
契約恋人⑭
――・・・家具設置は反対だけど、デザインは殆ど同じ色合いなのね。
ドアを開けたヨンに連れられ中に入ったウンスはそんな事に気を取られ、キョロキョロと部屋内を見渡していると前を歩くヨンが振り返った。
「飲み物を出すから、そこのソファーに・・・」
しかし、言葉を途中で切りヨンは下を見たまま動かなくなり、固まったヨンを不思議に感じウンスも視線を落としたが――。
「あ」
と小さい声が出た。
ヨンが廊下からずっとウンスの手を握っていた事に今頃になって2人が気付き、まだ離れていない事にウンスが慌てて手を引こうとしたが何故か逆にヨンが強く握り締めて来る。
「チェヨンッ」
「・・・嫌悪感が湧く?それか、怒りが出る?」
「両方よ」
「・・・でも、握らせてはくれるんだな」
「いや、貴方が強く握り締めているからでしょう?離しなさいよ」
「振り払う事はしないのか?」
「して欲しいならそうするけど?」
「・・・いいや」
ヨンは首を緩く振り、そう返事をすると漸く手を離した。
「・・・振り払わないだけ俺には有り難い」
10年前のウンスの後ろ姿をまだヨンは覚えている。
振り払って逃げて欲しいと願っていた筈なのに、実際そうされた瞬間引き止めたい衝動に駆られ手を伸ばしていた。
こちらを振り返る事なく走り去ったウンスの背中を見ながら、あの時から自分は彼女から憎しみの眼差しを受け続けるのだと更に絶望の淵に立った感覚になったのだ。
それでも、自分には理由が出来た。
誰かに勝手に動かされる人生では無くなった。
彼女に対して償っていく事は自分が作った使命であり、それが1番の最優先事項なのだと。
「でも、俺があの時告白した所でふられる事もわかっていた。別な感情で覚えてくれないかと思って・・・」
「・・・はー、貴方って随分とネガティブ思考だったのね、知らなかったわ」
「・・・そりゃ・・・若い時に色々決められたら、そうなるだろう」
ウンスは呆れたとため息を吐きながらソファーに腰を落とし、不満そうな顔をしながらヨンは冷蔵庫に向かうと幾つかのお酒を持って来た。
「酒か水しかないけど」
「え?何でお酒あるの?」
「寝る前に飲む為にレストランに行く前に頼んだ」
「ずるい!私も頼みたかったー」
「なら良かった」
グラスもテーブルに置き、それぞれ好みの酒を開けていく。
2人しかいない部屋でどうしようと考えたが、開けた酒をただ黙って飲んでいるヨンの姿は自分と同じく見えるとウンスはふと思った。
彼の性格も仕草も学生の頃と何ら変わりはしなかった。ただそこにチェ家を背負って生きていかなければならない社会人としての経験と対応力を身に付けただけなのだ。
「・・・あの時は、もしかしたら少し病んでいたのかもしれない。だから、ユウンスに酷い事を――」
「私にした行為を全て病んだせいにするつもり?」
「そんな事は」
「だったら、後から言うのはただの言い訳にしかならないわね」
「そうだな。・・・すまない、水を取ってくる」
レストランでワインを飲みまた今酒を飲んで少し酔い始めたのかもしれないと小さく咳をして誤魔化すヨンをウンスはチラリと睨みつけた。
「・・・全く。
まだ好きだからの方がましだわ・・・」
――・・・今・・・。
頭だけ振り返りウンスをジッと見つめてしまう。
「・・・“好き”って言い続けたら、ユウンスは・・・許してくれるのか?」
聞こえているのかどうなのか、後ろ姿しか見えないウンスはヨンに振り返らない。
それでも。
この距離はウンスには届いている筈だ。
「・・・許されるなら、俺は・・・ユウンスと2人で縁側に座って犬が走り回る庭先の光景を眺めていたい」
「・・・」
「チェ家に明るい未来があるかと言われたら、無いかもしれない。でも、俺は他の人とは考えた事も無いんだ」
――メヒでは無く、ウンスと恋人になりたかった。
突然ウンスがくるりと振り返りヨンを見て来たが、眉を顰め不機嫌なのは明白だった。
「貴方、今、営業用でしょう?口がよく回っているもの」
「違う、本心だ」
「そうかしら?」
「ム、俺だって好きな相手にはちゃんと伝える」
「それを、最初からしなさいよ!」
「あ・・・」
「チェヨンは聞かなきゃ言わない人なのよ。自ら言う人だったら、あんな事にはならなかったんだから」
「・・・」
「言っているつもりで本心を言っていない様にも見えるわ。それは、その性格のせいかしら?」
「いや・・・」
「貴方の言葉が何故か曖昧に聞こえるわ・・」
「それはっ」
声を上げたヨンに一瞬驚いたウンスはまだ冷蔵庫の前にいるヨンを見つめる。
ヨンは手に持った水を1口飲み、長い息を吐き出すと視線をウンスに戻した。
「本当は、俺は、ユウンスと恋人になりたいし、恋人の様にキスもそれ以上もしたい。
でも、ユウンスを傷付けたのも俺だから。・・・だから」
はぁ、と息を再び吐いていたヨンだったが、手に持った水をテーブルに持って行き静かに置くとウンスの顔を見た。
「・・・じゃあ、ユウンスは?
