アラゴン州のテルエルは、スペイン中央部の人口35000人ほどの街です。
街の中にはムデハルと呼ばれる、レコンキスタ後スペインに残ったイスラムの職人たちによって作られた美しい教会がたくさん残されています。
(ムデハルとは『残留者』という意味で、彼らによって作られた建造物や装飾をムデハル様式と呼んでいます。)
テルエルで実際にあった物語、『テルエルの恋人たち』はスペイン人なら誰でも知っている、悲恋の物語です。
スペイン版『ロミオとジュリエット』と言えば分りやすいでしょうか。
今から800年も前のお話です。
主人公の若者は ディエゴ・マンシラ。
彼には幼馴染みの女性 イサベル・デ・セグラという恋人がいました。
没落した貧乏一族の息子 ディエゴと、裕福な家庭の娘 イサベル。
当然、イサベルの父親は2人の交際に大反対。
ディエゴを遠ざけるために、イサベルの父親は彼に条件を出しました。
5年の間に、お前が娘を充分に幸せに出来るだけの富と名誉を手に入れることができたなら、その時は娘との結婚を許してやろう、と。
ディエゴは、5年後にきっと多くの富と共に戻って来るから、信じて待っていて欲しい、とイサベルに告げ、テルエルを後にしました。
5年後、約束通りの富を蓄えて故郷に帰って来たディエゴは、イサベルの結婚を知らされます。
イサベルは、父の選んだ名家の男とまさに結婚させられたばかりだったのです。
それでも、諦めきれないディエゴはこっそりイサベルに会いに行きました。
しかし、人妻となった自分には、ディエゴのキスさえも受ける資格はないと、彼を拒んでしまいます。
彼は、悲しみのあまり、その場で倒れ、息を引き取ってしまったのです。
ディエゴの葬儀の後、姿を消したイサベルは、翌日 彼の死体に縋って息を引き取っているところを発見されました。
ふたりの深い愛を感じた遺族たちは、せめて死後の世界を共に生きて欲しいと、ふたりの遺体を、一緒にサン・ペドロ教会に埋葬したのでした。
テルエルにはサン・ペドロ教会以外にも、美しいムデハル様式の建物が多く残されています。
ムデハルの職人たちによって、西欧とイスラムを融合させた見事な新しいムデハル様式が完成したのです。
格天井と呼ばれる枠のひとつひとつには、当時の暮らしが窺える絵が施されています。
決して華美ではなく、しかし繊細で美しいムデハルの建築。
イスラムに支配され、またイスラムからキリスト教徒が国土を奪還してきた、レコンキスタという歴史の中から生まれたムデハルの建築を目にするたびに、イベリア半島の長く苦しい戦いの歴史を考えずにはいられません。
因みに、ふたりの悲恋の物語は、その後小説やオペラ、映画にもなりました。
エディット・ピアフが歌う『テルエルの恋人たち』の主題歌
http://www.paroles-musique.com/paroles-Edith_Piaf-Les_Amants_De_Teruel-lyrics,p95295