
騒々協奏曲【後編】②
別部屋にいたチュンソクは落ち着きなくデスクの周りを歩いていたが、近くから名前を呼ばれ足を止めた。
「チュンソク部長、うるさいんですが」
「しかし、トルベ・・・」
「社長の知り合いなのだから、自分達がどう思うが決めるのは社長ですよ?」
「知っているさ、だがあの女性は・・・」
するとトルベも肩を竦め知っていますと声を出す。
「俺も一応テコンドー経験者なんで、あの女性を知らない訳はないですよ。・・・それに、変な噂も大学は違えど聞いてはいましたし」
「だったら、余計社長が心配じゃないか」
すると、2人の会話を聞いていたトクマンが自分が行くと椅子から立ち上がった。
「止めろって!」
「どうして止めるんですか?はっきり言って俺あの女性昔から好きじゃないんですよね」
トクマンはヨンに憧れ同じ大学に進学したものの、テコンドーをやめていた事を知り落ち込んだ。テコンドーサークルにメヒや他の仲間がいた筈だと不思議に思い、少し調べるとどうやら原因はこのサークルだとわかりトクマンは入る事を止めた。
その後、国代表に選ばれなかったトクマンは引退し、ヨンの会社に入社して現在は営業職をしている。
「・・・サークル内で国代表になれたのは彼女だけでした。人気はあったみたいだけど・・・」
だが今までヨンに関わらなかったのが、噂が本当だったのだろうとトクマンは思っていた。
「・・・そうだとしても、今決めるのは社長だからな。
・・・おっと、『お電話ありがとうございます、株式会社team・Kでございます』」
トルベはそう言い、再びため息を吐いていたが、
掛かって来た電話を取ると何時もの営業へと戻っていった。
応接室に入った2人はソファーに座り向かい合ったまま黙っていた。
テーブルにあるコーヒーも手を付ける事無く、静寂な時間だけが過ぎていく。
ヨンは腕を組み真っ直ぐ正面に座るメヒを見ている。ただ、表情が無い為機嫌が良くない事だけは数年ぶりに会ったメヒにもわかった様だった。
「・・・久しぶりね」
「ああ」
「ヨンがテコンドーをやめた後も私は続けていたわ」
「知っている」
「・・・ヨンがいきなりやめて代表常備軍まで辞退した時は凄く驚いたし、どうしてってショックだった」
「そうか」
「・・・実は、あの後色々話を聞いて・・・私達がヨンを揶揄ったのが原因だと知って。・・・ずっと謝りたかったの」
「・・・」
「そうしなければ、ヨンが怪我をしなかっただろうしその後もテコンドーを続けていた筈だったのに・・・」
メヒは徐々に声を小さくし、苦しそうに言葉を吐き出していく。
・・・罪悪感で苦しいのか、言葉に出すのが辛いのか。
そんな姿のメヒを眺めながらヨンは静かにそう思った。
「・・・今更、メヒ達に恨み言等は言わないし、そんな事は考えてもいない」
「ヨン・・・」
「あの時は、自分も未熟だった。だから、ああなっただけだ」
ヨンの言葉にメヒはホッと強ばった表情を緩めていく。
「・・・私を許してくれるの?」
その問いにヨンは長いため息を吐き、顔を横に向けた。
「・・・許すも許さないも、何も思っていない」
「・・・ありがとう、ヨン」
「・・・・」
ヨンは顔を横に向けたまま無言で返す。
しかし、
彼が仕方なく許す時は何時もこんな態度なのは、
小さい頃から見て来たメヒにはわかっていた。
合宿の2ヶ月後にヨンはテコンドーサークルをやめ、代表常備軍も辞退した。サークル内の面々は合宿中の出来事が原因だったのだと直ぐにわかったが、ヨンが周囲に文句を言う事が無かった為自分達が責められはしなかったが、やはりと後ろめたさはありヨンに話し掛けもしなくなっていた。
サークル内の学生数人は大会にも出ていたが、国代表にまではなれず兵役のタイミングで引退や、違う職へ就いたりと徐々にメヒの周りから仲間は消えていった。
「・・・ヨンがいれば・・・」
怪我をさせなければ、ヨンは今も自分の傍にいたかもしれない。
そう思いながらもどう接して良いかわからず、お互い違う道を進みながら今まできてしまった。
引退し、大学の指導員となりある時とある雑誌を見つけ食い入る様にそのインタビュー記事を読んだ。ヨンがあの後会社を立ち上げた事は知っていたが、その会社がまさかこんなに注目を浴びる程のものになるとは想像はしていなかったのだ。
確かにヨンの実家は由緒ある名家で財閥の家でもあったが、彼はスポーツしか興味のない純粋な青年だった。そんな彼が既に株式会社という会社を創りかなり有名な社長として特集まで組まれている。
「・・・『この会社は他の会社ともパイプを広げ、何時かはグローバル会社へと変貌していくのではないか?』・・・海外進出を狙っているの?」
崔家自体貿易関係も広く、次期崔家の跡を継ぐヨンにはまだ目標達成していないのかもしれない。
――・・・え?彼ってこんなに会社経営の才能があったの?
