「ランデブー」:伝説的ドライビング映像 | 黄昏オヤジの暴発日記

黄昏オヤジの暴発日記

退職後の第二の人生を手探りで進むオヤジのモデルガン+独り言。黄昏に染まりながら気まぐれに発火しつつ、この世の由無し事に毒を吐く(令和4年5月20日・タイトル一部修正)

 先日, ジャン=ルイ・トランティニャンのことに触れた際、「男と女」の監督がクロード・ルルーシュであることを思い出した。

 クロード・ルルーシュといえば「白い恋人たち」に代表されるような、洗練された美しい映像を得意とする映画監督という印象がある。これはよくタッグを組んでいたフランシス・レイの流麗な音楽の影響もあるだろう。

 しかしである。この方、結構過激なものも作っている。

 

 さて、中学時代映画坊主であった還暦過ぎのオヤジが、消え失せ行く記憶を必死に繋ぎ止めつつ勝手な憶測妄想を織り交ぜ体裁を整えた愚にも付かないトリビア映画ネタ。今回の題材は「車」。

 

 ご紹介するのは1976年に公開された「ランデブー(原題は「C'était un rendez-vous」)」という短編作品。題名を聞くと恋愛映画っぽいが違う。あえて分類するとカーアクション。映画史上最高のカーアクション映画という人もいるが、複数の車が路上でしのぎを削り、ぶつかり合うような類ではない。全編(といっても短いが)ただひたすらフロントに取り付けたカメラからの映像だけ。だから観客は車種も分からない。しかし、これが凄いのである。

 *昨年だったかWOWOWでも放映されたし、2016年にはデジタル版が公開されたし、いくつかの媒体でも紹介されているのでご存じの方はいらっしゃるだろう。しかし未見の方もいるはず。はっきり言って「これを観ずに死ねるか!」映像の一つだと思う。ちなみに私は20回は観たぞ!

 この映画、上映時間8分程度の短編なので筋らしい筋はない。フランス語の原題「C'était un rendez-vous」(ネット翻訳では「それは約束だった」となる)のとおり、恋人と待ち合わせの時間に遅れそうになった若者が慌てて早朝のパリの街をぶっ飛ばしたという程度のもの。

 

 初めて観たときはとにかく驚いた。そして、1970年代とは言えよくこんな危ないシーンが取れたなぁ、よくフランスの警察が許可したなぁ、と感心した。

 しかしである、実は無許可のぶっつけ本番ゲリラ撮影だったというから驚きも倍増である。

 観れば分かるが、赤信号は完全無視でスロットル全開、一方通行もなんのその(対向車はバンバン、ハイビームで向かってくる)、前が詰まっていれば頓着なしに対向車線に飛び込む、前方の車がウインカー出していても右から左からまくってガンガン追い抜く、脇道からバスが出てこようが歩行者が出てこようがお構いなし(歩行者、立ちすくむか必死に道を渡る)、大型車が前をふさげば歩道に乗り上げ回避(犬を散歩させていたマダム、犬ともども後ずさる)、ロータリーはスキール音全開でコーナリング、細い路地へもシフトダウン音高らかに全開突入、路上にたむろするハトには眼もくれない(ハト、必死で飛び上がる)etcetc

 煽る、蹴散らす、追い立てる、もうなんでもありの傍若無人であるが、それがまことに痛快無比。

 面白いのは、初代の黄色いトヨタ・セリカ(ノッチバック)を追い抜く際、ほんのちょっとスピードを落とし寄せていること。当時は、まだセリカが珍しかったので興味持ったのかな。なお、この映画の撮影時を1965年とする説明もあるが、初代セリカの発売は1970年からなので、撮影は1971年以降だろう。

 エンジン音は明らかにフェラーリのものと分かるので使われた車もそうなのかなと思うが実は違う。実際はメルセデス450SEL6.9(V8エンジンでDIN286馬力)を使用して撮影した。フェラーリだとどうしてもカメラがぶれてクリアな映像が取れないため、しっかり固定できるメルセデスにしたという話。

*450SEL6.9。初代のSクラス。音ではフェラーリに負けても、こんなでかい車が200キロ近い速さでルール無視で走ってきたら、それはそれで恐ろしい。

 しかし、メルセデスのV8エンジン音ではやはり寂しいので、編集の段階にフェラーリ275GTB(V12)のエンジン音で音入れしたらしい。

*275GTB。ノーズの長いタイプもあるみたいです。クラシックフェラーリっていいですね。

 確かにそれは大正解だと思う。エンジン音を聴いているだけで鳥肌が立つ。

 そしてなんと運転したのはクロード・ルルーシュご本人らしい!使ったメルセデスも自分所有のものだという。やるなぁ、おっさん(存命です)。

 あと、嘘かほんとか、撮影後、一度は警察に免許を取り上げられたがすぐ返してもらったという。

 周りの風景がきれいなだけ(凱旋門やコンコルド広場をはじめとするパリ市内の名所だらけ)に、猛々しいエンジン音とキレた画像が際立つ。

 

 ユーチューブで探したらちゃんとアップされていた。

 正味8分43秒、できるだけ大きな画面で、かつ、ボリューム最大でご堪能いただきたい。

C'était un Rendez-vous, 1976, Claude Lelouch (1080p 60p) - Bing video

 

補足:

①エンジン音を採ったフェラーリ275GTBもクロード・ルルーシュの所有車両だそうです。

②運転しているのはクロード・ルルーシュ本人なのでラストシーン、恋人である女性を抱きしめるのも当然ご本人。ちなみに女性は、当時恋人だったスウェーデン出身のグニラ・フリーデンさんですって。

③警官に免許証をいったん押収されたのは間違いないみたい。ただ、その警官がルルーシュのファンだったのですぐ返してくれたそうです。ホントか?

④カメラの固定方法。写っているのはルルーシュさんご本人。

 

 おまけ

 2020年、本来はF1モナコグランプリが開催されるはずだったがコロナにより中止となった。

 その日、5月24日早朝、モナコの街を封鎖し1台の車が疾走した。操るのはF1フェラーリチームの現役ドライバーであるシャルル・ルクレール、車は真紅のフェラーリSF90ストラーダ。

*シャルル・ルクレール。F1ドライバーの中でも超一級の技能の持ち主。生粋のモナコ人。

*これが実際に使われたSF90。ほとんど戦闘機ですね。

 これは、クロード・ルルーシュの「C'était un rendez-vous」へのオマージュとして撮影された。ルルーシュご本人も招待された模様。

 ご覧になりたい方は、下のアドレスで検索されるとよい。オフシャル映像が見つかる。これが本編であるかは承知していないが、一端は感じられるはず。
Ferrari SF90 Stradale il pilota di Formula 1 Charles Leclerc la guida nel Pricipato di Monaco

 

 お楽しみ、お楽しみ