鎖ごと飛べばいい

「あなたの個性を活かせば、きっと輝けるよ」
そう言われるたびに、心が少しだけ苦しくなる。

 

だって私は、その個性のせいで、何度も生きにくさを感じてきた。
得意なこともある。好きなこともある。だけど、それは必ずしも「強み」にはならなかった。
むしろ、自由を奪う“性分”として、私を不自由にさせていた。

 

この物語は、そんな「扱いにくい自分」を持て余しながらも、
少しずつ、自分のままで生きやすくなる方法を探していく、一人の人の軌跡です。

変わるのではなく、設計し直す。


個性を活かすのではなく、時には“隠す”という選択を肯定する。

そんな視点に、誰かが少しでも救われたらと願って。

 

  プロローグ

 

「また、やってしまった」

彩花は、自分の中にある“何か”をまた持て余していた。 誰かに言われたわけじゃない。 でも、自分が普通じゃないことくらい、自分が一番よく知っている。

 

決めたルールを自分で破れない。だけど、他人にルールを押しつけられると、反発しかできない。 うまく笑えない。長く話せない。でも、話しかけないでほしいわけじゃない。

生きにくい。 

それが、彼女の毎日の感想だった。

 

  第1章:違和感という名の個性

 

「彩花って、ちょっと変わってるよね」

その一言が、ずっと頭に残っていた。 誉め言葉?それとも遠回しな拒絶?

彩花は、人と同じようにできないことが多すぎた。

  • 一斉に動くグループ行動が苦手。

  • 他人の空気に合わせると、自分がいなくなる感覚になる。

  • かといって、我を通すと「浮いてる」と言われる。

彼女の“個性”は、いつも誰かにとっての「困りごと」だった。

 

  第2章:演じることから始めた自由

 

社会人になってから、彩花はようやく「戦術」を覚えるようになる。

「無理に共感しなくていい。ただ、相手を否定しない言葉を覚えよう」 「会話が長くなるとしんどいなら、時間を区切る方法を持てばいい」

完璧にやろうとしなくていい。 ただ、自分の鎖をどうやって“見せないか”。 その技術を身につけることで、少しずつ生きやすくなった。

 

「この個性、変えられないなら…隠して使えばいい」 それが、彩花の生き残り術だった。

 

  第3章:憧れは、真似から始まる

 

営業先で出会った先輩社員、玲子。 彼女のようになれたらと、彩花は思った。

明るく、軽やかで、話し方も空気もふわっとしていて。 

 

「私にはない何かを持っている人」

でも、ふとした時に聞こえた。

 

「昔はね、全然話せなかったのよ。人前に出るの、怖かったし。」

それを聞いて、彩花は衝撃を受ける。

“あの人ですら、ゼロから作ってきたんだ”

なら、自分も演じていいんじゃないか? なりたい自分を、演じるところから始めてみても。

 

  第4章:鎖のままで飛ぶ

 

彩花は今でも、自分の性分が生きづらいと感じることがある。 

でも、それは「悪いもの」ではない。

むしろ、それがあるからこそ、 「無理な環境」や「不自然な空気」に敏感に気づける力もある。

自分の個性は、変えられない。 

 

でも、扱い方は、あとからいくらでも学べる。

人と違うことを「恥」じゃなくて、「武器」に変える。

 

その武器を、むやみに振り回すんじゃなくて、 「使いどころを選べる人」になろう。

 

  エピローグ

 

今日もまた、彩花は誰かに「変わってるね」と言われた。 

 

でも今の彼女は、笑ってこう返せる。

「うん、自分でもそう思います」

それは、自分を誇る言葉じゃない。 

 

でも、自分を扱えるようになってきた証だった。

彩花は思う。

 

「私は、自分という鎖を持ったまま、それでも前に進める人間になりたい」

 

そう願いながら、今日も静かに、自分という個性を連れて生きている。