
騒々協奏曲【後編】①
「彼女(メヒ)はヨンが小さい頃から通っていた道場の親族の娘らしく、ヨンがテコンドーをやめた後も道場、大学で練習をし国代表になったらしい。
今は、引退し後輩達の指導をしつつテコンドー協会の為に活動をしているとか。
・・・あの、どうして俺に聞くんですか?」
「チェヨンさんに直接聞けないからじゃない。貴方だったら詳しく知っていると思って」
――・・・確かに、知っているし、ヨンがテコンドーをやめ一時荒れていたのも知っている。
それよりも、いきなりユさんが来たのは一体・・・?
平日の昼間に突然結婚相談所にウンスがやって来た。
ヨンと食事をしたのは知っていたし、あの後ヨンの浮かれ具合に上手くいったのだと思っていたアンジェは、鼻息荒く入って来たウンスに慌ててしまった。
ところが、この間の会社の不手際を責めに来た訳でも無くヨンから聞いた昔話の真相をわざわざ確認しに来たという。
ウンスは病院から持って来た雑誌を広げ、メヒのインタビュー記事をアンジェに見せるとどう思います?と尋ねた。
「・・・あー、多分今のヨンをどこかで知ったのではないかと」
「まぁ、ネットで検索したらチェヨンの名前は色々出て来ましたから。財閥の御曹司なんて皆気になりますものね」
と、自分も調べてしまった事も白状してしまったウンスだったが、再セッティングされた身としては言い訳には出来ると開き直っている。
それよりも、この記事にウンスは腹立っていた。
「この数年間チェヨンさんに連絡は来ていたんでしょうか?」
「いや、無いね。あったら彼奴の機嫌が悪くなっていたから」
「でも、幼なじみで仲は良かったんですよね?」
「・・・まあ、悪くは無かったんだと」
――・・・だから、裏切られてショックだったのだろうが。
数年前のヨンの何もかも諦めた様子はアンジェもよく覚えている。
大学でも優等生で有名だったヨンが1人梨泰院を彷徨いている姿を見つけ、驚き過ぎて思わず声を掛けたのが始まりだった。
バーやクラブを目的も無くただはしごしていたと言い、彼が打ち込んでいたテコンドーを聞くと沈んだ雰囲気のまま出来事を語り出し、
『代表常備軍を辞退した』
の言葉に彼がかなり傷付いた事がわかった。
今まで飲まなかった酒や夜遊びをする事で、気分が晴れるのならと暫く様子を見ていたが、ある日顔に痣や傷を付け大学に来たヨンにアンジェはいい加減にしろと説教をした。
すると、また数日して彼は普通に大学に来る様になったという。
「少し前に俺が会社の社長になるのが夢だと話していて、自分もそれを立ち上げたいと言い出したんです」
「人材派遣会社を?何だかいきなりですね」
「他に誰かにも言われたのではないかと。・・・と、まあそんな事で以前のテコンドーサークル仲間には会ってないし、会いたいとも思っていないでしょう」
「だったら、彼女が言っていた『時々会う』というのは?」
「嘘に決まってます。まずヨンは会わない」
今更会って何を会話するんだろうか。
しかし、この雑誌にはチェヨンの大学までの優勝成績や代表常備軍だった事まで載ってしまっている。
「こんな事今は彼奴には関係無い事だけどね」
「ふむ、関係無い事だと思っている彼の前に彼女が来て昔の事を謝って来たら?」
「・・・もう過去だからと許すかと」
あの男はそういう奴だ。
女性を責める事はせず己が未熟だったのだと言うだろう。
許された彼女は再びヨンに寄るかもしれない。
数年前は無理だったが、それぞれ違う道に進みお互い成功した今はまた話が変わるだろう。
「幼なじみだから彼の性格は知っていた。
だから、数年経つのを待っていた、とも言えませんか?」
「・・・」
――なくもない話だな。
アンジェはウンスの怒った顔を見つめ、腕を組み考えていたが、
「・・・ユさんは今お時間ありますか?」
ふと尋ねて来た。
ヨンは会社の自分のデスクに座り、雑誌を広げとあるページに目を通していた。
それはつい最近引退し、今年から後輩の指導員になったメヒのインタビュー記事だった。
小さい頃からの話と大会出場での出来事、本国の代表として世界のライバル達と戦えた喜び等が書かれてある。
自分もまだ続けていれば何時かはこんな記事が出ていたのだろうか?
偶に会社についてのインタビューが来るが、詳しく言うつもりは無い為毎回同じ内容しか話さなかったら、そのうちそんな依頼さえ来なくなっていた。
それで良い。
軽い気持ちで入った奴は大抵直ぐに辞めていく。
崔家のバックボーンを知り、金持ちの息子らも来るが予想にしていなかった仕事内容に根を上げて辞めていった。会社の評価が最高から最低まであるの辞めた誰かなのだとわかっているが、ネットの評価で考えるのも良いだろうと削除依頼はしていなかった。
「・・・」
それに、会社の自己紹介欄にテコンドーや学生時代の経歴等は入れていなかった。
なのに。
内線が鳴り受話器を取ると、別部屋にいるチュンソクからだった。
『・・・また雑誌のアポイントがありまして』
「受けないと言っただろう」
『スポーツメーカーが出している雑誌らしく、数分だけで良いとの事ですが・・・』
「俺はスポーツ選手でも何でも無い。断ってくれ」
――・・・この雑誌のせいで。
イライラと机を指で叩きながら忌々しくため息を吐き出していると、また内線が鳴りヨンは不機嫌なまま受話器を取る。
「しつこいぞっ!断ってくれ!」
『・・・いやでも社長にお客様で・・・女性の方が・・・』
「―えっ、ハッ!!」
そうだ、先日食事会の時にウンスに自分の連絡先を教え、
『会社に是非来て下さい。後輩達も良い奴らばかりなので』
『今は良い社員さん達がいるのなら良かったわね。そうね、平日でも午後から暇な時があるから・・・行ってみようかしら』
『是非』
にこりと微笑んだウンスの笑顔にヨンは身体が暖かくなった。
自分が立ち上げた会社を見て貰い、
情けない部分を消して貰う訳ではないが良い所も知って欲しい。
――・・・来てくれた。
ヨンは焦りを落ち着かせながらも急いでロビーに向かったが――、
「・・・・」
足を止め笑みを瞬時に消していた。
受付ロビーに立っていたのは、
ついさっき雑誌で数年ぶりに見た、
あの姿のままのメヒだった――。
②に続く
△△△△△△
余計な部分はみな省く。
短編なのだから(もう言い訳( ˙³˙ ))