多くの人が、学習塾の商品は「授業」であると考えています。たしかに、塾に通えば講師がいて、教科ごとのカリキュラムがあり、授業が提供されます。私自身も、以前はそう思っていました。わかりやすく、楽しく、成績が上がる授業こそが塾の魅力であり、商品そのものだと。しかし今は、まったく違う考えを持つようになりました。
実際には、学習塾の商品=授業ではありません。授業は、あくまで塾が提供するものの一部、いわば「お通し」のような存在に過ぎません。現代の教育環境では、授業のクオリティに大きな差が出にくくなっています。動画学習や個別対応の教材が普及し、どこでも「わかりやすく、楽しい授業」を受けられる時代になったからです。言い換えれば、授業だけでは差がつかない時代になったのです。
では、学習塾が本当に提供すべき価値とは何なのでしょうか。それは、子どもたち一人ひとりにとっての「居場所」であり、「生きる力を育てる場」だと私は考えます。
たとえば、ある生徒にとって塾は、「本気で努力できる場」です。学校では周囲の目を気にして自分を出せない子が、塾では自然と前のめりになり、自分の可能性に挑戦していく。塾がそんな空気感を持っているからです。
また別の生徒にとっては、「安心して心を整えられる場所」かもしれません。家庭や学校では言い出せない悩みを、塾の先生には自然と話せる。そんな信頼関係の中で、少しずつ自分のペースで前に進んでいける。塾が学びの場であると同時に、心の避難所にもなっているのです。
さらに、ある子にとっては「自分の存在を認めてもらえる場所」として機能していることもあります。小さな成長を丁寧に見つけて、言葉でしっかり認めてくれる講師がいることで、「自分はダメじゃない」と思えるようになる。そんな経験が、自己肯定感を高め、やがて勉強への意欲にもつながっていきます。
このように、塾が本当に提供しているのは、「授業」ではなく、「子どもが前向きになれる場」なのです。その場には、「人」がいて、「つながり」があり、「信頼」があります。ただ知識を与えるのではなく、「学びたい」と思わせる土台を整える。それこそが、塾の本当の提供価値なのです。
もちろん、授業の質が低くては話になりません。けれど、いくら授業がうまくても、それが「心に届く場」でなければ、知識は定着せず、結果にもつながりません。だからこそ塾は、「授業を超えた価値」を意識すべきなのです。
今、私たちが考えるべきは、「どうすれば子どもたちがここに来たくなるか」「どうすれば、自分の力で人生を切り拓いていこうと思えるようになるか」ということです。その答えは、決して教科書やプリントの中にはありません。
塾という場所が、子どもの心を動かす「舞台」となれるかどうか。それこそが、これからの塾に求められる最大の商品価値だと私は考えます。