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ジグザグ(19)
次の日にヨンが病院に出勤し、スタッフルームに入ると既に来ていたイ医師が手を上げおはようございますと声を掛けて来た。
「よく眠れた様で」
「・・・・・」
昨日電話して来たイ医師とキムに、ヨンとウンスがあの後何をしたのかすっかりバレてしまっている。
そうなると、今更隠す必要も無い訳で。
「えぇ、ぐっすりと眠れました」
体力、気力共に回復したのだとヨンは開き直ってイ医師の隣りに座ると、イ医師はニヤリと笑ったが直ぐにそうだとヨンに声を潜め話して来た。
「今日少し騒がしくなりますが、チェ先生頑張って下さい」
「・・・わかりました」
何となく予想は付いたが、自分にはウンスがいる。
傍に彼女が付いているのだから、もうあの頃を言われても何も怖くない。
午前の診察が始まる前に担当する部屋に入ろうとしたヨンは、人事部が呼んでいると止められた。
「代わりにお願いします」
「はい」
イ医師はチラリとヨンを見て、部屋に行く前に小さく呟く。
「まぁ、正直にね」「わかりましたよ」
やれやれと首を振りながらヨンは人事部へと歩いて行った。
「失礼します」
人事部に入り、コチラにと通されたのは部屋の中に曇りガラスで仕切られた個室でヨンは眉を顰めながら中に入って行く。
人事部の男性が言う話では、ヨンがアメリカから帰って来てからクレームに近い内容のメールが時々入るらしい。人事部もまだヨンがこの病院に慣れないのだろう、と思っていた。
しかし。「君、数年前にもこの病院にいた筈だが」
「はい」
「なのに、慣れないというのはおかしくないか?」
「はい」
その通りだと思う。
「病院に慣れていないというのはありません」
「うむ。だったら、具合が悪くなったり、職員と話さないと機嫌が悪く、体調の波が激しかった事の説明は?」
機嫌が悪く、波が激しかった?何故そんな事を知っているのか?それは誰かが逐一人事部に自分の事を報告していたという事で。
「・・・・・」
ヨンは目を薄めたが顔には出さず、
かわりにニコリと微笑んだ。
「実は、帰って来てから恋人にプロポーズをしようと思っていたのですが、一度振られてしまいまして。それでもう駄目だと落ち込んでいました」
「事実です」
「・・・いや、それはプライベートで」
「いえ、それは関係ある事なのです」
「そ、そうなのか?」
「はい・・・そうですね、どこから話せば良いのか・・・」
ヨンは姿勢を正すと正面の男性をジッと見つめ、人事部の男性は一瞬息を止めてしまう。やはり同性から見ても、恐ろしい程に整っている顔だと思った。
「これは私の長年に渡る片想いと、それに勘違いした行動と、相手と両想いであろうという浅はかな考えからその様に体調が悪く見え、周りにも冷たくしていたのでは?という評価になってしまった事は、私の未熟さが招いた事であると思っております。ただ相手の女性には何の落ち度も無く、私一人が勝手に落ち込み、絶望し、それでも諦め切れず彼女を渇望した結果・・・他の方からは、異様な姿に見えたのだと思っています。」
「・・・・あ、はい」
「事実です」
・・・何か一気に話された気がしたが。
「以前何人か病院に女性が来たと報告が・・・」
「私が帰って来てから一度だけ彼女が病院に来ました。後は彼女の取引先の会社の関係者です。私の恋人はユウンスただ一人だけですので」
「ユ・・・?前にいたユ医師の事か?」
「はい」
「・・・確か前に彼女が病院のロビーで騒ぎを起こしたと」
「それが私に会いに来ただけで・・・あ」
そこでヨンは何かを思い出し、パッと瞳を輝かせた。
「そこで私の隣りに取引先関係の女性がいて、彼女が焼きもちを焼いてくれました。私に対して初めてしてくれたんです。私は10年も待ちました」
・・・10年。焼きもちされる迄に?
