北欧にフィンランドという国がある。一般的には、サウナと携帯電話のノキアで有名だと思う。
オヤジ的にフィンランドと聞いて思い浮かぶのは、キミ・ライコネンをはじめとする多くのレーシングドライバーと何度観ても飽きない滋味溢れる映画「カモメ食堂」、そして「スオミ短機関銃」なのである。
先日、衛星放送でフィンランド製の「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」(原題「Tuntematon sotilas(無名戦士)」)という戦争映画を観た。なんの予備知識も無く観たのだが、引き込まれた。
第二次大戦当初、フィンランドとソ連の間で行われた「継続戦争」を題材としたもの。2017年にフィンランドで制作・公開され同国史上最もヒットした映画だそうだが、素人目にもそれが理解できる素晴らしい映画だった。ただ、映画の中味やその背景については各人が直接触れるべきと思うので省く。
オヤジとしては、なんといっても「スオミ」なのである。
今から40年以上も前、旧「Gun」誌上で、北欧はフィンランドという国にスオミという変わった名前の優秀な短機関銃があると知った。それから幾星霜。今回、映画の中で初めて見た正式名称「スオミKP/31短機関銃」(この銃はサブマシンガンではなく、あくまで短機関銃なのである。)。これが渋い(^_^)!
重・軽機関銃ならいざ知らず、短機関銃では極めて珍しく、戦闘下での迅速なバレル交換を前提として設計されている。本体右側のマガジン挿入口前に小さなレバーが有り、それを90度回すとバレルジャケットとバレルを取り出せる。やけどに注意しなければならないが実に簡単。兵士は各人が1本以上予備バレルを所持していたというから完全に実用として機能していたのだろう。
マガジンは20連、36連、50連のボックスマガジンのほか71連のドラムマガジン。中でも50連は極めて珍しい複々列弾倉となっている(^^)b。スペクターM4よりも随分前に実用化されていたようだ。上記の映画においても、画面上で太いマガジンがはっきり視認できる。複雑な構造なのにちゃんと戦場で機能したのだろうと思うと大変興味深い。また、71連マガジンも優秀であったらしく、後にソ連はPPSH41用ドラムマガジンとしてコピーしている(というか本体設計そのものに大きな影響を与えている)。
ボルトコッキング用ハンドルは独立しており射撃中は動かない。ハンドル自体はレシーバ後端のストックと接する辺りの右側に突き出している。なかなかに手の込んだ作りである。
さらには、レシーバ全体がエアバッファーとなっており、後端のキャップを回転させそこに設けられた空気孔を調整することでボルト後退スピード=発射速度を変えることが出来たらしい。映画の中でも戦闘射撃シーンで、兵士がキャップを回転させる仕草が何度か観られた。
ファインランドが生んだ人類史上最強のスナイパー、「シモ・ヘイヘ(同軍兵士・1905~2002)」は、同時にこのKP/31短機関銃の名手でもあり、「継続戦争」に先立つ「冬戦争」において、この銃で未公認ながら500人以上のソ連兵を殺したといわれている。これとは別に、シモ・ヘイヘは愛用のモシン・ナガンM28を使用した狙撃による公式確認戦果542人を誇る。そうすると、この人物はKP/31による戦果を含め1,000人以上のソ連兵を殺害したことになる(◎_◎;)。当時、ソ連軍はシモ・ヘイヘを「白い死神」と呼んで恐れ、大砲やカウンタースナイパーを用意し、その抹殺に血道を上げたらしいが当然だろう。しかしながらご本人は冬戦争の終戦間近に重傷を負い戦線を離脱したが回復、天寿を全うしたらしい。
フル装填で7キロ以上と重いのが欠点であるが、反動が少なく命中精度は良かったという。YouTubeで実銃の射撃動画があるが、フルでも命中率は高そうな感じだった。劣勢ながらフィンランドがソ連相手にしのぎきることが出来た要因の一つでもあるという。
メカニズムも、またそれにまつわる逸話もまことに興味深い短機関銃である。
ちなみに「スオミ」とはフィンランド自体を指す言葉だそうだ。
ハドソンさんもPPSH41などではなく、こちらをモデルアップしてくれれば良かったのに・・・(良く似ているがスオミの方が数倍格好良い)。
なお、この映画にはこのほかフランス製の「ショーシャ・マシンライフルM1915」という半円形の弾倉を装備した軽機関銃も登場している。見るからに壊れやすそうな蚊とんぼみたいな銃であるが、これも珍銃の部類に入ると思う。
映画の方もまだ新しいので視聴するのは比較的容易。映画自体も面白いし、珍しい銃にも会える。普段あまり縁の無い北欧の歴史を知るきっかけにもなる。興味があればどうぞ。
PS 「カモメ食堂」は絶対にお勧め。←注:邦画