウクライナ国内では名の知れた銃器デザイナーのようだ。

 

 2020年5月頃、とあるロシアの銃器サイトに自らPShシリーズの情報を提供している。その後はどうされているのかは不明。ご無事であれば…

 

 今回も長くなった。では、また