続きです~
【(仮)『肉食キョーコちゃんのヘタ蓮君添え』レシピができるまで 5】
黒崎監督の手がけるCMシリーズは、誰でも応募できるオーディションで行われた。
『誰でも応募できる』のであれば、前回までのメインキャラクターである私が応募しても構わないはずだ。久々にショッキングピンクの戦闘服に身を包み挑んだオーディションで、なんとか切符を掴むことができた。
オーディションだったのに前回メインキャラの私が採用されたことで、ヤラセだのなんだのと騒動が巻き起こったが、黒崎監督の製作姿勢と本名と素の状態でオーディションを受けた私に黒崎監督以外誰も『京子』と気づかないままだったことで事なきを得ることになった。
「追われて逃げる草食獣じゃなくなるの!誰よりも速い足と鋭い牙で狙った獲物は必ず仕留める!!」
「全くもって同感ですっ!!!」
そう、足りないのは攻めの姿勢だった。
黒崎監督が発破をかけてくれたおかげで目が醒めた気分だった。
「京子ちゃん攻め攻めねっ!」
「もちろんですっ!攻めの姿勢を忘れてはいけないと肝に銘じています!」
そう、黒崎監督のあの言葉は与えられる仕事と評価に慣れきった私への戒めだったのだ。
「えぇ?京子ちゃんも同意?いがーい!!」
「そう?」
「そりゃ仕事に対して攻めの姿勢を忘れないって評判だけど・・・、京子ちゃんってもっと奥手で受身な印象だったのに」
「そこまで断言するんだもん、聞かせてもらえるのね」
「京子ちゃん、どんな風に攻めるの?」
受け身で仕事を待っていたんじゃ一時は良くてもその先に広がりが無い。
「まずは広く見渡して・・・」
「そこから!?」
「今一番興味がある物を狙います。あ、たまに今までと真逆のイメージのものを狙うのも良いですね。マンネリ防止になりますし、新たな発見も多くて新鮮です」
「すごーい!それって切れ間なしってこと!?」
「ターゲットを絞ったら情報収集が肝です!獲物をしっかりと把握して・・・」
「基本ね!」
「自分のセールスポイントは如何なく隅々まで利用します!まずは目に止めてもらわないと!」
「うわぉ、積極的!でも京子ちゃんのセールスポイントって?」
「うふふ、礼儀正しくて奥手な印象なのにこんな発言・・・ギャップ萌え?」
「って事は、キョーコちゃんテクニシャンなのかしら!?」
「いいわね~、男なんてイチコロね!」
へ?
テクニシャン?
イチコロ?
何でオーディション受けに行くのにそんな単語が?
「いえ、監督がいつも男とは限りませんけど・・・・?」
「監督ぅ~~!?キョーコちゃん若いのに結構おじ専!?」
「やだ、若い監督だっているじゃない!いつの時代のイメージよ」
「ん~~、でも監督のおじさまって女優さんたくさん見てて目も肥えてそうよね」
「・・・ってことは、やっぱりテクニシャンなんだっ」
今日はトークバラエティ番組の後、共演したお姉さま方に誘われての女子会。
女優、アイドル、歌手、タレント、芸人、などなど・・・同じ芸能界で活躍している方々だけど職種は多種多様。女優業が半分以上になってきたが、もともとタレント部門の私。バラエティの仕事もあり、こういった様々なジャンルの方々と交流を持てる機会はとても貴重だ。
オーディションで勝ち取った仕事について話をしていたはずが、どうもさっきから会話がかみ合っていない気がする。
「あの・・・?」
気がつけばテーブルの上にはたくさんの空き瓶が並んでいる。アルコールも手伝って饒舌なお姉さま方は私がはたと立ち止まったのに気がついてはくれなかった。
「キョーコちゃん、チューうまいんだ?」
「へっ?」
キス?そんなものはほとんど経験ないですよ?
「そんなの基本でしょ。それよりこっち?」
「はっ?」
グラスをテーブルに置いたお姉さまの一人が滑らかに指先を動かして軽く何かを握るジェスチャーをする。
「違うわよー。チューっていうのはそっちのチューじゃなくて~」
もう一人のお姉さまがカクテルに浮かべられていたチェリーを意味深に持ち上げ、色っぽい仕草で唇を開き口の中に放り込んでいる。ぺろりと出した舌が物凄く艶めかしい。
「ああ、ご奉仕の事?」
「そそ、京子ちゃん結構尽くし系じゃない?」
「やっぱりギャップ萌えじゃん!」
「京子ちゃん運動も得意だし体柔らかかったよね。って事は・・・腰遣いも?」
「この細腰にやられちゃうんだっ!」
「ひゃっ・・・!」
お姉さまの色っぽい仕草に目を奪われ、ワイワイと展開していく会話についていけずにいると急にウエストを掴まれた。
「やだ、細いけど筋肉ついててしっかりしてるわ」
「くびれもしっかりしてるー。やだ~あたし負けそぅ」
「アンタは爆乳がウリのグラドルでしょ!ジャンル違いじゃん」
そういってきたのは、一度目に入ったら焼き付いてしまうほどの豊かなバストのグラビアのお仕事をされているお姉さま。
ああもう、見たら自分が惨めになるだけなのに目がいっちゃうわ・・・。
「控えめサイズで程よく柔らかそうなんて、美味しそうじゃない?」
「失礼よー。あら?控えめって言うより着やせ?」
女同士だからなのか、酔っているからなのか腰を掴んだお姉さまは遠慮なしに今度は襟元を覗き込んだあげく、ちょっと失礼、と正面から胸元に手を伸ばしてきた。
「・・・っ!」
あまりの事に声も出ない。
「やっぱり!結構しっかりあるわっ。しかもなんていうか~私の手にジャストフィット!癖になりそう~」
「けど京子ちゃん!攻め攻め肉食でもいいけど、ちゃんと相手選んでる?とっかえひっかえじゃダメよ~」
「あら?さっきの感じだとちゃんと見極めてるっポイこと言ってたじゃない」
「飽きて捨てちゃうんなら見極めが甘いって事よ。ある程度経験は必要だろうけど」
「そうねぇ~・・・男とっかえひっかえなんて度が過ぎると悪印象だし」
もにもにと少ない胸部の肉を揉まれながら、なんでラブミー部員の私がこんなことを言われなきゃいけないんですか!
「~~~~~っ!何の話ですかっ!?」
「「「「何って、男?」」」」
「は!?」
「狙った男は積極的に落としにいくって話でしょ?京子ちゃんが話題振ったんじゃない」
「何言ってるんですか!?私は恋なんてしませんし、男性と付き合った事なんてありませんっ!!」
力いっぱい叫ぶと、キョトンとした視線が一斉に私に向けられた。
「「「「えええぇぇ~~!?」」」」
・・・・・・・・・お姉さま、いい加減に私の胸を揉むの止めてもらえません?
ようやく私の誤解が解けたと思ったら、今度は耳を塞ぎたくなるようなあけすけな男女の付き合いの事とか、女を磨くための方法だとか・・・・
ともかく、恋愛関係においても仕事と同じように攻めの姿勢が必要なのだとコンコンと聞かされる羽目になった。