ロデオ振り返り  後編 | 菅野貴夫の野球電鉄

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俳優・菅野貴夫のブログです。
「どこ鉄」とは、友人から送られてきた鉄道写真を、それがどこで撮られたものかを推理・検索・悪戦苦闘しながら解いていくシリーズです。

ロデオ振り返り、会議チーム編です。

前編はこちら


こちらの会議チームは文字通り、「日本演劇総理大臣賞」の最終選考会のシーンでした。
この年に政府により初めて創設された、「純粋な芸術作品」のなかで最も優れた作品に与えられる賞。
積極的・消極的関わらず、審査員全員の合意が得られることが受賞の条件。



榊陽介さん。

審査員長・岸先生。
演劇界の重鎮であり、大政翼賛会の文化部長。今回の選考会における審査員選出にも関わっている。この人に睨まれたら演劇界で生きていくことはできない、それほどの人物。
劇中では、岸先生はそれほど多く喋りません。というか、自分の意見はほとんど言いません。
それでも絶大な影響力をもたらす存在感、語られない部分の裏設定。稽古の休憩時間に榊さんといろいろお話をしていて、「そういう事なんだ!!」と何度思ったか。
存在が大きくなりすぎてしまった自分を理解して、一歩引いて後進の芸術家たちに道を与える。密かに羽田先生(後述)には目をかけている、いざという時は自分が盾になり、お前たちを守る。
…カッコ良すぎです、岸先生も榊さんも!



伊藤俊輔さん。

審査員・諸星先生。
まさに保身・迎合を絵に描いたような先生。
岸先生の太鼓持ちのように振る舞い、女権論者の宮古先生にはチクチクとやり、『残り火』に入れた羽田先生を小馬鹿にする。挙げ句の果てには他の先生方がすべて残り火に票が移った際に、個人的事情を持ち出してごねる。
最高に面白かったです。
ご本人はとても真面目でストイックな人で、身体はムキムキだし、神奈川県の大船のほうから王子まで平気で自転車で来るし、誰のムチャ振りにも丁寧に返してくれるし、伊藤さん大好きです。



島口綾さん。

審査員・小谷柏楊先生。
若手女性作家でこの場に緊張しつつ、変なことを言ってまわりを振り回しつつ、羽田先生の影響で『残り火』のなかに闘ってきた自分を思い出し、票を変える。
柏楊先生はまさに彼女の役でした。誰にも真似できない、唯一無二。それ以外言えない。あのキャラクター、間合い。観ているほうが固唾を呑んじゃうあの感じ。
彼女は2児の母なのですが(それもにわかには信じられませんでしたが)、長女の4歳くらいの子がゲネプロを観て「もう一回見たい。」と言ってくれたのは、本当に嬉しかったです。かあちゃん最高に素敵でした。



福田真夕さん。


審査員・宮古先生。
女性の人権拡張のため戦っている。理論派。相手が誰であっても、おかしいと思ったら徹底的に理詰めで来る。男尊女卑などもってのほか、やられます。
おそらく会議チームの男性陣は、僕も含めてみんな「この人には気をつけないといけない…」と思っていたことと思います。
凛とした佇まいと強い弁論。
最後、失意のなかでもキッと前を向く姿勢。カッコ良い。
個人的にはJACROWの時と全然違う真夕ちゃんの姿が(おもに稽古場で)見られて、楽しかったです。この美貌なのにパワーピッチャーみたいな人。


高野絹也さん。

審査員・古橋先生。
左翼演劇から転向し、時世に沿う形で生き残り作家として出世を果たした自分に、密かに忸怩たる思いを秘めている。
羽田先生の懸命な主張を聞き、真っ先に『残り火』票を変える。
最初は諸星先生とタッグを組んでいるような振る舞いからの、票を変えた時の覚悟のような震えと振り絞る言葉。
宮古先生との白熱した議論。
最後、「これだけ議論を尽くせた、私は満足です。」と言った時の、揺れ!!
僕が言うのは本当におかしいんですが(これも後述)、胸が熱くなりました。
そしてケンヤさんはなぜか年下の俳優陣から軽い感じで扱われていて、そこへのツッコミや本当に「あっ!」となった時など面白かったです。笑顔がとてもキュートなケンヤさん。



そしてこの人。
音野暁さん(ロデオ★座★ヘヴン)。

審査員・羽田先生。
劇団・極楽座の演出家。
極楽座のみんなを背負い、召集され生きて帰って来ることが出来なかった幹彦の思いを背負い、その幹彦の『残り火』を背負い、この選考会に参加している。
幹彦と同じく権力に屈せず、「真の芸術とは何か」が大事だと訴える。『残り火』の中に込められた芸術の力を訴えかける。
周りの委員がうろたえる程の政府批判も厭わず。
怪我と病気のデパートのため劇団チームには出ず。
まさに会議チームのエンジン。心臓部。
冒頭の異分子扱いから、徐々に審査員たちの心を揺さぶり、掴んでいく。
これは、さすが音ちゃんでした!
毎ステージ微妙に変わる会議室のニュアンスの中で、最大限のエンジンで迫ってくる。
そして両方が混ざるシーンでの、稽古で生き生きとした姿と会議での毅然とした姿。
唯一、両方の世界に生きていたあの姿。クゥー!


