あの場所でもう一度◇(2)
「・・・どうして二人がいるの?」
トイレから帰って来るとヨンが近付き小さい声で尋ねて来たが、ウンスは乾いた笑いをし目を逸らすしかなく。
「・・・道で偶然会って何処に行くの?と聞かれたので・・・」
正直に答えると二人はそうかそうかと納得をし、そのまま別れるのかと思っていた。
――だが。
「じゃあ、俺達も行こうかな?」
イ医師の発言にウンスは驚いた。
駄目ではない、と思う。
・・・わからないが。
――同じ病院の同僚なのだし、自分よりは彼らの方が仲が良いだろう。
深くは考えずにウンスは頷き、ヨンが教えてくれたマンションに辿り着きインターホンを鳴らすと、
暫くしてヨンが笑顔で1階エントランスに下りて来たが――。
二人を見て固まったのだった。
そんなヨンをお構い無しに二人は、お土産とばかりにケーキを渡しウンスが持っていた袋も持ちエレベーターに乗り込んで行く。流されるままヨンもウンスも上の階に上がり、ヨンは自分の家の中へと招いたのだが・・・。
「・・・・・」
「・・・ごめん、あまり人を家に呼びたくなかった?勝手に大丈夫だと思ってしまって・・」
「ッ、違います。ウンスさんは悪くありません!」
強いて言うなら・・・。
ちらりと拗ねた顔で二人を見ると、その視線に気付いたイ医師がニヤリと笑う。
――やっぱり!
きっと食材を持ったウンスを見て、直ぐに気付いたに違いない。なのに、付いて来るという事は確実に自分を茶化しに来たのだ。
男特有の冷やかしを楽しむ気持ちはわからなくもないが、自分がされるとこうも気分が悪いとは――。
二人だけの甘い時間を期待してはいた。
もしかしたら、違う進展が有るかもしれないと内心楽しみにして、・・・実はウンスには言えないが料理とは全く関係ない物まで用意してしまったのだ。
「・・・良いじゃないですか。チェ先生も料理苦手なんでしょう?」
皆でやればなお楽しい。
そう言うイ医師の切れ長の目を更に細め、暗にヨンの焦る様子を楽しんでいる顔でもあった。
「・・ちっ」
イ医師がヨンにこそりと言い、ヨンは思わず舌打ちをしてしまう。
やっぱり、貴方では・・・等と断られてしまう前に既成事実を持ちたいと考えている段階で、自分はウンスを離したくないと自覚もしているのだ。
メヒの時には無かった執着心に、これが自分の誰かを愛する感情なのだと思う。
ヨンは不満そうな顔をしていたが、ウンスの方は袋から食材を出し準備を始めている。
ネットで色々探して決めたメニューだったが、自分が最後まで料理に対して完走出来るかも怪しいのだ。昨晩見た動画を必死思い出しながらウンスはヨンを見た。
「イ先生達も増えたから途中で食材増やしたの。簡単にサムギョプサルにしようかと・・・」
「あ、俺、サムギョプサル大好きです!」
「キム先生の好みは聞いてない。
大丈夫ですよウンスさん、俺も手伝いますから」
元は二人で仲良くお料理だったのだ。
「俺はキンパ作れるけど?」
「「えぇ?!」」
意外、まさかの料理上手!
イ医師の発言に皆驚き、
だったら何故何時も外で食べているのか?等と騒ぎ出すも、四人での料理タイムが始まったのだった――。
「結局イ先生がいて助かったともいう・・・」
「・・・でも、本当は二人で作りたかった」
ボソボソと呟くヨンはまだ拗ねているらしい。
結局は味の調整、分量等細かくイ医師が横から指導し、それに従う3人と終始お料理教室状態になっていた。
だがキム医師曰く、
「あれは、彼女を作りたいと言っている男ではない。寧ろ女性は近付かない」
とイ医師の意外な面と何時もの口煩い神経質さにキム医師はため息を吐いた。
夕方になる頃にイ医師達はケーキを食べ帰って行き、その際にウンスも一緒に帰ろうとしたがヨンがまだいてとウンスの手を握って来た事に驚いてしまう。
だが、彼のウンスを見つめて来る瞳にまたもやNOとは言えなかった。
――・・・彼、本当に大学生の時から彼女がいなかった?この上手に女心を擽る空気を出すのは何なのか?だから、病院でも女性達が纏わり付いていたのだろうか?
自分は何もしていないと彼が言ったとしても、これを無意識にしていたら女性だけが悪いとは言えないだろうに・・・。
・・・もしくは、私がそう見える程に彼を意識しているのだろうか?
「・・・またコーヒーでも入れる?」
「俺が入れるから、ウンスさんは座っていて下さい」
苦笑し様子を伺って来たウンスの顔を見下ろていたヨンは、「拗ねてた、ごめん」と言い、
ウンスの手を引きリビングのソファーに座らせるとキッチンに戻って行く。
彼の家に来て一番驚いたのは、キッチン道具があるのにも関わらず全く使われていなかった。道具が全てが棚の中に仕舞われ、唯一出ていたのがコーヒーメーカーだけという。しかもそれは、サイフォン式で少し手間のかかる物でもあり。
「俺コーヒーは好きなんです」
とはいえ、それだけで暫く過ごしていたのかと考え、全く興味が無かったとよくわかる。
「これと、電子レンジがあれば大丈夫ですよ」
――ある意味名言だけれども。
・・・少し覚えようかな?
