第9/20話：猫が見た！知識人のバカ話　「吾輩は猫である」のラノベアレンジ9

📘『吾輩は猫である』を3行で解説！

『吾輩は猫である』は、猫の目線という“ラノベ的第三者視点”で、
自意識過剰な人間たちの「カッコつけた不器用さ」を、
おかしくて、ちょっと寂しく、そして優しく描いた物語。

～キャスト～
吾輩	名前のない猫。冷静で毒舌、人間観察が趣味。意外と哲学的。
苦沙弥先生	主人。意識高い系の中学教師。理屈っぽいが、奥様には弱い。
奥様	家庭を支える現実派。感情が味噌汁の塩分に反映されがち。
迷亭	先生の友人。口達者で詭弁家、喋り出すと止まらない。
寒月	もう一人の友人。理屈っぽく冷静沈着だが、恋愛になると不器用。

今回は、猫の哲学と鋭い風刺が炸裂する回。
知識人たちの“空回りな会話劇”を、猫の静かなツッコミとともにご堪能ください。

先生の家には、ときどき“知性”が迷い込んでくる。
だがその知性は、見せびらかすための飾り物で、
本当の意味では、誰の心にも届かない。

吾輩、今日もちゃぶ台の下で、人間たちの会話に耳を澄ませている。

「要するにですね、近代人とは自己の内部においてすでに崩壊している存在なのですよ」
迷亭が、なぜか哲学者ぶっている。

テーマは「近代の精神構造について」。

いや、なんでお茶の間でそんな話するのか。

「それを言うなら、デカルト以降の思考が自己の分裂を生んだとも言えるでしょう」
と、寒月がマジトーンで返す。

「ふむ……だが、その分裂を感覚として受け入れられるのが、現代人の成熟というやつでは？」
先生、意味深にうなずきながら、干し芋をつまむ。

何この会話。

内容はそれっぽいけど、誰一人として“何を言ってるか”わかってない顔してるぞ。

吾輩は思う。

「人間は、“わかっていないこと”を、あえて難しく言おうとする。」

それはなぜか？

バカだと思われたくないからである。

本当に理解してる者は、もっと簡単に話せるはずだ。
しかし人間は、“わからない”という事実に耐えられない。

だから、専門用語を並べてみたり、
海外の哲学者の名前を引用してみたり、
「つまり……」を連発して会話の主導権を握った気になる。

——だが、結局なにも伝わっていない。
伝わらなくても、誰もそれを気にしない。

なぜならこの会話は、“理解し合うため”ではなく、
“自分の賢さを演出するため”に存在しているからだ。

迷亭が言った。

「要するに、ですね。人間とは“語ることでしか生きられない生き物”なんですよ」

吾輩、それには妙に納得した。

人間は、語ることで安心し、
語ることで存在を保ち、
語ることで、自分を証明しようとする。

でも——
その言葉が誰にも届いていなかったら？
それでも“語ること”に意味はあるのか？

吾輩には、わからない。

だけど、ひとつだけ言えるのは、

「たまには、黙って魚をくれ」