
契約恋人⑱
「こんな広い部屋を1人で使っているの?」
「元は両親が使っていた部屋で、1階上に上がったので空いただけなんだ」
そもそもヨンが人事部や他の部署にデスクを置くと皆緊張するのか黙ってしまうという。
「貴方が無愛想にしているから不機嫌だと思って声を掛け難くなるんじゃないかしら?」
「多分、それだと思う。だから移った」
「そこは昔と変わらないのねぇ」
笑いながら言うウンスを眉を下げてヨンは見ていたが、インスタントコーヒーしか無いがとそれをテーブルに置き内線連絡を受けた後ウンスの正面に座った。
「・・・明日は休みじゃないんだ?」
「当たり前でしょう?もう2日も休んでいるんだから」
「ああ、そうか」
まだ今日が定休日で良かったとウンスは安堵していた。今日中に戻り明日からの営業をしなければ予約者からクレームになってしまう。
ヨンが何故もごもごと口篭っているのかは知らないが、自分にも仕事はあるのだとわかっているのだろう、彼はそれ以上言って来なかった。
ただ、ウンスの隣りに座り再び手を握り締めては、「ウンスの実家に行きたい」としきりに言って来る。
「曖昧な時に行くと、またお母さん達が騒ぐから・・・」
「曖昧?いや、もう確定した事なんだが」
「貴方のご両親にも言ってないし・・・チェ家?色々な方がいるじゃない?そこは」
「じゃあ、今から上階に行こう。叔母さんは既に知っている筈だから大丈夫だろう」
「何言ってんの?会議中でしょう!」
腰を浮かし急げとウンスを促そうとするヨンを、ウンスは待てとヨンの手を引っ張り座らせた。
「いきなりだなんて失礼にも程があるでしょう?今日は行かないって」
「何時かは行くという事?」
「ま、まあ・・・」
「本当に?」
確認を取ろうとし、座りながら後退るウンスにヨンが近付いて来る。すっかりスペースを開けるという事をしなくなったヨンに顔近くに寄られ、ウンスは息が掠める距離に焦っていた。
それまでの距離は我慢していたのだろうか?と疑問に思う程のパーソナルスペースの切り替えは昨日の夜からおかしくなっている。
「・・・離れてくれる?」
「どうして?」
いかにも不思議そうに聞いて来るが少なからずウンスの焦りを気付いているのか更に近くに寄り、ちらりと目背を合わせて来た。
ヨンの部屋は高層ビルの上階で誰かに見られる事は無いが、部屋半分は外の景色が見えるガラス張りで影が出来ない位に明るい。
いくら彼が熱を持った視線を送って来ても、昨夜初めて知った行為の生々しさをこんな場所で出来る訳が無いとウンスはより慌ててしまう。
「何を考えたの?」
――この男はっ。
「1人で帰ろうかしら?」
「むぅ」
それでもヨンはその距離から離れずにいたが突然内線が鳴り、ヨンは小さく舌打ちをしウンスから離れた。
「はい。
・・・ええ、・・・は?」
不思議そうな返事をした後ウンスに視線を移し、それに気付いたウンスもヨンを見つめる。
――・・・何?
「わかりました、そちらに向かいます」
――・・・え?
何故かウンスには嫌な予感しか頭に浮かばなかった――。
いきなり立ち上がったタン氏に会議室の面々は視線を向け何事か?と困惑していた。
被害者と突然訴えたタン氏はソウル支社やアメリカ支社にいた事は皆知っており、チェ家とも懇意な関係とも理解している。
それがいきなりチェ家に刃向かう発言などとするとは――。
「・・・被害者、ですか?」
「そうだ、ソウル支社の話だって今日突然言われ我々の事など考えていない証拠だ!」
「それは全てチェ製薬会社が保証すると先程も言いましたが?」
だが、タン氏はまだあるとばかりに叔母を睨み付け、顔を歪ませた。
「・・・私は今までチェ家に騙されていた。娘をチェ家に向かい入れると約束したのにも関わらずこの家はいきなり破棄して来たのだ。10年待った娘は何の為に無駄な時間をチェ家に費やしたのか、これも立派な結婚詐欺になるぞ!」
「・・・・・」
「ええ?チェ家の御曹司に婚約者がいたのか?」
「タン家の娘だとは聞いた事はあったが・・・」
「この間アメリカ支社から帰って来たのは、結婚式を挙げる為では無かったんだな」
ざわざわと室内の役員達が話し出し、それを叔母は静かに見ている。
「しかもこの間まで知らされていない事実もあり、それさえ知っていればチェ家に関わる事だって無かった!」
「知らされていない事実?」
役員達の眼差しはタン氏から会議室机の最前列にいる叔母に集中し、
まだ叔母は何も話さずタン氏の声だけが会議室に響いていた。
「チェ家の跡取りのチェヨンは男として不能であり、次のチェ家の跡取りを作る事は出来ない」
タン氏の言葉に会議室内の面々は驚き口を開け唖然となった。
男性として役に立たない等は人それぞれであり、他人が兎や角言う事では無い。だが、彼だけがチェ家とこの製薬会社の跡取りで数年後には社長にもなる者でもあった。
その彼が先の未来が薄いとなると、この製薬会社も危ないのではないか?もしかしたらチェ家ではなく、他の家がこの会社を治めていく可能性も浮上した事になる。
――・・・自分達はチェ家に付いて大丈夫なのだろうか?