引退し大学の指導員の職が不満という訳では無いが、自分はもう30歳に近くなり結婚や将来も考えてもいる。だが、寄って来る男は自分の功績か恋人が代表だったと満足したい者だけだった。
――・・・ヨンだったら。
昔と変わらない俳優の様な整った顔に、
『今ならどうだろうか?』
と淡い期待もあった――。
・・・ヨンが許してくれた。
メヒは良かったと胸を撫で下ろすと、眉を下げにこりと笑った。
「・・・ヨン、本当に今までごめんなさい」
「・・・今まで・・・」
横を向いていたヨンは呟き、ジッとどこかを見つめている。
そんな姿を見つめメヒは、彼の今までの事を聞こうと口を開いた。
「――チェヨンさん?ここにいるの?」
今まで応接室に無かった声が部屋の入口から聞こえ、2人はビクリと肩を跳ねさせた。
だが、瞬時にヨンはソファーから立ち上がりはいっ、と声を上げていた。
「え?・・・ユさん?」
「あぁ、いたわ、失礼します!」
ノックも無しにいきなりガチャリと扉が開き、
唖然と驚くヨン達の前にウンスが現れたのだった――。
「・・・・・ユさん?」
呆然と立ち竦み部屋に入って来たウンスを見るヨンと、知らない女がいきなり入って来てメヒの眉が上がっていた。
「貴女何なの?いきなり失礼じゃない!」
声を上げるメヒを一瞥するとウンスは直ぐに眼差しをヨンに向け、
「・・・まさか、彼女を許す訳じゃないわよね?」
低い声で尋ねて来たウンスを唖然と見ていたヨンだったが、
漸く我に返り、ああ!と嬉しそうに手を広げ出した。
「ユさん、来てくれたのですね!」
ニコニコとウンスに近付こうとしたヨンを手で制し、話を聞きなさいと再び話し始める。
「貴方、私とカウンセリングしている意味わかっているの?また自分の中に閉じ込めたら何の意味も無いわよ?」
怒りに近い声にヨンは動きを止め、ウンスの顔を見下ろした。
黙ったヨンを睨むウンスの姿を見てメヒは眉を顰める。
――・・・何を余計なお世話を。
「カウンセリングか何かは知らないけど、ヨンの意見に被せる様な事はしないでよ!」
「は?何ですって?」
元はと言えば、貴方達が――。
「ユさん」
しかし、ウンスが声を荒らげ様とするのをヨンは手をウンスの前に出し、止めた。
「チェヨンさん・・・?」
「それはもう言わなくて良いです。私は・・・俺は何も思っていないので」
「私はちゃんと謝ったもの。そしてヨンは許してくれたわ!」
「・・・っ?!」
ウンスはキッとヨンを睨み付ける。
確かにカウンセリングでも心に余裕を持たせる事は大事で、過去の原因の根本が晴れれば治りも早いだろう。
彼女が謝罪した事で彼の中の苦しみが少なからず消えていったのだとしても、この数年間の苦しみと夢を諦めた辛さだけでも彼女に吐き出して欲しかった。
――結局は、昔から知っている女性には敵わないって事なの?
ウンスはいつの間にかヨンへの気持ちが医者目線以外にもあったのだとふと思ったが、
悔しくぐっと奥歯を噛み言う事はしなかった――。
③に続く〘次、最終話〙
△△△△△△△△△△
・・・まだざわざわした応接室笑。
長かったかな?
そうでも無かったかな。
③は次の日更新します( . .)"✨