連載形式での投稿をしていきます。
『自己を見失いながらも、哲学の思索を通して少しずつ自己理解を深めていく』
姿を描いていきます。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
■ 加代子(かよこ)
-
立場:中年女性、既婚、夫と子どもがいる家庭をもつ母親。
-
家庭構成:夫・子ども
-
性格・背景:
-
他者に合わせすぎて自分を見失いがちだった過去。
-
自己表現が苦手で、正しさや共感を求めるあまりに「問い」を持てないことも多かった。
-
哲学的な思考・内省を通じて、少しずつ「正解」よりも「いまの自分が大切にしたいこと」を選ぶようになってきた。
-
-
現在の変化:
-
人間関係や自己表現において徐々に自信としなやかさを獲得。
-
自分の経験を子どもや他者に伝えられるようになりつつある。
-
読み聞かせ活動を通じて、子どもたちに「問い」と「想像の余白」の大切さを伝えようとしている。
-
■ 理子(りこ)
-
立場:独身女性、OL(会社員)。
-
家庭構成:一人暮らし。パートナーや子どもは登場していない。
-
性格・背景:
-
感受性が強く、言葉に鋭く反応するが、内面はどこか虚無や迷いを抱えている。
-
加代子とは図書館や哲学的対話を通じて出会い、少しずつ心を開いていく。
-
加代子とは違う角度から「問い」と向き合っている存在。
-
-
現在の変化:
-
加代子との対話によって、沈黙や葛藤を恐れずに言葉を選ぶようになっている。
-
“正解”ではなく“自分の問い”を持ち始めている。
-
『“わたし”に耳をすませる』
第42章:言葉の灯を、ひとつずつ
金曜日の午後。
オフィスの窓際に射し込む光が、少しずつ春めいてきた。
加代子は、部署の若手メンバーたちと会議を終えた後、ひとりポットでお茶を淹れていた。
近くのデスクでは、後輩のひとりがため息をつきながら書類を見つめている。
「何か詰まってる?」
そう声をかけると、彼女は少し驚いたように顔を上げ、戸惑いながら微笑んだ。
「…なんか、“こう言えば正解かな”って探してる自分に疲れちゃって」
加代子は、湯呑をふたつ用意して、ひとつを彼女に差し出した。
「わたしも、ずっとそうだったよ。間違えたくなくて、正しくあろうとしてた。
でも、あるとき思ったの。“ことばを選ぶこと”って、“守ること”と、“寄り添うこと”の両方あるんだなって」
「寄り添う…こと?」
「うん。たとえば、“わからないね”って一緒に言うだけでも、
誰かにとっては大切な“正解”になることがあるのよ」
後輩は、小さく笑った。
「それって、答えじゃないのに、心がほどける感じですね」
「そう。ことばって、正しさより、あたたかさなんだと思うの」
その週末、加代子は久しぶりに友人と会う約束をしていた。
中学時代からの旧友・紗希。子育てと仕事の両立で、お互いしばらく会えていなかった。
ランチの後、静かなカフェに移動して、二人はカップを手にして向き合う。
「加代子って、昔は“無理してる”のがすぐ顔に出てたよね。今はすごく、やわらかい」
「うん。無理してないって言えば嘘だけど、“無理しなくてもいい”って言えるようになったかな」
「どうやって、変わったの?」
「問い続けるのを、やめなかったから…かな。でも、正解を求める問いじゃなくて、
“いま、わたしはどうしたい?”って、自分にそっと尋ね続けた感じ」
紗希がふと、寂しげな目で言った。
「私はまだ、問いすら持てないときがあるよ」
加代子は黙って頷いた。
自分もかつて、言葉にならない日々の中で立ち尽くしていた。
問いの言葉すら持てず、ただ疲れきって眠るしかない夜。
でも、その沈黙の中にも、小さな「願い」は生きていた。
「問いを持てなくてもいいんだよ。わたしもそうだった。
でも、“願い”は、どこかに残ってた。あたたかくなりたいとか、笑いたいとか、誰かと話したいとか…」
「…そっか。問いって、“希望の芽”みたいなものなんだね」
「うん。でね、それを見つけるのは、“誰かのまなざし”だったりするの。自分を見てくれる人がいるって思えたら、少しずつ、芽が出る」
帰宅すると、湊が笑顔で駆け寄ってきた。
「今日ね、せんせいに“やさしい想像、できたね”って言われた!」
「やさしい想像って、どんなの?」
「ともだちが泣いてたとき、“泣いてる理由はわからないけど、そばにいたらいいかな?”って思ったの」
加代子は、その言葉に胸がじんとした。
答えを探すより、想像する力。
正しさより、そばにいたいという思い。
“問いと想像”は、日々の中にあたたかく生きている。
夜、窓の外に目を向けると、遠くの家々の灯が静かに瞬いていた。
一つひとつの灯りに、誰かの「ことばにならない願い」が宿っているように感じる。
かつて、問いに怯え、答えに縛られ、正しさに溺れかけた自分がいる。
でも今は、それも“わたしの物語”だと思える。
そして、同じように
「問いを持てずにいる誰か」
「正しさを探して立ち尽くしている誰か」
「想像を失いかけている誰か」
——そうした人たちに、やさしく寄り添える自分でありたいと願う。
それは、ことばを渡すことではなく、
沈黙に、まなざしを添えること。
🔹次章予告:第43章:「でも、わたしは、わたしを置いていかない」
ラストの章に近づきながら、加代子の人生は静かに、でも確かに“ひと”と重なり始めている。
その姿は、読者の誰かの明日にも、きっと重なっていく。
「問いって、なんだろう?」
ふと湧いたその言葉を、ノートの端に書いた。
あなたへの問い
「今のあなたが、大切にしたい“まなざし”は何ですか?」
誰かの正しさに合わせなくてもいい。
選びきれなくても、ことばにできなくても。
“今ここにいる自分”の小さな願いを、どうか忘れないで。
独り言・・・
自分なんかダメだって
変われないって、何も出来ないって
言い続けている。
変われないんじゃない。変わろうとしていないんだ。
出来なかったんじゃない。やろうとしなかったんだ。
でも、それが言えて、伝えられるのは、相手が聞こうとしている時だけ・・・
私は大抵相手に合わせた話題を持って行って、その場を楽しく出来るようにする。
相手のニーズに合わせた対応をしようとしている。
でもさ、正直面倒なんですよ。
私は変わりたいし、進んで行こうとしている。
でも、隣にいる・・・職場でいつも横に居て話している相手は、自分はダメだって言っている。
別にいいんです。その人の価値観を否定はしない。
ただね・・・・だったら私の横で不満と愚痴と文句ばかり言うのを辞めて欲しい。
私も耳を傾けないんなら良いんだろう・・・
私も日々・・・帰ってきてから問いと自問自答・・・そしてゴールの無い迷路で楽しんでいる。
どこかで、「沈黙とまなざし」を使えるようになっていこうと思えていないのかもしれないな。


