②=力
「・・・え?まだいるの?あの人」
「まだいるも何も、あんなイケメン待たせておくんですか?」
「違うのよ、あの人少しおかしいの。私の事を運命の人だって追い掛けて来るんだから」
「ユ先生、わがままっ!あんなイケメンから言われてるのに!」
「はぁ?いきなり、説教したいとかイベント会場から連れ去られてみなさいよ!本当に怖かったんだからね!」
「うるさい、うるさい!貴女達仕事中よ!」
ウンスと同僚のシムが言い合いを始め、見かねたパク主任はいい加減にしなさい!と雷を落として来た。
「ユ先生、兎に角外の彼にずっと正面玄関に立つのを止める様言って来て」
「・・・はぁー」
――また彼と話すのか。
ウンスはこめかみを抑え、顰めた顔のままスタッフルームを出て行った。
パク主任はそんなウンスの後ろ姿を見てため息を吐き出す。
「・・・本当に彼女はよくわからないわねぇ」
「はい?」
「あれ程相談所に行って、イベントにも参加して漸くあんなイケメンを見つけたと思ったのに、あの男性は嫌だなんて・・・」
「そう言ってるんですか?」
「どうやらユ先生の事を調べていた様で、きっと怪しい人だと不信感を持ってしまった様ね」
「えー?確かにユ先生を調べるなんて・・・」
同じ相談所のイベントで会ったのなら相談所で少しは聞けるかもしれないが、
彼は何処までウンスを調べていたのだろうか?
「・・・とりあえず、彼が病院の玄関前にいるのは面倒だわ」
既に小さい騒ぎにもなっているというのだから。
「わぁ、何あの人。凄い格好いいんだけど」
「モデルかな?俳優かな?」
「でもあそこにもう2時間以上立っているんだけど。誰かを待っているの?」
そんな会話を横目にウンスは引くつくこめかみを耐え、正面玄関に出て行った。
ウンスの白衣姿を見て男性は一瞬硬直したが、直ぐに優しい眼差しを向けて来る。
しかし。
「すみませんが、ずっとここにいられても困るんです。患者さんや職員が困惑していますので」
――だから、帰って欲しい。
そう言って病院に入ろうとしたが、ちらりと見上げた男性の瞳は暗く先程の柔らかい空気を一変させ今にも泣きそうな・・・、いや、絶望が見えた気がした。
・・・気のせいだろうか?
「イムジャ」
またその呼び方。
何時の時代なの?
「私の名前はユウンスです」
「知っている」
「知っているって・・・」
だからどうして?
・・・相談所のスタッフさん彼に何処まで教えてしまったのかしら?
「あぁ、この間の事はもう気にしていませんから、兎に角、ここにずっといられても・・・え、とチェ・・・」
「チェヨンだ」
「チェヨンさん、すみませんがお帰り下さい」
「・・・・・」
名前を呼ばれた彼は暫くウンスを見つめていたが、わかったと小さく頷き返して来た。
了承した彼に安堵し、ではと言いウンスは頭を下げ去ろうとしたが――。
「イムジャ、あの相談所は退会してきました」
――そして、貴女の相談所にも伝えて来た。
「・・・は、はぁ?!」
とんでもない事を言って来たチェヨンを凝視していたが、何て事をしてくれたのか?とふつふつと怒りさえ湧いてくる。
「年会費いくら払っていると思っているの?!まだ半年分・・・」
「イムジャは行く必要はありません」
真っ直ぐ見つめて来る彼の瞳は、何も間違った事はしていないとばかりの強い眼差しで――。
――・・・え?本当に、何なの、この人?
この間のこの男性の行動に困惑を覚えていたのに、徐々に湧き上がる恐怖にウンスはじりじりと後退りを始めていた。
戸惑うウンスの様子に、待って下さいと手を伸ばしたが・・・。
伸ばした手を身体を逸らし、手を後ろに隠してしまう。
「本当に何なの?この間からずっと理解出来ない事ばかりなんだけど!」
「だから、説明をしたいと先日から申しているでしょう?」
「いきなり、連れ去られたら普通は逃げるでしょう!」
「・・・・・」
その言葉にチェヨンは無言で返し、それでもウンスとの間を詰めようとゆっくりと近付いている。
「俺はイムジャをけして裏切らない、だから話を聞いて下さい」
貴女の為に、ここに辿り着いたのだとわかっているのだ。
だから、俺を信じて欲しい。
だが、ウンスの瞳はチェヨンを拒否したままでチェヨンが歩み寄る分後ろに退いて行く。
「兎に角、迷惑です!」
ウンスはそう言うと病院の中へと走って行ってしまった。
チェヨンはウンスの後ろ姿を見えなくなるまで見つめていたが、ふぅとため息を吐き出した。
「・・・どうすれば良いのだ」
あの姿はまるで高麗に連れて来た時そのものではないか。
結局は自分達はそこから始まる事しか出来ないのだろうか?
