
契約恋人⑪
タン家の2人が約束したホテルのレストランに向かうと、チェ家のヨンの両親だけがテーブルに座って待っていた。
「後からヨン氏が来るのかもしれないな」
「・・・そうかしら?」
自分に断って来たヨンが食事会などしたいと思う筈が無い。来るとすればそれは婚約破棄の為で、
もしかしたらあの女性も連れて来るのではないか?とまでメヒは考えていた。
テーブルの傍に行くと両親は椅子から立ち上がり、メヒの父親と握手をし、にこやかに話始める。
「やぁ、久しぶりだね!」
「数ヶ月前にアメリカでお会いしましたが、短くしか会話が出来なかったですからね、チェ社長達もお元気で良かったです!」
再会を穏やかな雰囲気で喜び合い、椅子に座り直すと父親は顔をメヒに向けた。
「メヒちゃんとは数年ぶりになるのかな?」
「はい、時々贈り物はしておりましたが、こうやってお話出来るのはアメリカに立つ前でしょうか?」
「まだ学生さんだったわよねぇ、すっかり綺麗になって」
母親は今まで贈られていた物のお礼とメヒがこんなにもお淑やかな女性になっているとはと驚いた。
父親同士は食事をしながらも会社や本国に戻るまでの懐かしい話に花を咲かせ、メヒと母親も楽しく会話をしている。
しかし、メヒは近くにヨンがいるのではないかと目を配らせていた。
「・・・あの、それで、お義母様にお話がありまして」
「あら、何かしら?」
メヒはさも悲しげに目を伏せ小さく話す。
「実は・・・いくらヨンさんに連絡をしても返事を下さらなくて・・・」
「そうだったの・・・」
悲しげな表情に母親の顔も曇っていく。
事実、メヒはヨンからの連絡をひたすら待っておりしなかったヨンに非がある。
「本当にごめんなさいね。ヨンから事情を聞いて・・」
「いえ、それは自分でしたいと思います。私達は婚約者同士なのですから今から良く話し合わなくてはなりませんもの」
「そ、そう」
「ですので、お義母様達には2人が上手くいく様、願って頂きたいのです」
「願う?」
メヒが悲しい表情からキッと顔を上げ力を込め話す勢いに母親は押され気味に聞き返した。
「私はチェ家の為に良い妻になるつもりです。なので、私をチェ家に迎え入れて頂きたく――」
「あぁ、遅くなって申し訳ありません。中々車が進まなかったもので」
いつの間にかテーブルに近付いていたヨンに誰も気付かなかった為、4人はビクリと肩を跳ねさせ顔を上げた。
スーツのジャケットを脱いでいた為、ベスト姿だったがスタイルの良いヨンの姿はそれさえも絵になり近くのテーブルの客はチラチラと立っているヨンに視線を向けている。
メヒは一瞬だけ表情を歪めたが、瞬時に戻りヨンににこやかな笑みを向けた。
「あ、ヨンも来てくれるって聞いていたの、良かったわ」
「・・・」
チラリとメヒを一瞥したヨンが、何故かレストラン内をぐるりと見渡し再び顔を戻す。
「あともう1人来る筈ですが、まだ来ませんか?」
「あと1人?」
父親達は知らないと首を振り、ヨンはそうですかと父親の隣りに漸く腰を下ろした。
「良いのか?もう1人来るまで待った方が良いのか?」
「大丈夫です、進めて構いません」
来た時から変わらない仕事用の話し方にタン家も不思議に感じ始め、メヒの父親は話を続けながらもヨンの様子を伺っていた。
「全員揃ったという事で話が進められますね。
2人の結婚式の日取りや会場なども今のうちに――」
「その前に、俺から話があります」
「それはこの場でしなくてはならない話かね?」
タン家が話を止められ、少なからず苛立ちを含ませた問いにヨンは当たり前ではないかと小さくため息を吐いた。
「全て関係ある話ばかりです。意味の無い話をする暇はありませんので」
「・・・」
タン家の表情を見た後、ヨンはところでと両親に顔を戻した。
「大邱市に帰った後市場に行きましたか?」
「え?ああ、行ったよ」
「では会ったのでは?」
「ああ、久しぶりに会ってね!保護者会以来だったので長く話をしてしまった」
「農場も広くなったとかで、今は果物も出荷しているそうよ」
「そうですか、なら良かった」
3人の会話が始まりタン家は何なのだと困惑してる中、ヨンは持って来た鞄から書類を取り出した。
「実は、この数年チェ家の族譜を調べていました」
