連載形式での投稿をしていきます。

『自己を見失いながらも、哲学の思索を通して少しずつ自己理解を深めていく』

姿を描いていきます。

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

 

主人公:加代子

正しくあろうと、正解を選びたいけど選べない葛藤の中で、

自分を否定したくなる気持ちを持っている。

 

『“わたし”に耳をすませる』

 

第35章:ことばを、手渡す

週末の公園で、加代子は息子の遊びを見守っていた。

 

木陰のベンチに座り、風にそよぐ木々の音を聞きながら、周囲の親子の姿を目で追う。
視線の先にいたのは、幼稚園時代から顔見知りのママ友・遥さんだった。

彼女は子どもと二人きりで遊んでいたが、どこかぎこちない。


スマートフォンを何度も見てはため息をつき、笑顔を作っても目が笑っていない。

その姿に、ふと過去の自分が重なる。

 

他の親たちが楽しげに会話を交わす輪の外側で、どう入り込んでいいかわからず、ひとり立ち尽くしていた日々。
「話しかけないで」と自分から壁を作りながら、「誰かに気づいてほしい」と願っていた矛盾だらけの頃。

「……わかるなぁ」

加代子は小さくつぶやいた。


でも、次の瞬間、言葉が喉元で止まった。

——“今、話しかけたらおせっかいかな?”
——“私の経験なんて、押しつけがましく思われるかも”

迷いと躊躇が、胸の奥に広がっていく。

 

言葉をかけるということは、相手の心に踏み込むことになる。


だからこそ、いまでもまだ怖い。
かつての自分がそうであったように、遥さんにも、踏み込まれたくない気持ちがあるかもしれない。

ベンチの端に座りながら、加代子はうつむいて考え込んだ。

 


 

その日の夕方、家に戻った加代子は、息子と一緒に絵本を読んでいた。

 

読み終えたあと、彼がぽつりと尋ねた。

「ねえママ、どうしてこの人、ひとりぼっちなの?」

加代子は絵本の中の登場人物を見つめながら、しばらく考えた。

「……うーん、もしかしたら、“誰かと話したいな”って思ってるけど、どう話していいかわからないのかもね」

「じゃあ、声かけてあげたらいいのに」

その素直な言葉に、加代子の胸がつまった。

 

そうだ。「声をかけたらいい」――それが、どれだけ難しかったか。
でも同時に、あのとき誰かがそうしてくれていたら、どれだけ救われただろうかと、思い出す。

「……ママもね、昔そうだったよ。
だれかに“元気?”って聞かれても、うまく返せなかったんだ。
だけど、ほんとは、うれしかったんだよ。聞いてくれて」

息子は少し不思議そうな顔をしていたけれど、「そっか」とうなずいた。

「じゃあ、ぼくも、ひとりの子がいたら“あそぼ”って言う」

「うん。言葉ってね、魔法みたいだよ。
その子にとって、君の“あそぼ”が、今日いちばんのプレゼントかもしれない」

そう言って微笑んだとき、自分にも言っている気がした。

 

“余計なおせっかい”じゃない。
“誰かとつながりたい”って思うこと自体が、もう優しさなんだ。

 


 

夜、キッチンで食器を洗いながら、加代子はスマートフォンを手に取り、メモ帳を開いた。


そこには、こんな言葉が書き加えられていた。

「声をかける勇気は、
“わたしが言葉でつながってもいい”と思えるようになった証」

遥さんには、まだ声をかけられていない。


でも、今の加代子は、ただ見て見ぬふりをするだけの自分ではない。

「その人の沈黙に、耳を澄ますこと」
それもまた、はじまりの対話なのだと、知っている。

 

🔹次章予告:第36章:伝えようとすることが、すでに“やさしさ”だった

 

それは完璧ではなくても、他者の“孤独”を見つけ、“見つめる”行為そのものが、
新しい対話を生みはじめる——

 

  独り言・・・

 

声をかけたいけど、戸惑う気持ち。

 

ここに共感するのは私だけなんだろうか?

相手の気持ちが分かる。言わないけど伝わってくる・・・

 

でも、それは私の勝手な勘違いかも知れない。

特別親しいわけでもないのに、急に声を掛けたら嫌がられるんじゃないか?

声を掛けたとしても、その後の繋がりを持ち続けられない・・・

ちょっと面倒な気持ちもある。知らないままでスルーする方が楽な気もする。

 

どうするのが正解なんだろう?

 

結局、正解なんか存在しないって思う気持ちも持っている。

話しかけないと・・・行動しないと・・・結果は分からない。

正解かどうかなんて、私には決められない。

相手次第なんだから、私が考えても仕方ない。

 

だとしたら?どうする?

 

スルーしたくなるのが、現代社会のスタンスなんだろう

 

余計なおせっかいもトラブルの元

 

だから誰もが・・・見て見ぬふり

その壁を越えて、声を届けようとすることを選べるんだとしたら・・・

 

きっと自分に余裕があるから出来るんじゃないかな?

 

かける言葉を選ぶ余裕

相手の言葉を聞く余裕

相手の怪訝そうな顔を見る気持ちの余裕

 

優しさを表現することがあるなら、私は心の余裕を渡すことが優しさなんだと感じてる。

 

多分、私にはまだ心の余裕が足りないんだろう・・・

満たされない思いをいつまでも抱えているから・・・。