君に降る華◆⑶
ヨンは早足で康安殿へと向かっていた。
日を置かず、再び徳成府院君キチョルが宮殿へとやって来た事にヨンの中の緊張感が高まっていく。
歩く度に瞬時に警護の配列を確認し、指示を出すが兵士達の緊張感の無さに苦々しいため息しか出なかった。
王妃の怪我の具合を確認しに来たのか、はたまた此方がこの間の件を調べている事を嗅ぎつけたか?
・・・何方にせよ、少しの隙も見せてはならない。
ぐっと奥歯を噛み、宮殿へと向かう廊下を進んで行く。
すると――。
前を歩く人物にヨンはハッとなり、更に足を早めた。
「イムジャ!」
「え?」
何と自分が向かう先から歩いて来るウンスに、ヨンの心は一気に不安が増していった。
「何故、こんな場所にいる?チャン侍医はどうした?」
「まだ坤成殿にいるけど?チェ尚宮様と話があるとかで先に私だけ・・・」
その説明にヨンは思わず舌打ちをしてしまうが、意味がわからないウンスは目を丸くするしかない。
「違うのだ。今イムジャを一人にするのは危ないという事で・・」
「私一人で帰れるけど?」
それに近くには武閣氏の彼女達もいるのだから、危険なものは無いと言い返すウンスに、それでもヨンは首を振る。
「必ずチャン侍医と一緒にいてくれ」
「・・・・・」
まだウンスにとって宮殿内は安心出来る場所では無く、何より残った重臣達も信用が置けない者達ばかりだ。少し不満げな表情をしたウンスだが、それでもコクンと頷くのを見てヨンは、すまないと手を握った。
「康安殿に行かなければならないので・・・」
自分は送る事が出来ないと言い、ヨンは後ろにいる武閣氏に視線を移した。
「武閣氏から離れないで、直ぐに典医寺に戻る様に」
「わかったわよ」
離れ難い気持ちを耐え、ゆっくりと手を離したヨンはウンスの後ろに武閣氏達が付き添いそのまま廊下を歩き去って行く姿を見送った。
「すんなりと事を運ばせて貰えないものか・・・」
面倒事が増えたら、ウンスとの時間も契りを交わす事も後々に回されてしまう。
そうでなくとも、まだ不安事もあるのにとヨンは苛立つのを短く息を吐くと、踵を返し宮殿へと向かうのだった――。
「兎に角、一人で宮殿には行ってはいけないって事でしょう?」
「そうですね」
後ろの武閣氏達も眉を下げそう答えるしかない。
王妃の傷の経過を診る以外はあまり出歩くな、というヨンの言葉にウンスはむぅと口を尖らせてしまう。
いつの間にかこの時代に来てしまい、ヨンに言われるままにこの王宮に来てしまった。
どうしても連れて行くという彼の意思は強く、確かに自分もあの場所に残されたらどうしようもない。
そしてあの雪原は王宮の近くの山だったらしい。
ウンスが通った木々はヨンが倒してしまったらしいが、まだ何処かに通れる道があるのかもしれない。
・・・そのうちにヨンに連れて行って貰えば良いのだ。
――自分が現代を忘れなければ帰れるのではないか?
・・・等とまだ軽く考えている段階で自分は事の重大さを考えていないのかもしれない。
それよりも。
「・・・うるさくはしないけど。見に行くのは駄目なのかしら?」
「それは・・・」
王様護衛部隊迂達赤の隊長自らに言われた事を自分達は背く事等出来ない。
連れて行くなとの指示に従うしかなく、いくら王妃の恩人で王様の客人でもそこは了承はしてはならないのだ。
「私達もチェ尚宮様から言われておりますので・・・」
「・・・あ、そう」
・・・えぇ?あの宮殿内を走り回るドラマは何だったのかしら?あれ?何のドラマだったかな?
思い出そうと顔を上げ、空を見始めたウンスに武閣氏の子達も不思議そうに見つめるしかなかった。
宮殿というのは自分が想像しているよりも窮屈の様だ、現代ではわからなかった事かもしれない。
こんなに動ける範囲が定まっているとは思ってもみなかった。
ウンスははぁーとため息を吐き出し足を進めていると、廊下の途切れた隙間から開けた場所がちらりと見えた。
「向こうは何があるの?」
「特に何も」
武閣氏は、東屋等が幾つかあっただけで特に気になる物は無いと言う。しかし、ウンスとしては典医寺に戻る前にちらりと見て廻る位はしたい。
「少し見るだけよ」
康安殿と坤成殿の間にある開けた通路を歩いて行くと、小さな東屋がありそこには若い女性が数人周りで草を毟ったり庭を穿いたりとしている。
・・・何が危険なの?
穏やかな光景で平和そのものではないか。
「まぁ、確かに?いきなり奇襲にもあいましたよ。でもここ王宮じゃないの?」
よくあるドラマや映画の様に宮殿内の愛憎劇に自分が入る感じもしない。しかし、ウンスの言葉に武閣氏達は困った顔になるだけで。
「宮殿が危険ではないという確信もありませんので」
既に間者が入り込んでいるかもしれない、常に危機感を持って過ごしている彼女達にはウンスの姿は隙だらけに見えてしまい心配になってしまう。
天界のお方だとチェ尚宮から聞かされているが、見目もだが物の考え方も違うという。
ある意味元の姫君と大差変わらないのかもしれない。
武閣氏達は小さくため息を吐いた。
「・・・えー?そうなの?」
――ヨンが私を必ず守ると言っていた。
・・・そういう意味なの?
何ともとんでもない場所に私は来てしまったのだわ。
――高麗時代か・・・。
さて、高麗時代の何時なのか?
「そういえば、“チェヨン”という彼の名前しか知らないわね」
誰に聞こう?
チャン先生かな?
チャン侍医が帰って来たら、今の西暦年と王様の事を教えて貰おう。
ウンスはそう決め大人しく典医寺に帰る事にしたのだった――。
⑷に続く
◇◇◇◇◇◇◇◇
ヨンはあまり歩き回って欲しくない模様。
ウンスはここを調べないととなった様です。
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