人魚と騎士[白の秘密]①
ぽこんぽこんと何処かから音がする。
ウンスはふらつかない様にゆっくりと、
壁に寄りながら音がする方へと向かって行くと、
薬草庫の奥からそれは聞こえて来た。
今迄ウンスは薬草庫にも、その奥にも足を運んだ事はなかった。
それでも薬草園に行くのがやっとだった足は、少し長く歩いても疲れる事が減ってきている。
ウンスはチャン侍医が作ってくれた杖も使いながら、薬草庫の奥に入って行く。
すると。
「・・・ウンス殿?」
小さな小屋の前を通り過ぎた瞬間、中から低く警戒感を持った声が聞こえて来た。
だが、ウンスはその声にほっと安堵する。
何故ならウンスにはヨンの次に信頼出来る人間の声だったからだ。
「チャン先生」
「どうしました?」
ぽこんぽこん。
やはり中から音がする。
「何かしているのですか?」
扉に手を掛けようとしたウンスに、
「その扉に触れてはなりません」
その声は、
何時もの落ち着いた、
しかし、
寄せ付けまいとする、
冷たい空気を放っている。
ウンスは寸前で手を止め、固まってしまった。
「・・・あぁ、申し訳ありません。この部屋は危険な薬草もあり他の人間に少しでも付くのを避けたいのです」
「・・・あ、はい」
「今行きますので、先に診療所に行って頂けませんか?」
「わかりました」
ウンスは返事をし踵を返し歩いて行き、
コツコツとウンスが使う杖が遠ざかって行く。
小さくなった杖の音に、チャン侍医はやれやれとため息を吐いた。
「・・・少しでも、ウンス殿に付いたら私が隊長から怒られてしまう」
最近ウンスは薬草園だけでなく、宮殿内も歩く様になっていた。
隊長の許嫁だと皆わかっている為、よからぬ考えで手を出そうという輩はまずいない。
しかし、問題はウンスの足の不安定さで怪我等が起きては近くにいた者に責任が向くのではないか?とチャン侍医は危惧していたのだ。
軍隊や武閣士達はウンスを注意深く見ていると言っていたが、ある日チャン侍医はウンスに杖を渡す事にした。
――・・・あの音を注意深く聞く様に。
伝えられた者達はウンスが使う杖の音の変化であの女人がいる場所や具合をみる事が出来る様になった。
始めチャン侍医の提案にヨンは拒否をしたが、ウンスの身を守れるとわかり渋々承諾している。
故に、知らないのはウンスだけなのかもしれないが・・・。
――・・・それよりも・・・。
チャン侍医は火を点していた陶器の蓋を閉める。
「・・・この薬草といい、赤い髪といい、本当にあの女人は不思議な方だ・・・」
チャン侍医は薬草を静かに見ていたが、口を覆っていた布を外し小屋から出て行った――。
「・・・二日も外に出るのですか?」
「はい。しかし、わかり次第直ぐに戻って来ますので早くなるやもしれませんし」
「そうなのですか・・・」
少し落ち込むウンスをチャン侍医はちらりと見た後、
そうだと言い部屋の隅から兎が入っている箱を持って来てウンスの近くに置いた。
「なので、その間この兎のお世話をお願い致します」
「わぁ!はい、わかりました!」
椅子から床に座り兎の背を撫で始めたウンスを見て、チャン侍医はふぅと息を吐いた――。
「・・・で?この兎がこの部屋にいるのか?」
「ええ、可愛らしいわ!」
「・・・・・」
ヨンは部屋の中で、短い足を跳ねさせ歩いている兎を見下ろし頭を掻く。
・・・侍医め、上手く誤魔化したな。
――だからあの男が、一番掴めないのだ。
兎を追い掛け、嬉しそうに笑うウンスを見て、
そんな事を絶対に言えないなと肩を落とすヨンだった――。
「・・・ここか」
チャン侍医は草が生い茂った小さい原っぱに来ていた。
自分の胸元迄伸びた草を掻き分け、教えられた場所に着く。
「あった」
枯れた草や風で舞った砂ですっかり寂れてしまった祠がある。
扉も簡単には開かないだろう、チャン侍医は草を退かし砂を払い退けると供え物を乗せる小さい皿を見つけた。
「若い娘ではありませんが・・・」
懐から出した竹筒を傾け皿の中に酒を注いだ。
「守り神殿に、お聞きしたい事があります」
だが。
何の音も、光も無い。
チャン侍医は暫く立っていたが、草の上に座り腕を組んで祠を見ている。
「では、勝手に話をします」
それでも、祠は反応はせず草の揺れる音とチャン侍医が話す声だけが原っぱに響いていた。
「ここ数ヶ月ウンス殿を診てわかったのは、あの女人に傷があるのは足の腱だけで、他の場所には無いという事です。隊長に確認した所間違ってない様です」
ウンスの身体の事を言うヨンは、見た事もない程狼狽え周りに聞かれていないかとひきりなしに警戒をして、チャン侍医の方が気まづくなる程だった。
「・・・その偏りは、一体どういう事なのでしょうか?はては、守り神殿、ウンス殿の身体で何か試している訳ではありませんよね?」
それを聞いたら隊長はどう出るか?
祠を壊すだけではないだろう。
――はたして、それをウンス殿に言わないという選択をするでしょうか?
「・・・・・」
チャン侍医は小さくため息を吐き出した。
「・・・気になってここ迄来ましたが、無駄足でしたかね」
すると。
「あー、面倒くさい・・・」
気配は無い筈なのに、声だけが聞こえる。
「まだ酒が残っておりますが?」
――いりますか?
「寄こせ」
その声と共に祠が光り、
原っぱを眩いばかりに照らした後、
直ぐにその光は消え、
何時もの昼時の明るさに戻っている。
だが、
その場にいたチャン侍医の姿も、
その場所から消えていたのだった――。
②に続く
△△△△△△△△△
久しぶりの人魚のお話。
しかし、これは途中途中アメ限になります。
次は暫くアメ限でしょうか・・・☺️✨
守り神に会いたかったのね、チャン侍医(*´`)
チャン侍医の話ですからねー笑
(私の趣味よ😚)
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