まさか自分がそんな考えになるとは・・・。
ウンスは乾いた笑い声を上げたのだった――。
・・・あー、どうしようか?言うか?
『・・・今日、泊まっていく?』
・・・いや、早いか。
コーヒーメーカーをセットしながら、ヨンはぶつぶつと呟きもう少しウンスを留める為の策を練ろうと考えていた。
良い方に考えるとイ医師達は敢えて夕方までいてくれたともいう。昼に二人で料理をしていたら、今頃は既にウンスは帰っていたかもしれないからだ。
――・・・うーん、まさかね?
茶化す為でもあるが、自分を助ける為だとしたら尚更このチャンスを逃すなと思ってしまうのだ。
「あ、このキーホルダー!車の鍵に付けたの?」
リビングの入口横にあるキャビネットラックの上に無造作に置かれた鍵を見つけ、それに付いているキーホルダーにウンスは気付いた様だった。
「うん、何かに付けようかとは考えていたんだけど、そこに付けたんだ」
煎れたてのコーヒーをリビングのテーブルに置き、ヨンもウンスの横に立つ。
「あまりこういうの買った事なかったから、楽しかったよ」
――何人かで小旅行も良いものだね。
笑うヨンを見上げ、ウンスもにこりと笑い返す。
そう言う彼の笑顔はまだ若い青年らしく、ウンスは好ましいと感じている。彼が真っ直ぐにウンスに接して来るからか、自分も素直になりたいと思うし、彼をもっと知りたいとも思うのだろう。
――彼はきっと言った通りに私を見てくれる。
「また今度皆で行きましょう!今度は済州島に行かない?あそこに大きなゴーカート公園があるのよ!」
男の人はそういうの好きなのでしょう?
「ゴーカート?行きたいけど、俺はウンスさんとだけで行きたいな」
「?!」
「2人きりの方がいい」
・・・こういう所なのよ。
彼の性格なのか、何時も直球な言葉にウンスは固まってしまう。
彼の本当の気持ちだと思えば、それを言われている自分は幸せなのだと思う。だがその直球さを全部受け止めるまでは考えていなかった。
・・・何か、中途半端な私で申し訳ないわ。
黙ってしまうウンスにヨンは目を伏せる。
「・・・急かせ過ぎだよね?ごめん」
ウンスに近付きたい、触りたいと下心が無い訳ではなく、つい本音が出てしまう。それがウンスには困惑するのだとも知っているのに。
ヨンを見ていたウンスは、少し視線を逸らしうーんと小さく声を出し――。
「・・・そうねぇ、秋位には丁度紅葉も綺麗だろうから」
「秋・・・」
今は夏になったばかり。
秋には一緒に行ってくれるという。
それは、秋も隣りにいてくれるという事で――。
ウンスの横顔を凝視していたヨンだったが、ふと彼女の頬が徐々に真っ赤になっていく事に気付き、これが彼女なりの自分に対する返事なのだとわかった。
・・・あぁ、何て。
「うん。ウンスさんは可愛いね」
「・・・ッ?!」
男の欲をぶつけようとしてしまう自分にウンスは戸惑いながらもゆっくりと、受け入れてくれている。
――嬉しいな。
だから、無理強いはしない。
それでも。
「・・・今日は、まだいてくれる?」
ウンスとの2人きりだけの時間をもう少し過ごしていたい。
それは、良いだろうか――?
イ医師の話にヨンはん?と顔を向けた。
「帰るんですか?」
「・・・と言っても週末だけです。父親が具合が悪いらしく・・・でも見舞いだけ済ませたら帰って来ますが」
イ医師の発言がヨンにはどうにも歯切れ悪く感じたのだが、彼もそれ以上の話はせず何時もの様に淡々と仕事をこなしている。さて、と声を出したイ医師は自分の担当の診察室へと向かって行った。
ふと何気に後ろ姿を眺めていたが、自分の方はというと週末ウンスがまた家に来る事になり、気分は最高である。料理は別にしなくて良い、ただ二人でいるだけでも良いと考えているのだ。
「・・・・・」
とはいえ、何もしないという事でもなく。
・・・あれだ、少し座っている間隔を縮めてみてはどうだろう?ウンスは必ず自分との間に隙間を開けてしまうのだ。
手が届くから良いではないかと、最初は思ったが何か違うなとも感じていて。
「・・・近付いたら、何かされそうだと思われてる?」
確かに、思っております。えぇ、ガッツリと。
それでも、彼女のその姿はまるで人馴れしてない猫の様で可愛いと感じ、様子を見ながら楽しんでいる自分に気付いてもいる。
距離を直ぐにでも縮めたいのに、その様子も見たいとは・・・
・・・俺、意外とそういう趣味持っていたのか?
知らなかったなぁ。
そう呟き、ヨンも椅子から立ち上がったのだった――。
(3)に続く
△△△△△△△△△△△
ガツガツというよりは、本当にじっくりタイプ
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