「は?」
「チェ家の婚姻条件が縁ある家だけだったのか?あとは、実際今まで嫁いで来た者にチェ家との縁はあったのか?・・・です」
ヨンの目は何時の間にかタン家に向いており、真っ直ぐ見つめて来る瞳に黙ってしまう。
「何時から掟が決まったのか?それも疑問でしたが、自分のご先祖様を蔑む事はするなと彼女から言われましたので、そこは追求しません。」
ヨンの“彼女”との言葉に両親とメヒはチラリとヨンの顔を見たが、表情が変わらない為話の意図が読めない。
ヨンは族譜を捲っていき、かなり先の方でその手を止めた。
「チェ家の墓がある寺では無く、国の資料館を探し回り漸く見つけました。何故江華島にあったのかは謎ですが、王族の流刑地や逃げ場だったとしたら誰かが持って行ったのかもしれない。古い寺で、住職も入れ替わりが激しかったらしいのですが豪商や郡主の寄贈品は丁寧に扱っていたそうです。綺麗な高麗青磁の壺の中に入っていたらしく・・・ここです」
ヨンが漢字が羅列するある部分を指差す。
そこは何とチェ家でも1番の有名人でもある、とある偉人の名前だった。
「確かにタン家がチェ家の婚族になっています」
「ほら、やはりな!」
メヒの父親は当然だとばかりに大きく笑い、ヨンの両親もそうだろうと頷いた。
「だから、メヒだってチェ家の一員になって当然で――」
「・・・ここで、不思議に感じたのはその夫婦の間に子が無かったという事で・・・」
「そこは、夫婦でも色々あるさ。夫だって戦や国の政で忙しく暇などなかったのだろうよ」
「本当に?その後の第二夫人では直ぐ子が出来ていたのに?それに墓には第二夫人と共に眠っているのは有名ですが、では第一夫人は?」
「・・・早くに亡くなったか――?」
ヨンの父親が首を傾げそう言うと、
「それです!」
とヨンは声を上げた。
「そこが俺には疑問でした。なので、そちらには許可を得ませんでしたがタン家の族譜を辿って昔を調べてみたんです」
すると、その言葉に今まで笑っていたメヒの父親はピタリと笑みと動きを止め、険しい眼差しをヨンに向け出した。
「勝手に調べるなんて失礼じゃないか!」
「・・・と、言われると思い親族の方には許可を得ました。タン・トンウン氏です、貴方の弟さんでしたよね?」
「・・・・・」
その名前を聞き父親は黙り、メヒも自分の父親の様子を伺い始めている。父親の弟でメヒの叔父にあたるが彼は、武道を極めたいからとタン家の商業的考えに賛同せず今では地方に道場を経営していた。
「俺がチェ家の末裔だと知り、大変申し訳ないと頭まで下げられてしまいました」
「え?」
「そうなのか?」
チェ家側の両親は全く知らない人物だった為、そんな事があったのか?と驚いている。
ヨンは族譜を広げたまま、そのご先祖の名前をふと睨み付けていた。
この男が発端かは知らないが、面倒くさい事をしてくれたものだ。
だが、新しい事実が出れば本来の流れに戻るのではないか?
――きっと壺に巻物を隠した人も何か思う所があったのかもしれない。
「実はタン家から嫁いだこの女性、既に亡くなっていたらしいのです」
「・・・・え?」
「・・・は?」
「いや、そんな」
「将軍様なのだぞ?有り得ない」
――亡くなっている女性と婚姻などと。
「タン・トンウン氏が調べた所、この女性は彼の許嫁だったのだと」
「あ、あぁ、そういう事か・・・」
亡くなった人を想い、婚姻した形で族譜に入れたという。
確かにだったら、子もいず夫婦の何かが残る事は無い。
「・・・ですが」
しかし、ヨンの話はまだ終わらなかった。
「このご先祖様が亡くなった後に彼女の名前は族譜から消えています。
理由はタン家側から除籍を願い出たという事です」
ヨンの言葉に唖然とするチェ家側とただ黙って聞いているタン家側。
メヒだけが、時々レストラン内へと視線を向けていた――。
⑫に続く
△△△△△
ご先祖様😑「・・・解せぬ」
やばい位に長くなりそうなので、一旦切りました。
※次回はあくまでも《契約恋人》でのヨン、ウンス話だと思って下さいませね。(既に少し入って来ている?)
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