今月のブログは、連載形式での投稿をしていきます。

『自己を見失いながらも、哲学の思索を通して少しずつ自己理解を深めていく』

姿を描いていきます。

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

 

主人公:加代子

正しくあろうと、正解を選びたいけど選べない葛藤の中で、

自分を否定したくなる気持ちを持っている。

 

『“わたし”に耳をすませる』

第30章:名前のない願いを、胸に

「何がしたいの?」
「これから、どうしていきたいの?」

最近、理子や子どもに、そう聞かれることがあるようになった。
それは悪意のない問いで、ただ加代子を思っての好奇心から発された言葉だった。

けれど、その問いに対して、うまく言葉が出ない自分に気づくと、
胸の奥に、わずかに苦みのようなものが残る。

 

——わたしは、何がしたいのだろう?

すぐに答えようとするクセを、今は少し抑えられるようになった。
けれど、それでも、どこかで焦りがある。

 

**「願い」**という言葉が、まぶしすぎて、遠くに感じるのだ。

 

「なにかを望むって、こわいことなのかもしれない」

心の奥で、加代子がつぶやく。
誰かに期待して、裏切られたときのこと。
望んだ未来が来なかったときの喪失。
そういう痛みを、何度も経験してきた。

 

だから、“こうなりたい”と思う前に、
「どうせダメだ」と言い訳をつけて、諦めることで自分を守ってきた。

「希望って、同時に恐れでもあるのかも」
「だって、願えば願うほど、叶わなかった時に傷つくから」

でも、だからといって、“何も願わない”でいることは、
どこか生きていないような感覚をもたらす。
それは「無難」だけど、「空白」でもあった。

「わたしは……ほんとは、どうしたかったんだろう?」

問いの中に沈んでいく。

 

***

 

ふと思い出すのは、子どもの小さかった頃のこと。

夜泣きで何度も起こされ、寝不足のまま仕事へ行き、
同僚に「もっとちゃんとして」と言われ、夫に「落ち着けよ」と言われ、
すべてに“ちゃんとしなきゃ”と思い詰めていた日々。

あの頃、わたしは“願うこと”を完全に手放していた気がする。

願うより前に、責任が山積していた。
なにかをしたい、と思うより前に、「するべきこと」が詰まっていた。

「願うなんて、甘えだ」
「求めるなんて、許されない」

そう自分に言い聞かせていた。

けれど、今なら、少しだけ違う言葉で言える気がする。

 

「願いは、必ずしも声に出さなくていい」
「まずは、自分の中で持っていていい」

 

心のなかにだけ、そっと仕舞っておく願い。
名前のないままでも、まだ輪郭が曖昧でも、
“ああ、これがわたしの感じてる何かなんだ”と、
じっくり味わっていくことは、できるのかもしれない。

 

***

 

ある日、理子とまた図書館に行った帰り。
公園のベンチに座って、ふたりで缶コーヒーを飲みながら話した。

「加代子さん、最近なんか、いい顔してますよ」
「え……わたし、そう見える?」

「うん。なんか、“考えてる”って顔。
なんでもわかってるふうじゃなくて、
“まだ途中です”っていう、素直な顔って感じ」

加代子は、少し笑った。

「……わたし、ずっと、途中なんだと思う」
「それでいいと思えてきたの」
「全部がわかってるふり、しなくていいんだなって」

「いいですね、その感じ。
“途中のまま、生きてる”って、たぶんいちばん人間っぽい」

「人間らしいって、未完成でいいってことだと思うんです」
──理子の言葉

その夜。
布団に入って目を閉じた加代子は、自分の心にそっと聞いた。

「ねえ、わたし、ほんとはどうしたい?」

すぐに答えは出なかった。


でも、以前と違って、その問いを、無理に押し込めたり、
焦って捻り出したりしようとは思わなかった。

「わからないままで、持っていよう」

名前のない願いを、胸に。

 

少しずつ形になるまで、
急がず、でも手放さずに。

 

🔹次章予告:第31章「“わかち合う”って、どういうこと?」

問いを持ち、願いを胸に抱えた加代子が、
“わかち合う”という言葉の本当の意味

共感と違う、“違いのまま共にいる”という距離感のあり方とは——

 

  独り言・・・

 

自分が仕事を持っていて、家事をして育児をする。

簡単に自分を追い詰めていく現実があらわれる。

 

子供の夜泣き・・・

経験した人なら分かるだろう。

 

逃げられない。誰も助けてくれない。

 

そして、それが当たり前のような風潮。

こんな世界でよく人が生きて行けると、今の私は感じてしまう。

 

もっと出来ることがあったはず

もっと伝えられることがあったはず

もっと何かがあったはず

 

私は無力だった。何も知らなかった。

今の私ですら、今を生きるだけで精一杯で余裕はない。

当時の私はさらに余裕が無かったんだろう

 

願いも思いも何も分からない。明日を迎えることが怖くて・・・眠ることが怖い。明日が来るから・・・

 

あの時から私は何も変わっていない。

世界も現実も変わっていない。

多くを学び、多くを経験してもなお・・・私は変わることが出来ない。

それでも、変われない現実と変わりたいと思う気持ちを持って、何も分からない自分を抱えて生きていても良いんじゃないかと、

今の私は感じ始めている。

 

綺麗ごとなんて何も言えない。

正解なんて存在しない。

どうしたらいいか?なんて私には分からない。

 

まだ私も旅の途中