『“チェヨン”さんが生きてて、本当に良かったわ!』
もう一度頭の中でその言葉を繰り返し、ハッとヨンは我に返った。
やはり、この女人があの戦場にチャンビンを向かわせその間自分の様子を調べていたのか。
『お前は誰だ。理由を言え』
内心では自分を知っている謎と溜まっていた不満を言葉としてぶつけるべきだとわかっている。
だが、どうしても口が開かない。
早く言えと焦る程、乾いていく喉に潤いを持たせようと嚥下までしていた。
「・・・あー、ごめんなさい」
返事もしないヨンにウンスは乾いた笑いを表情に乗せ謝った。
「まあそうよね、初めて会うんだもの。私は――」
「医仙」
しかし、遮る様に名を呼ばれウンスは声を出したチャンビンに顔を向け、彼らが帰還したばかりなのだと気付き、そうよ!と手を叩く。
「ごめんなさい!チャン先生どうします?お湯を沸かす?」
「そうですね。・・・すみませんが、彼のもお願いします」
ヨンをチラリと見たチャンビンは眉を下げ言って来たが、ウンスは心良く任せてと握った拳を上げた。
「チェヨンさんも鎧は脱いでおいてね」
そう言うとウンスは水桶を持ったまま、薬員達がいる場所へと消えて行った。
「鎧を脱ぐなら此方にどうぞ」
「・・・ああ」
早足で典医寺の奥に歩いて行くチャンビンは、おそらく数年ぶりに自分の部屋に帰るのだろう。
・・・俺は、何処に行こうか?
宮殿に自分の居場所も寝床も無い。
何時の間にか『隊長』という役目まで着かされ、降ろして貰う為にここまで来たに過ぎない。
薬草園の入口で一人佇んでいたヨンは、左右を見渡し再度叔母上に会いに行こうとした・・・が。
あの女人が湯を持って来てくれるらしい。
「・・・・・」
無意識に泥や血で汚れきった鎧を見下ろしていたヨンは、
チャンビンが向かった先へと同じく足を進めたのだった――。
とはいえ、ヨン自身の服も無い為にあまり着た事も無い医員用の羽織りまで肩に掛け、ヨンが渋々出て来ると既にウンスが用意をし待っていた。
「チャン先生、お疲れ様」
優しい笑みを作るウンスにチャンビンも優しく微笑み返し、それを離れた場所から見ていたヨンは何となしに視線を外した。
・・・服も綺麗になったし、このまま去ってしまおうか?
「―ッ?!」
瞬時に寄って来た気配に直ぐ横を向いたヨンは、目の前にいるウンスに固まってしまう。
「な・・」
「チェヨンさん、怪我してない?気持ち悪くはない?」
――何を・・・。
妻になる女人が他の男の心配などしたらとチャンビンを見たが、
「怪我していたら、ちゃんと教えて。お願い?」
「・・・っ」
否応無しに再び女人に目線を戻してしまう。
「・・・わ、かった」
「黙ってるなんてしないでよね?」
間近の大きな瞳に返事が出来ずぶんぶんとヨンは頷くだけにし、気が済んだのかウンスはお湯を置き、漸くヨンから離れて行った。
拭く物が無いと診療所から離れたウンスを確認し、ヨンは呟いた。
「・・・大丈夫か?」
チャンビンに尋ねてしまったのは何故か?
使った事もない気遣いを使ったが、彼は同意すると思っていた。
「・・・今更です」
「?」
「三年前から、医仙は“チェヨン”の心配しかしておりません」
「・・・・俺は、会った事も無いが?」
見た事も、話した事も無い。
今日初めて見た女人だ。
しかし、あの女人は三年前から自分を知っていたという。
何処かで?