ラストにかけては、もう何も言うことないですよね。
選考会から戻ってきた羽田と雪子さんと、幹彦(羽田・雪子2人の回想)との3人のシーン。
今回のラストシーンでもあり、ロデオ★座★ヘヴンにとっての、区切りのシーン。
裏にいる皆が、「このシーンの3人のためにやってきたんだよ!後はあなたたちのものです!」思っていたはずです。

今回、「当事者である羽田が選考会に入っているのはおかしい」という意見も聞きましたが、我々のなかでは、
「それも含んだ上で、あえて岸先生が羽田を委員に選んだ」という設定になっています。



僕です。

文部省の役人・嵯峨野。
選考会の司会進行役。
壮絶な議論の末、『残り火』に全員の票が入ったあとに、「残り火には現政権への批判が込められている。こんな作品には受賞させられませんよ」と全てをひっくり返し、総理もお気に入りだった『紙吹雪』に受賞させると告げて帰る。
先生方は激怒したり羽田先生は掴みかかってくるけど…「警察に知り合いがたくさんいるんで、あなたたちなんかすぐ潰せますので。では。」
みたいな役でした。


実際は、毎ステージ、諸星先生が陥落して『残り火』に票が全部入った瞬間、心臓にグワーッと血が集まるのを感じました。

「今の瞬間、お客様も含めてこの空間には絶対に1人も味方はいない」そんな空気をひしひしと感じました。
当たり前ですあの状況。
THE・アウェイでした。

観てくださった方に、少しでも爪痕を残せていたら、よかったと思います。
現実を考えると、少しも良くないんですけど。

会議の前半、岸先生に忖度しているこの表情がお気に入りです(笑)

このような役で、会議を(劇団と混ざるシーンも)少し離れたところから見ていたため、皆様について偉そうにズラズラと書いたことをお許しください。




演出家・望月清一郎さん。

俳優にはそれぞれの持ち味を生かした創りかたを導いてくれ、空間造形に関しては「こういう風に見せていく」という具体的な形を早い段階から提示してくれて。
スタジオ稽古の初日から音響・照明をイメージした環境でできた事は、確実に本番の強度に繋がったと思います。
ご自身が主宰する団体「鬼の居ぬ間に」では日本の民話伝承や地方古来のしきたりをベースにした壮絶な物語を紡ぐことで定評のあるこのイケメンが!!
今回初めてだったけど、すっかり仲良くなりました。



演出助手でついてくれた、
宮藤仁奈さんと、神近梨子さん。

お2人とも、僕はキコ/qui-co.からのお付き合いです。今回のもう一つの演目『アイラブユー』の小栗さんのユニットですね。

ニーナは、こんな言い方は失礼かも知れないけど、すごく成長したんだなと、頼もしくなったなと思いました。振る舞いや背筋の張りが違う。相変わらず会話がチグハグなとこもあったけど。若い人の成長って本当に目覚しくて、こちらの中年にも刺激になります。
心残りは、裏の仕事があったため本番を1度も観てもらえなかったこと…
そんな僕の感傷はよそに、彼女はグングン成長していくんでしょう。


かみちかは、共演者としては今まで3回やってきたけどスタッフとして関わるのは初めてで、しかし何の問題もなくいろいろ頼りました。
嵯峨野の持っていた帳面や、中に入っている紙や投票用紙。お客さんに見えないような所もしっかり作ってくれて、本当にありがたかった。
そして彼女のもつ安心感。癒し。
今回初めてだった方々も、すっかり癒されたことと思います。



そして、脚本の柳井祥緒さん。
本当にものすごい本を書いてくださいました。
台詞から、その合間から、ほとばしる熱と噴き出す血のようなものを感じました。
ご本人はとても無口で大人しい方で(以前を知っている方は全然違った、と言っていましたが)、あまりお話はできませんでしたが、柳井さんの脚本に出ることができて本当に嬉しかったです。


(柳井さんは写真最後列・中央)

改めて、今回関わってくださった皆様に感謝を!!!ありがとうございました!


いつか、また!!