もう2度と・・・俺から触られるのは嫌だろう?」
「・・・それは」
「でも、俺はユウンスの肌だったら・・・」
――・・・触りたい。
「・・・触りたいって・・・」
チェヨンは性欲求が乏しいと言っていたが、ウンスの肌には何らか反応はしていたという。
こちらを見つめて来るヨンの瞳は確かに普段とは違う色も見え、彼はあの時こんな目で背後から自分を見ていたのかと知った。
前回も確かに身体中に手を這わせて来ただけで、それ以上は――。
いや、肩を噛んだし、舐めた様な・・・。
それを思い出し、一瞬粟立った腕を摩ったウンスにヨンは顔を伏せた。
ウンスがあの事でトラウマになる程の嫌悪感になるのは当然であり、なのに自分は更に彼女に酷い事を頼んでいる。
頼んでいる事は男としての本能で、それを耐えるのはウンス側なのだ。
――・・・いや、もういい。
結局は自分にもこんな欲はちゃんとあったのだとわかっただけ良かったじゃないか。
彼女にその気持ちを吐き出しただけで満足しろとテーブルから離れベッドに向かおうとしたが、
「・・・服は脱がないし、嫌になったら直ぐ出て行くので良いのなら」
「・・・・・え?」
今日は何度も驚愕していると思う。
ベッドの傍で唖然としソファーに座りこちらを見ずに話すウンスの整った横顔を思わず凝視してしまう。
「それで不満なら私は部屋に戻る・」
「不満は無い!」
即答してしまった自分をチラリと見たウンスがサッと顔を背ける姿を見て、
ヨンは部屋のドアの鍵を開けたままにした数分前の自分を殴りたくなった――。
「じゃあ、ベッドに・・・」
「え?ソファーで良いじゃない」
「・・・」
「・・・」
見た事のあるヨンの拗ねた眼差しと、目線を合わせないウンスの間に少しの沈黙が出来た。
「・・・別にいいけど。あぁ、良かった長ソファーで」
「え、何・・・うっ」
後半のヨンの呟きが聞き取れず、ウンスが聞き返す間も無く隣りにどかりと座り、真っ直ぐウンスを見つめて来た。そして流れる様に手を伸ばし驚いているウンスの指先をそっと握る。
「・・・」
ジッとヨンは握った指先を見つめていたが、ゆっくりと目線を合わせて来た事にウンスは咄嗟に逸らしてしまう。
これはリハビリの一環にし彼を患者として診る為には自分が冷静でいなければならないと決めた。
だが、間近で見つめて来るヨンの力強い瞳を見てしまうと落ち着かなくなる。
――わかってる。
・・・あの手が、指が、どう動くか既に知っているからだわ。
指先から、手の平、甲へとなぞる様にヨンの手が優しく流れる。
知り合いや同僚が触れるのとは違うと思うのは、ゆっくりと確かめる様に進み撫でて来るからだろう。それが快感になるかというと触診の様な慎重さで妖しい雰囲気にはなっていない。
なのに、彼の目だけがその熱をずっと含ませてこちらを伺っている。
アンバランスな動きと彼の顔にとうとうウンスはあの、と声を出していた。
「どこまで?」
「どこ・・・?いや、ユウンスが許してくれる所まで」
「具体的に言った方がいい感じ?」
「・・・そういう事では。では、今は嫌では無いんだな?」
「まぁ、・・・?」
すると手の平などを這わせていた彼の手がするすると肩まで上がり、頬や首筋を撫で始め、ウンスは一瞬息を吸い込んだ。
ヨンも一瞬口を開け何かを質問しようとしたが、直ぐに閉じ再び指先で頬を撫で始めていく。
「あの時は、背中だけでユウンスの顔が見れなかった」
きっと泣いてるのかもしれない。
怖くて顔を見れずひたすらにはだけた白い背中と髪に隠れた白い横顔だけを見つめていた。
「・・・正直に悩み事を打ち明ければ良かったんだろうか?」
――そうしたらウンスはあの時から協力してくれただろうか?