いや、だが先程あの女人は
『貴方が、チェヨンさん?』
と聞いて来たのだから知らなかった筈だ。
「・・・知らん」
首を傾げるヨンに何時と変わらずチャンビンは、濡れた布で足を拭き始めていたが手を止めると再びヨンを見た。
彼の瞳は静かなのに、怒りが含まれている。
「・・・確か、隊長は役目を降りるおつもりでしたね」
「あ、ああ」
「・・・お気を付けて」
「ああ」
止めるつもりは更々無い。
チャンビンの意思はわかっている。
ヨンはさっさと足を洗い、ウンスが戻って来る前に診療所を出て行った。
「はあ、何故だ?!」
ヨンは廊下で声を荒げていた。
坤成殿の入口付近に呼んだ叔母に、役目を降りる許可を王様に伺って欲しいと頼んだヨンに彼女は首を縦には振らなかった。
「ならん」
「だから、何故?」
「お前は宮殿から離れてはならん」
「王様の命令か?!」
だが、ヨンの怒りに何時もの様に軽く手を振り叔母は違うと否定する。
「・・・・まさか、あの女人か?」
ピタリと動いていた叔母の手が止まった。
チャンビンと叔母上。
二人が面倒を見ている女人。
医員だと?
・・・絶対に嘘だ!
「くそっ」
「ヨン!待て!」
先程去ったばかりの典医寺に向かいヨンは走って行く。
どうして、自分の意思を邪魔していく?
メヒに会いに行く機会は何度もあった筈なのに、チャンビンに阻止され今に至ってしまった。
何故死なさせてくれないんだ?!
ハアハアと怒りと叫びたい衝動を必死に押さえ込みながら、王宮を出て典医寺に走っていると正面からあのウンスが此方に走って来た。
「あの女人!」
――何なのだ?お前は誰なんだ?!
無意識に怒りで拳を強く握りしめる。
「お前っ・・」
「チェヨンさん、辞めちゃ駄目ー!!」
「っ?!」
「何で、助かったのに軍から去っちゃうのー?私の苦労は何なのよー!」
「・・・・は?・・・何?」
怒りで怒鳴るつもりだった。
しかし、ヨンよりも激しい女人の怒りに呆然となったヨンは上げた手をそっと下ろす。
「もう、もう!何で辞め様とするの?!チェヨンはちゃんと軍にいてくれないと!」
「・・・意味が、わからん・・・のだが」
高い声が近付いて来る度、何故かヨンの声が弱くなっていく。
怒気はすっかり削がれ頭の中は混乱状態なのもあるが、それよりも・・・。
「あまり、近くに、来るな・・・」
「はあ?」
女人の軽やかな空気と甘いのに爽やかな匂いにヨンは戸惑ってしまう。
確かに近くにメヒという女人はいたが、同じ任務をする仲間で生活も一緒だった為匂いも似ていた。
嗅いだ事が無い匂いは・・・苦手だ。
「チャン先生と夫婦になるのだろう?他の男に気を向けるなど」
「ああ?誰が夫婦ですって?」
何故か、女人の怒気が余計に膨らんでしまった。
「確かチェ尚宮様も言っていたけど、する訳ないでしょう!」
「・・・・・え?」
「私はこの時代の人間じゃないのよ?契約結婚なんてお断りよ!普通はね好きな人と夫婦になるの、おわかり?」
「す、き?」
「大事な人よ!この人って決めた事よ!」
・・・・・・。
・・・・。
「・・・お主は、俺を慕っているのか?」
バチンッ!!
「いっ・・・!、?!」
先程チャンビンは自分に言ったのだ。
三年前からこの女人は自分の心配しかしていなかったと。
だから、つまりはそう言う事なのだろう?
なのに、何故俺ははたかれたのだ?
・・・何故?!
「貴方が、“チェヨン”だからよ!勘違いしないでくれる!
チェヨンが生きなければこの国に、今の王様に未来は無い。だから、助けただけ!」
「?、?」
「兎に角、軍は辞めないでよ?!」
そう言い女人はクルリと踵を返し走って行く。
・・・・・。
・・・・。
「・・・いや、そうではない!待てっ!」
ヨンもまた典医寺に走って行くウンスの後を追い走り出す。
お前が生きていて良かったと言ったのだ。
嬉しいと。
あの言葉の意味は本当にそれだけだったのか?
――許さない。
少しでも高揚してしまった自分が恥ずかしいではないか。
――絶対に追求する!
【後】③・・・?🙄
△△△△△△△△
・・・・・ヨン氏メヒがいる向こうに行くつもりだったのでは?😁
次無くても良い感じなんだけど?笑
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