――もっと早く気付いていれば。
――もっと時間があったのなら。
後悔するのはウンスとの出会いが最悪だった事で、この地に来たのはそんな自分の悔いが天に届いたからだろうか?と喜びさえしたのに。
――しかし、この場所に自分が来れたのはそう神が導いているという事なのだ。
「・・・策を練るか」
チェヨンは踵を返し、駐車場に止めてあるチェ家の車へと戻って行った――。
「・・・あ、いなくなった」
1時間後コソリと正面玄関を覗くとチェヨンは去っており、待合室も何時の雰囲気に戻っていた。
息を吐き安堵しているウンスをシムはやれやれと呆れた眼差しを送る。
「私だったら、あんなイケメンに告白されたら直ぐにOK出しちゃうなぁー」
「それは、普通の人だったらでしょう?私をイムジャ呼びしてるのよ?そんなに親密になった記憶も無いのに」
「私は彼は歴史マニアだと思うわね」
「・・・何で、そうポジティブな方向に持っていくの?」
二人は話をしながら食堂に向かうが、入ると女性スタッフ数人がウンスを見て囁き出していた。
どうやら違う科の彼女達は玄関前に立つチェヨンを見つけ、強かに近付いて行ったらしいが、
「お主達に用は無い。ユウンスを待っている」
と、あしらわれてしまったという。
まだ若く美しい彼女達が、自分よりも歳上のウンス以外興味が無いというチェヨンの態度は、どうやらプライドを傷付けてしまった様でその怒りの矛先はウンスに向けられていた。
それを感じ取りウンスは再び長いため息を吐いた。
ウンスが3年前から結婚相談所に登録し、それでも相手が見つからない事も彼女達の噂話の格好のネタにされている事もわかっている。
それでもウンスは何時かは見返す程の男を見つけるのだと我慢していたのだが・・・。
「何時までも自分がモテるとでも思っているんじゃない?」
「だったら、結婚相談所になんか行かないでしょう?」
クスクスと嘲笑する彼女達に腹が立つが、ではそこに文句を言う程の幸運に恵まれた事も無く、結局は無視をし耐えるしかないのだ。
・・・会場に行かなければ良かったのかしら?
過去の男なんていなかったし、更に面倒くさい男が現れただけなのだけど。
シムが食事をしながらスマホを弄っていたが、ん?と声を出し、ウンスを呼んで来た。
「チェヨン?彼チェヨンて言ってた?」
「ええ」
「・・・大邱市に本社がある大きな製薬会社があるんだけど、その会社の次期社長にチェヨンているんだけど、・・・彼かしら?」
シムが言う製薬会社は昔から名の知れた製薬会社で、色々な病院等にも更には海外にも商品を卸している会社でもある。確かにソウル市内にも支社を建て、更に幅広く経営を始めてもいた。
「・・・まさかぁー」
・・・いや、しかし。
イベント会場から連れ去られた時――。
「・・・え?何処に行くの?」
「俺の家です。イムジャには教えておきたいと思いまして」
――・・・家に連れ込まれる!!
「降ろして下さい!」
「イムジャ」
「降ろしてっ!誰かー!助けてー!」
走る車の中からウンスは必死に窓を叩いたのだった。
「・・・あ、今思えばあの車、高級車だったわ」
「・・・本当に、ユ先生、何を見てたの?
いや、先生の行動おかしいわよ?」
――ビルの最上階にあるレストランの一席で男がテーブルに肘を立て、その手に額を付け顔を伏せていた。
その姿はストライプ柄の黒いスーツが良く似合う背の高い体躯で、高級そうなテーブルと空の背景が良く似合いまるで雑誌の一ページの様だった。
しかし彼から発せられるのは異性にフラれたかの様な重苦しい空気で、通り過ぎる店員やお客は見て見ぬふりをし、その男を気遣っている。
そんな事等知らない男は、今だ顔を上げなかった。
「・・・何をしているんだ?」
待ち合わせだったのか、もう一人の男がそのテーブルに近付いた。
その男の姿も手足が長く、細い腰としっかりした肩幅で良くスーツが似合っている。意思の強そうな顔立ちと堂々とした佇まいは、自分の美貌を充分に自覚しているのだろう。
レストランの端にある席だったが、その場所だけドラマの撮影かと店内にいるお客は横目で様子を見ているのだった。
「・・・何故私はこの仕事をしているのでしょうか?」
「俺に聞くな」
知らんとばかりに、正面の席に座るとそうだと話を切り出した。
「ウンスの結婚相談所の登録を解除してきた」
それを聞き、顔を伏せていた男はちらりと視線だけを向けたが。
「・・・それ、何時か訴えられますよ?」
あの方に断りもなく、何をしているのか?
何時か私も怒鳴られるのだろうか?
・・・ただでさえ、自分でいっぱいいっぱいなのに。
あー、うー、と低い声を出し唸る男にチェヨンは眉を顰めた。
「うるさいぞ、チャン侍医」
③に続く
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
8、力
正位置=強い意思・自制・不屈・理性・力量
逆位置=無力・力不足・諦め・優柔不断・落胆
ウンス、ヨンから逃げていたー!笑
イケメン二人が何やら話をしていた様です。☺️
格好良かったよー!✨
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