人魚と騎士[白の秘密]③
――恋慕。
恋慕とは?
守り神は岩の上で横たわりながら、あぁ?ともう一度返事をした。
「恋い慕う。つまりは自分の心を占めて離さない方がいたらそれではないですか?」
「・・・・・」
「大将が連れて行った後も、忘れる事なく常に心配をし、もし何かウンス殿が悲しむならすぐさま連れ帰るつもりでいる・・・その考えがあるのなら」
「それは、親心というのだ」
「親だって何時かは手放します。嫁に出し、子を設ける事が幸せだというのが親心だとしたら・・・」
子は作れないならいらない。
ウンスが傍にいれば良い。
その執着心は親とは違う。
「・・・本当に、お主も面倒くさい事を考えるな」
「私は、その心が無いので外側からよく見えるのです」
ヨンのウンスに対する激しい独占欲も、守り神の大事なものを取られ、それでもウンスに力を残そうとする執着心も。
そんな事に自分は興味が無い。
だが、ウンスが持っている医療技術や守り神が今まで見て来た治療法。
それだけは気になっている。
「・・・はあはあ、わかった。お主はそういう奴か」
守り神は目を薄め、竹筒をチャン侍医に放った。
様々な時代で沢山見て来た人間だ。
慈悲がある様で、心奥では冷たい氷の様。
ただ自分の求めるものを追求していくだけの人生。
投げられた竹筒を片手で受け取り、
再び懐にしまったチャン侍医は誤解しないで頂きたいと眉を顰めた。
「人聞きの悪い。私は医者ですよ、人を治す為に医者になったのですから」
「突き詰めれば、知らない事を知りたい人間だ」
「自分の欲望だけでここに来た訳ではありません。本題はウンス殿ですから」
「ウンス?」
「そろそろ、足を治して貰えませんか?」
「・・・・・」
守り神はふいと顔を逸らす。
「今頃ウンス殿に治すと言っても怒りませんよ、きっと」
――大将がどう出るのかは知らないが。
だが、ウンス殿が自分の足を気にし婚儀を渋っているのも知っている筈だ。
大将も早く治したいと思っているだろう。
「神様の15年は瞬き程の時です。しかし、人間は子供なら成人にもなりますよ」
まだ少女だったウンスが成熟した女人に成長していく様は神からすれば、楽しい時だっただろうがウンスとしては・・・。
「あぁ、そういえば、ウンス殿は子が欲しいと大将に言っていたそうです」
少し前の閨で二人は一悶着あったらしいが、そこは男女の話故聞きたくもない。
「む・・・」
守り神は眉間に皺を寄せ、つまらなそうに壁を見ている。
ウンスという女人と過ごしたからか、守り神も人間らしくなった・・・のだろうか?
「あぁ、それと、聞きたい事が」
「何だ?」
「ウンス殿に渡した針は何処で見つけたのか、あとどの様な治療法を知っているのか・・・。
守り神の心内など大将やウンス殿が知る必要はありませんからねぇ。・・・どうでしょう?」
「脅しとは・・・」
――世も末だな。
守り神はうんざりとした顔をしたのだった――。
「おい、何をしている?」
「何?ウンスの足を治すのだが?」
「何故触る?」
「触れないと治らないからだ。違う方法だと後は舐めるしかないぞ?」
「殺す!」
ヨンは腰に挿した剣に手を掛けたが、ウンスは手を出し制して来た。
「ヨン、止めて!」
「ウンス・・・、いや、しかし」
「守り神様は私の足を治して下さっているのよ?」
「・・・チッ」
久しぶりに二人は草原を掻き分け、チュホンにウンスを乗せたまま崖の上に辿り着いた。
ウンスとしては波に流されてからはこの崖には来ていなかった為、数ヶ月ぶりに来た事になる。
祠の周りは簡単ではあったが草が刈り取られており、チャン侍医が帰り際に刈ったのは本当だったのだとウンスは嬉しく思いながら祠を見ると、屋根の上に守り神が座って待っていた。
「あぁ、守り神様」
「久しいな」
ウンスが笑い守り神もまた口角を上げひらりと袖を振り笑い返すが、横に立つヨンは顰めた顔で守り神を睨んでいた。
「治せるんだってな。何故言わなかった?」
「港町からお主が遠くに連れて行ってしまったではないか。早く来れば良いものを・・・」
訳がわからぬ村に先に行き、延ばしたのはヨンだと言わんばかりの守り神に、ピキリとヨンのこめかみがひくついている。それでもウンスの足を治す為にヨンは耐えていた。
だが。
守り神は祠の屋根から降り、ズルズルと長い蛇の様な足を地面に這わせながらチュホンへと近付いて行くと、チュホンは少々困惑したのか首を避ける。
守り神はそれを無視しウンスの足に触れると、徐に着物の裾を捲り白い足を出そうとする。
「ッ?!、何をしている?!」
誰かがいる訳では無い。
・・・が、ウンスの素足を晒そうとする守り神にヨンは驚き、守り神に近付き肩を掴んだのだった――。
「・・・あぁ、良かったですね。暫くすれば歩けると?」
「足の筋が衰えているので、毎日少しずつ歩き鍛えよと言われました」
「腱が繋がってさえいれば、直ぐに昔の様に歩けるでしょう」
あの崖上にある祠から帰って来た夜にウンスは典医寺に向かいチャン侍医に話をしていた。
ヨンは帰り早々王様の来賓客の対応で、康安殿へと向かって行ってしまい、ウンスの足を事の他心配し行くのを渋る程だった。
「守り神を信じていないのでしょう。ですが、確かに繋がっている様です」
ウンスの足を見せて貰ったチャン侍医は、腱の中の肉と筋が以前の様にだらりと力無く垂れ下がっていない事を確認した。
・・・あっという間に治すのだな。
――・・・医術等は神には関係無いのだろうが、人間はそうもいかないですからね。
白いウンスの足首を凝視していたが、チャン侍医は頭を上げありがとうございますとウンスに礼を言うと、
チャン侍医はそうそうと言うと薄く笑った。
「あの針はウンス殿が持っている様にと。だが、糸として髪はもう使ってはいけないと申しておりました」
「そうですか・・・。でも、治療が出来ないわ」
「いえ、それは、大丈夫ですよ」
「え?」
「――色々な国の医療方法を教えて頂きましたから。
・・・替えの糸を作りましょうか?」
何時も研究事は必ず書物に残すチャン侍医だったが、今回は自分の中に仕舞って置く事にした。
――守り神も、望んでいないでしょうから。
チャン侍医はウンスを見つめ静かに微笑んだのだった――。
終
▽▽▽▽▽▽▽
ヨンもウンスも知らない話。
癖のあるチャン侍医は好きです。(*^^*)
ここまで読んで下さりありがとうございます☆
単に私が書きたかっただけのお話でしたー✨
【251011修正済】
文章少し修正。
アメ限を外しました^^