「わ、わからないわ」
「あの場所でユウンスに好きだと伝えたら、どう返事をした?」
「それももうわからないわよ。10年前の若い時と今は違うのだから」
浮かれて返事をしたかもしれない。
好みじゃないと断ったかもしれない。
しかし、チェヨンの顔が好みで無いとなると、その時の自分はどんな夢を見る程の美形が理想だったのか?と聞きたくもなる。
「・・・大学の勉強でいっぱいいっぱいだったんだから・・・」
「そう、だよな」
そう話す間にもヨンの手は髪や耳を撫でていく。
触る場所とウンスの表情を交互に見て来るヨンの目は真剣で、許容範囲をしっかりと記憶している様だった。
しかし。
首筋まで下りたヨンの手がピタリと止まり、何故か視線を彷徨わせ始めている。
「・・・知らない訳では無いんだが」
「何を?」
「・・・ユウンスの・・・の感触」
「?!」
ちゃんと聞こえなかった部分が“胸”と微かに聞こえ、ウンスはハッと顔をヨンに戻してしまう。
彼が覚えているのはまだ20歳の自分の身体であり、10年経った違いを今知るという事になる。
弾力だって変わっただろうし、何よりたるみも・・・。
「ま、待って」
「?」
「だったら、他の所にして!」
「・・・・・え」
先程の2倍不満そうな顔つきになったヨンは、そこは、と口篭る。
「ほら?私も30だから色々変わっているので」
「見た所変わっていないぞ」
「中身が変わった、・・・?!チェヨン!」
不満を言いながらヨンはゆっくりとウンスの胸へと手を進ませ膨らみの上に乗せる様に落としていく。
「ちょ、止め・・・わ!」
ヨンがウンスに徐々に近付いた事を知り、ウンスは後ろに退けていたのだがバランスを崩しソファーから落ちそうになる。
「おっと」
ヨンは腕を伸ばし腰に手を回すとソファー側に引き上げ、ウンスもソファーの背もたれを掴み落下を免れた。
「大丈夫か?」
「危ない危ない」
「・・・ベッドの方が安全だと思うのだが」
「何でそっちに行く必要あるの?」
「・・・服は脱がないんだろう?別に最後まではしないのだから」
「・・・」
――違う。
しないとは思うがヨンの眼差しが諦めていないのが不安になるのだ。
ウンスはあら、と腕時計を見てずるずるとそのままソファーから降りようとしている。
「ヤダわ、もう1時間になりそうよ」
「嘘だ、まだ40分しか経っていない」
「チッ、見てたのね」
馬鹿真面目人間だったわねとウンスは舌打ちしたが、そのままソファーから床に降りて行く。
「待て、ユウンス!」
「わぁ、ちょっ!」
だが、ヨンも覆い被さる様に一緒に落ち結局2人は床に倒れ込んだ。
床暖房で暖かくはなっているが、硬い床に落ちた2人はヨンの下から出ようと這うウンスと捕まえるヨンの腕が進むウンスの前を塞ぎ、気付くと俯せになったウンスに覆い被さるヨンは再びあの時と同じ状態になっていた。
「あ」
「あ」
2人の声が重なり、
同時に10年前の出来事を思い出したのだとお互いが気付いている。
「・・・・・」
「・・・・・」
少し前の騒がしい空気は散り、
何も付いていない部屋はただエアコンの機械音だけが響いている。
「・・・背中は、やはりダメか?」
「ダメじゃないけど・・・」
「・・・そうか」
びくりとウンスの肩が跳ねた。
ヨンの手が肩、背中へと優しく撫でていく。
突然剥がされたあの時とは違う触れるだけの動きに、
ジッと動かず俯いていたウンスが小さく呟いた。
「・・・あの時も、最初からそれだったら違っていたかもしれないのに。
・・・チェヨンの大馬鹿!」
「・・・ごめんなさい」
撫でていた手は何時の間にかウンスの身体を包み、
両腕で強く抱き締めていた――。
⑮に続く
△△△△△
鍵掛けてないじゃんー。
もうそろそろアメ限か?
(こちらが鍵か?(笑))
(˙˙*)?わからないヮ。
※私事だけど、公式ジャンルを“韓流KPOP”に変更しました(*^^*)
別な二次創作もあるかもなと思っていたのですが、ここはシンイのみになりましたのでね😊
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