室内の空気が徐々に違うものへと変わっていき、上層部の顔は伺う様に叔母を見始めていた。
「・・・ふん、今それをここで出しますか」
「私にではなくチェ家は娘の人生まで無駄にしたのだ!」
「お言葉ですが、タン家からチェ家に寄って来たのですよ。そこは自覚はありますか?」
「だ、だとしても彼が初めに話していれば娘は諦めていた。ズルズルと引き延ばし娘の気持ちを弄んだんだ、この家は!」
若い女性の人生を何だと思っている!
と叫んだタン氏はそうだ!と再び声を荒げると、
「それにチェヨンは、昔女性に乱暴した事があったというじゃないか!それは犯罪だぞ!」
「ええっ?!」
「チェ家の息子が?!」
「何て事だ!」
「そ、そうだ!あの男は女性を襲ったんだ!本人が言っていたではないか!」
傍にいたアン・ジェウクまでもが叫び、それに室内の面々は驚愕し騒然とし始めた。
それが世間に出ればこの会社は直ぐ様終わるだろう。
警察署前で下を向き話すチェ家の御曹司の姿を皆が想像しもうお終いだと落胆し、自分達の老後を不安視する者までいた。
静かに聞いていた叔母は近くに立つ秘書に何か囁くと、椅子から立ち上がりタン家を見つめ、
「女性を襲ったと?それは孫のヨンに直接聞いた方が早い、今コチラに呼び寄せました」
「え・・・」
確かにこの叔母もヨンがタン家や両親の前で話したのを知っている筈だ。
なのに、何故あの男を会議室に呼び寄せるのか?
あの女医師にでも金を積んで黙らせたのだろうか?
タン氏やアン氏が戸惑う中、会議室の扉がノックされ秘書の次に入って来たのはチェヨンと――。
「何故あの女がいるんだ?」
タン氏は食事会で見たウンスが何故この会社にいるのかと呆然と立ち尽くしていた――。
「失礼します」
ヨンが頭を下げ入って来ると会議室内の役員達の視線が彼に集まり、そして隣りにいるウンスにも移されていた。
――チェヨンはわかるが、この女性は誰だ?
ワンピースを着たウンスの姿は仕事というよりはオシャレ度が高く、会議室には不似合いにも感じてしまう。
だが、何故か彼がこの女性を連れて来たのだろうという雰囲気も見え役員達は興味深そうに2人を見ていた。
普段女性に近付きもしなかったヨンが、実は身体に原因があった事を知らされ納得をしたばかりだというのにこの女性は一体何者なのか?
ウンスは居心地悪そうに立っており、ヨンは顔を叔母へと向ける。すると、叔母は軽く首を傾げヨンに用事があったのだと言葉を吐いた。
「お前に関する事だから、本人に聞いてみようと思ってな」
「何ですか?」
「そこにいるタン氏が言うには、ヨンが女性を軽く扱ったらしい」
「は?」
ヨンはちらりと目線を離れた場所にいるタン氏に向けると、タン氏は焦り気味ではあるが険しい顔を返して来た。
「彼が言うには、お前は娘を騙し、女性にまで乱暴をしたらしいが・・・、どうなんだ?」
「・・・」
「・・・」
ヨンとウンスは思わず見つめ合ってしまう。
それは事実であり、メヒが騙されたと言えばその通りかもしれない。
だが、ヨンが確実に言える事は――。
「私はタン氏の娘さんに連絡をしたのは断る為に一度しただけで、その他に会ってはいなかった。チェ家に娘を紹介したのが先でしたか?それともチェ家が俺を紹介したのが先でしたか?それによって話も変わっていきますが」
「そ、それは・・・」
「ですが、女性に乱暴したというのは・・・」
ヨンが話す前に待ちなさいと腕を掴み引いたウンスに目を丸くし、彼が見つめて来た。
――・・・まったく。
「・・・それは私の事ですが・・・私達は10年以上前から知り合いですし、あー、お付き合いをしていましたので乱暴とは少し表現がおかしい気がしますわ」
ちらりとヨンを見ると嬉しいのか目の輝きが増し、両手を広げコチラに向かって来そうになった彼を手で制しながらも、ウンスはタン氏達に視線を向ける。
「何を・・・」
「嘘だ!」
横にいたアン氏までもが声を上げたが、その声にウンスは眉を上げ睨み返した。
