今月のブログは、連載形式での投稿をしていきます。
『自己を見失いながらも、哲学の思索を通して少しずつ自己理解を深めていく』
姿を描いていきます。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
主人公:加代子
正しくあろうと、正解を選びたいけど選べない葛藤の中で、
自分を否定したくなる気持ちを持っている。
『“わたし”に耳をすませる』
第32章:わたしという場所を、生きる
あの日からずっと、加代子の頭の中には、ひとつの言葉がこだましていた。
「問いを抱える」ことは、「答えを出せない自分」に耐えることでもある。
耐える……というより、「そのままでいる」こと。
誰かに急かされるわけでもないのに、正しい言葉、間違っていない態度、角の立たない返答を探そうとする癖は、なかなか抜けなかった。
むしろ、考えれば考えるほど、言葉が遠ざかっていくような日もある。
「これでよかったのかな」
「また、誰かを嫌な気持ちにさせたかも」
「わたしって、やっぱり……向いてないのかもしれない」
失敗した記憶の断片が、容赦なく心に押し寄せる。
正しさは、かつて加代子にとって**「罰を避けるための盾」**だった。
自分のせいにしておけば、誰かに責められるよりは楽だった。
誰にも責任を押し付けない、いい人でいれば、少なくとも嫌われない……
そう信じて、がむしゃらに“正解”らしきものを生きてきた。
でも、そんな日々の先に残ったのは、自分の輪郭がわからなくなった苦しさだった。
「正しくあるより、優しくありたい」
どこかで読んだその言葉に、心が反応した。
けれど、加代子はすぐにはその言葉を信じることができなかった。
「“正しくない”って、責められるかもしれないじゃない……」
問いすら持てない夜が、たしかにあった。
沈黙が重くのしかかるように感じていた。
言葉にするのが怖くて、誰かに見放されるのが怖くて、ただ笑ってやり過ごしていた。
だけど。
最近、少しずつ変わってきた自分がいる。
自分の言葉で話すと、たしかにどこかが揺れる。
でも、それでも人と繋がれる瞬間があると知った。
ある日の午後、理子とカフェで話していたとき、ふと理子が言った。
「加代子さん、最近、話すときの目が変わってきましたよ」
「え?」
「なんていうか、“自分のことを信じてる人の目”って感じ」
「そんな……信じてなんか……」
「ううん。まだ完全には信じてないかもしれないけど、問いかけてるでしょ、自分に」
「問いかける……?」
「うん。迷ったり、戸惑ったりしながらも、ちゃんと自分に向かってる。それってすごいことだと思う」
加代子は、熱いコーヒーを両手で包み込みながら、その言葉を胸に染み込ませた。
確かに、以前の自分は、いつも**“外”に答えを探していた。**
誰かに決めてほしかった。
誰かに言ってほしかった。「それでいいよ」って。
でも今は、問いの端っこに、自分の声がある気がする。
帰り道、夕暮れの風の中で、加代子はふと立ち止まり、心の中で言葉を確かめるように繰り返した。
わたしは、間違ってもいい。
選びきれなくてもいい。
正しさよりも、「今の自分が大切にしたいこと」を選んでもいい。
それは、以前の加代子なら、声に出すことすら怖かった言葉だった。
甘えだと思われたくない。
言い訳に聞こえるかもしれない。
そんな不安で、ずっと喉の奥に押し込んでいたもの。
けれど今、それを静かに肯定できる気がした。
「加代子って、優しくなったよね」
ある日、夫がぽつりと言った。
「えっ……?」
「なんか、前はもっとピリピリしてたというか。今は、ちゃんと怒ったり、ちゃんと笑ったりする感じが……いいなって」
何も言えずに、加代子は台所で手を止めた。
あぁ、そうか。怒っていいんだ。笑っていいんだ。
正しいかどうかじゃなくて、生きている“わたし”として、感じていいんだ。
誰かの答えに従うより、
誰かの正しさに寄りかかるより、
**「わたしの中にある問いを大切にすること」**が、今の加代子を支えている。
「選べなかったことも、失敗も、迷いも、
全部含めて、今の私なんだなぁ」
そう思えた瞬間、
自分の“曖昧さ”に、ようやく優しさを向けられた気がした。
🔹次章予告:第33章:「“わからないまま”で、いられる強さ」
迷い続けても、問い続けても、
人と共に生きていく道は開ける。
“わからない”ことを受け容れながら前に進む、新たな地平へ。
独り言・・・
正しさよりも、「今の自分が大切にしたいこと」を選んでもいい。
私の気持ちがここに集約している。
この言葉にたどり着くための物語。
立ち止まって良い
迷っても良い
悩んで、苦しんで、どうしようもない感情を抱えていても良い
私は、否定しない。
だからと言って、肯定して受け入れることもしない。
どうにもならないモノを持ったままで良い。
それが私なんだ。
正しさを求めているから苦しくなる。
「苦しいのは最善を目指しているから」
そのままで良いんだ。分からなくていいし、答えなんか出さなくていい。
大切なモノを見つけて、大切にしたいだけで私は生きていける。
それが素敵を選ぶって言うことなんだと、やっと気が付いた。


