
契約恋人⑮
あの怒りは一体どこから薄まっていたのか?
はたして本当はチェヨンに対してあの時程の憎しみは残っていたのか?
俯く自分に覆い被さり全体重を乗せていないにしても、それでも背中に掛かる硬い筋肉と重さを感じながらウンスはそう考えていた。
本来の彼は自分が記憶していた不器用な少年そのままで、彼が悪人で無い事をわかってしまうとふつふつとあった怒りは急速に小さくなっていく。
正直な所、自分ではもうこの感情をどう扱って良いかわからなくなっていた。
不安、行き場の無い怒り、その奥にあった感情をチェヨンにぶつけた後の事を全く考えていなかった自分に彼は「俺は貴女だけだ」と言って来る。
まさか告白されるとは想像していなかった。
放っておかれた方が別な感情で対応出来たのに・・・。
背中に掛かる重さと温かさは10年前と変わっていないのに、変わったのはそれに対する気持ちだった。
「・・・ユウンス」
「・・・何?」
話さずジッと固まってしまったウンスを背後から抱き締めていたヨンは心配になり、名前を呼ぶと普通に返事が来た。
泣いている訳では無かったと安堵し、
このまま床の上では痛くないだろうかと感じ声を掛けたが、
「・・・ベッドに行かないか?」
言っている自分の台詞があからさま過ぎて、何を狙っているのかと怪しまれたらと焦ってしまう。
ウンスは少し考えまたもやそれはと言い、肩越しに顔だけを向けて来て間近で目が合ったヨンはその大きな瞳を凝視する。
「・・・ベッドに行っても長居はしないのだし」
「何で?」
「何?て・・・、貴方自分で言っていたじゃない。乏しいのだと」
「それは、他の女性にだろう?ユウンスには違うと言っているじゃないか」
「・・・」
黙ったウンスを数センチの距離で見ていると、顔を前に戻し、
「・・・そうね」
と呟いた。
「・・・?」
横顔しか見えなくなりヨンは覆い被さったまま背後から覗き込むと、前を向いたウンスの頬が染まっているのに気付き無意識に唾を嚥下していた。
ウンスは本当はヨンの話を理解している。
ヨンが身体の欲求が乏しいとは言っても全てが駄目な訳では無く、相手がいれば反応出来る事も医者なのだからわからない筈もない。
今抱き締めているこの時もヨンの身体が何時もより熱くなってきている事を伝えたら、更に戸惑うだろうか?
10年前の状態なのも、初めてウンスの身体を抱き締めた事も今の自分は気持ちが昂っているのだと知ったら彼女はどうするのか。
上手く誘えない自分が悔しい。
でも今離したらこの機会はあと何時来るのか?
結局は自分の中にも男はあったのだ。
下心を隠し、懐に入れたら逃したくない欲が起き上がって来てこの柔らかい身体をもっと知りたいと思っている。
「・・・もう少し時間をくれないか?」
チラリと見た時計は約束した1時間になろうとしていた。
あと1時間・・・いや、本当は――。
「・・・朝まで・・・いて欲しい」
ウンスには自分の本能をずっと見せてしまっている。
だがそうしてでも欲しいと思ったのは人生で初めてで、そんな時に格好などつける余裕さえない。
本来の自分をウンスは知っているのだから、
こんな奴だったと呆れてもいいから、
許して欲しい。
ふぅ、とうつ伏せになっているウンスからため息が聞こえ、
「・・・着替え、隣りの部屋なんだけど」
「一緒に取りに行く」
「また即答する。もうっ・・・」
チラリと後ろを見て来たウンスの顔は更に赤くなっていた。
結局ヨンが手を離さない為腕の長さ以上離れる事は出来ず、ウンスの部屋に入りまだ出していなかった鞄をさっさと持つと浴室にあるアメニティグッズだけを取り再びヨンの部屋に戻って来た。
「自分の部屋にあるバスローブを使っていい」
と言うヨンを怪訝そうに見つめ、
「だったら貴方は何を着て寝るつもりなの?」
の問いに、
「着ない」
と一言吐くヨンの手を思わず離したくなったウンスだったが、じゃあ先にと浴室に入れられそこで漸く手が離れた。
――・・・淡白だと言った割にはこの先にいこうとする勢いは何なのか?
「えー、本当に?女性に興味無かった?」
ウンスの部屋でも鞄やアメニティグッズを素早く持ったのはヨンだった。
あの俊敏さは一体何なのか?
首を傾げながらもウンスはシャワーのお湯を出したのだった――。
ヨンは腕を組みベッドやカーテンが下ろされた窓を見ていたが、浴室からシャワーの音が聞こえ思わずそちらを見てしまい、我に返り素知らぬ方を見ても水が弾く音は暫く続き結局止むまでチラチラと視線を漂わせていた。
酒はまだあるし、水も残っている。
喉が渇くという事は無いだろうしお腹はもう充分に入っている筈だ。
どこまで?
出来るなら最後まで。
そう言えれば1番良いのだが、
ウンスの気分次第でもあるし自分がどうかと再び聞いて来たら――?
「うん、大丈夫だな」
「何が?」
「わっ!」
何時の間にか浴室から出て来たウンスの声に、壁側を向いていたヨンはびくりと肩を跳ねさせ振り返ったがウンスの姿に更に硬直してしまった。
ヨンが言った通りに浴室のバスローブを着たウンスの細い肩は白く薄い布のせいで中の下着が薄っすらと透けて見えており、確実に下着以外何も着ていない事がわかってしまう。
「・・・」
その一点だけを凝視していたヨンに気付いたウンスはちょっと、と声を上げた。
「空いたわよ?・・・行って来たら?」
「あ、ああ。水飲んでて良いから」
「お酒飲む」
「ああ」
――・・・何でも良いから飲んでいて欲しい。
兎に角、早く戻らなくては。
急げとばかりにヨンは浴室に入ろうとしたが、
足を止め顔を玄関に向けると、
「閉めた」
小さく頷き、
浴室へと飛び込んで行った――。
⑯に続く
△△△△△△
よし!👉
ここまでは大丈夫だろうと普通記事に( ˙꒳˙ )。
ので、今回は短い。
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