「女性に対して乱暴されたとか、それこそ失礼ではないですか?しかも貴方よね、私のクリニックを盗撮しヨンを盗聴までしていたでしょう?どこに売ろうとしていたんです?それこそ犯罪ですよ」
「ウッ」
アン氏はより顔色を悪くし狼狽え始め、自分は関係ないとタン氏を見た。
「それは全てタン家の指示だ!俺は彼女から脅され手伝ったに過ぎない!」
「お前、何を言っている!」
「何年従ったと思っているんだ!数年前の映像で脅されペーパー会社まで作らされて、俺だって被害者だ!」
「俺だって」
「タン家から頼まれたから・・・」
座っていたソウル支社の社員達数人も立ち上がり、自分はただタン家に従うしかなかったと主張を始めていき、
騒然とし始めた彼らを周囲も困惑し眺めるしかなかった。
「うるさい!ここを何処だと思っている!騙された?従う?知らん!許す許さないを決めるのは会社だ!」
叔母の広い会議室全体に響く程の怒号に一斉に皆は口を閉じた。
「そもそもチェ家と縁(ゆかり)が有る訳で無かったのに近付いて来たのは誰ですか?スパイを会社に入れさせ株を買うなどしているのは誰です?」
「い、いやそれは・・・」
「族譜を見ていなかったなどの言い訳は聞きません。調べたらタン家の族譜も4年前に正式な物に修正したと聞きました。貴方はそれを知っているのに頑として婚約を結ぼうとした。どちらが詐欺か?」
チェ家の特殊な掟は上層部の者達も知っていた。
家系を遡ぼり繋がりがあるなら調べたいとは皆思ってはいるのだが、唯一の疑問はチェヨンという人物の性格が見えない事だった。
彼にそんな過去があったのか?と驚いたが、その女性は今この場所に普通にいて昔からの付き合いだと言う。
――チェ家の面々とその女性が来ている中で、一体タン氏達は何を話しているのだ?
自分達が違法な手段で株を買っていた事を暴露し、チェ家のせいだと訳がわからない話で騒いでいるとしか見えない光景に非難の眼差しを彼らに向け始め、それに対しタン氏達は違うんだと声を上げるも叔母は静かにと制した。
「違法行為をした社員、役員は後程各々に辞令が行くでしょう。それについての異議申立ては私に下さい。
あれば、ですが。よろしいですね?」
叔母の一言で、
タン氏達はがくりと肩を落としたのだった。
「ユウンス、ありがとう」
「本当よ。はぁ、この10年は・・・だから、くっ付いて来ないでよ」
剥がそうとするウンスに構わずヨンが強く抱き締めていたが、後ろからヨンの太腿が叩かれ、痛、と声を上げ振り返った。
「こんな公衆の面前で何をしているんだ、馬鹿者!」
「叔母さん」
「秘書から聞いたら、会社に入って来た時もウンスさんの手を握っていたそうではないか。社内が騒ぎ出していたよ!」
・・・あー、だから。
入った途端、2人は驚愕の目を向けられ何かあったのか?と困惑したのだ。
要は何時も無愛想な彼が女性の手を握り、会社に来た事が驚きだったという内容に納得して様子を見ていたウンスに叔母は目線を向けて来た。
「ウンスさん、本当にありがとうございました。馬鹿な甥を助けて下さり同じ女性として本当に申し訳ないです」
「あ、いえ」
「これからもこの甥を宜しくお願いいたします」
「は、はい」
叔母から頭を下げられ、デジャヴか?と戸惑いながらもウンスも頭を下げ叔母は去り、2人も部屋に戻ろうと歩き出したが――。
「・・・あれ?私、今了承しちゃった?」
「うん」
ポカンとヨンを見上げるウンスににんまりと笑みを浮かべ彼は頷いた。
だが。
会議室から出た役員達は直ぐ様ヨンが連れて来た女性は誰なのか?と騒ぎ出し、
1時間後に再びヨンが呼び出される事になったのだった――。
⑲に続く
△△△△△△
ウンスさん、はい、て言っちゃった(´>∀<`)ゝ
少しブログの調子がおかしく、更新が出来ませんでした💦
夏休みだからインターネット関係なのか、ブログ関係なのか個人なのか・・・
少し様子を見ても良いのですが、そうするとお盆終わりまで出来ないかもだしねー(´-`).。oO❓
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