「・・・長いね」
段々と人事部の男性もヨンの会話に呆れながらも、微妙な感情になってしまっていた。
・・・何だろうか?焼きもちだけで?どんな風に彼女と接していたのか?彼女は本当にヨンに興味があったのか?
複雑な気持ちの疑問しか出て来ない。
しかしヨンがこんなに話すなんて昔から知っている限り無かった事で、人事部はチラリと曇りガラス側を見るといつの間にか室内も静かになっている。おそらく皆、病院内でダントツ人気で外科のホープと言われるヨンの話を聞きたいのだろう。
だが、顔の割には何とも話が・・・これは本当に恋人なのか?
「・・・え、と。ユ医師?彼女とは今は・・・」
「無事恋人になれました」
「あ、あぁそう、良かったね」
何だ、恋人同士にはなれたのか。
「・・・ですが・・・」
ヨンははぁーとため息を吐いた。
「は、はい?」
まだ何かあったのか?
何故か人事部の男性だけでなく、人事部内の職員が聞いている状態になり皆じっとして聞き耳を立てているのだった――。
「ただいま。イ先生ありがとうございました」
ヨンが人事部から帰って来て、自分のデスクに座った。
時間にすれば一時間と少し掛かった位であったが、ヨンの顔はスッキリとしている。
「何話して来たんです?」
「病院内で自分が悪い評価になってしまった原因」
「・・・?まぁ、それは無いと思いますが」
「そうなのか?」
自分の気持ちの浮き沈みで周りに迷惑を掛けていたのかもしれない、ヨンはそうなった自分の事情を話して来たのだった。
「大丈夫ですよ。人事部の中にも仲間はいますから」
「?」
イ医師はニヤリと笑うとカルテを持ち席を立った。
「何?」
テスがイ医師に近付いて来た。
二人は同期というのもあり仲が良く、時々飲みに行く友人でもあった。
「前に言ってただろう?怪しいメールの件」
「・・・?あ〜、はいはい」
「送信者がわかった」
「まじかよ?」
テスは顔を部屋の中に向け、直ぐイ医師に振り向くとこっち来いと廊下へと促した。
「誰だよ?」
「・・・まぁ、後から教える。とりあえず、気付いた分だけでも良いからコピーしておいてくれ」
「・・・何つうか、チェ先生恨まれてんの?て位酷いのもあるんだけど?」
「それはどうだか・・・。だが、確実に異常な行動ではあるがな」
「でも、執刀内容もあったし、患者、職員に対しての接し方、・・・なぁ?確実、内部」
しかし職員の登録メルアドには無かった。まぁ、どうせ捨てアドレスだとわかってはいたが。
「きっと反撃して来る」
午前の診察が終わり、ヨンとイ医師は昼休憩でもするかと廊下を歩き出し、
再びあの看護師と対峙した。
・・・が看護師の表情は怒りで赤くなっている。
ヨンは何も言わず足を止めていたが、看護師はそのまま二人に向かって来る様で。
とりあえずは、とイ医師は近くの壁に背を付けヨンから離れる事にした。
「貴方何を言ったの?」
「何を?」
どうやら看護師も昨日の件で人事部から呼ばれたらしい。しかし彼女の顔を見る限り、予想していた展開では無かった様だった。
ヨンは首を傾げ、腕を組み先程の様子を思い出す。
「何故、自分が評価が下がる事になったのか、を人事部で説明して来た」
看護師はピクリと眉を動かし、イ医師は看護師の顔を見ていたが、ヨンに向いた。
「何て言ったんです?」
「・・・その様な評価が出る事になったのは・・・自分がユウンスという女性を愛し、彼女に溺れてしまった結果だと」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ぐはっ!」
後ろで、珍しく普段静かなイ医師が吹き出している。
前に屈み声を堪えているのだろうが、肩がぷるぷると震えていた。
(20)に続く
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また長いので切りました汗
ヨン氏は人事部に惚気話をした様ですWWW(_Д_)
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