ACT205妄想【11】 | 妄想最終処分場

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10/19発売の本誌ACT205の続き妄想です

ネタバレものなので、未読の方、コミックス派の方はバックプリーズ!!


今回の続き妄想に関しては別途お知らせがあります。読み進めの前にこちらを一読の上お願いいたします→ACT205妄想についてお知らせ
※お知らせを未読の状態でのご意見・質問(特にクレーム)に関しては厳しい反応を返すやもしれません。必ずご確認ください。




それでは自己責任でご覧くださいませ↓








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((……もうすぐ、終わる……))


手を伸ばせばすぐ届く距離なのに

その距離を縮めるのが恐ろしい


いやすぐ届くと思っているのが誤りか


でも終わりが来れば、その距離は幻だったと掻き消えるのだ



ACT205妄想【11】



いつぞやのように、カインはB・Jの手袋を外してセツカの頬を撫でていた。

するりと頬から項を撫でる手の心地良さをセツカの表情の下に隠し、キョーコは先ほどまでカインが飲んでいたミネラルウォーターのボトルを手にした状態でされるがままに任せている。控室でなく撮影現場の一角で行われているその様子に、恐れ戦いて目を逸らされたり、冷たい視線がちらちらと投げかけられたりしているが2人は一向に気にする様子はなかった。


『……気が済んだ?』


以前は撫でるだけだったのに今回は抱き寄せて耳元にキスまで落とされいる。しかしセツカはやや呆れ気味な表情を浮かべただけで、すっとカインの手に衣装の手袋を嵌めていた。


『ああ…これでもう邪魔されないと思うと、な』

「…っ!この変態野郎!早く来やがれっ!!」


トラジックマーカーのラストシーン。このシーンの撮影でOKが出ればクランクアップだ。

カインが定位置につけば撮影が開始される状況で、セット内に入った村雨から怒号が飛んでくる。既にスタンバイ済みの出演者は二人を遠巻きに見ているが、いきり立つ村雨の隣には面白くなさそうな表情の愛華が立っていてカインの背中を見つめている。

背後の様子をチラリと確認し、まだ動こうとしない兄にセツカは両手を伸ばした。特殊メイクで滑らかな手触りではない頬を包んで引き寄せると、カインは逆らわずに長身をかがめてきた。大きなカインの背にセツカはすっぽり隠れ、引き寄せている腕だけが共演者の目に入り背後から悲鳴じみたざわめきが上がり空気を震わせる。


『変なの。それなら終わってから好きなだけすればいいじゃない。アタシはこんな仕事さっさと終わらせて兄さんと二人でいたいわ』


こつんと額を合わせてくるセツカ。蓮の目に目を伏せたセツカのメイクで盛られた長い睫毛が映る。


『そんなこと言っても、BJを演じるのが最後だから寂しいんじゃないの?』

『……?』


そろりと持ちあがった瞳。その真意を見定める前に、特殊メイクを施した唇に残った水滴をセツカの親指がグイッと拭っていった。仕事を渋る兄を宥めるような仕草なのだが、じっと見つめていればその瞳は少しばかり悪戯の色を含んだ笑みをのせていた。


『魂がリンクするほどの役でしょ?…あ、BJは死体だから魂はないか』


以前に指摘された時は取り繕えないほど動揺していた自分が遠い過去のように蓮には感じられる。こんな笑みを浮かべて揺さぶりをかけてくるセツカに、演じているキョーコにいよいよ心配をかけたのだなと蓮は苦笑するしかない。


『兄さんの死神はゾクゾクしてココにクルけど、アタシは兄さんの方がいいわ』


トンと自らの心臓を叩くセツカの指先を追いかければ、露出度の高い服装に柔らかな曲線を描く白い肌を視界に入れてしまった。


『……行ってくる』


宥めすかされたルーズな兄の態度で、蓮はセットに足を向けた。


(寂しい…か)


寂しさを感じているのはクランクアップすれば解消されるこの関係だろう。


素の二人なら有り得ないほど物理的に近い距離と接触。

役柄上互いに向け合う濃厚な愛情。


愛の欠落者たるキョーコが身に着けたセツカの愛情表現の由来を知ってしまって、向けられる度に錯覚して喜ぶ心と黒い嫉妬に気持ちを持て余すこの数日は苦しかったはずだ。

思い出すのは海辺で見た切なくて堪らないキョーコの表情と、卑怯な自分に縋るほど強い恋心。

そして、己の浅ましさ。


「オタクらがそういう関係なのはどうでもいいが、場の空気は読めよな!この鬼畜めっ」


セット内に入れば相変らず直情型の村雨が絡んでくる。自らの思考に沈んでいた蓮はその罵声に小さくため息をついた。


「……何が問題だ?」

「兄妹でデキてようがヤッようが俺たちには関係ないが、それを現場に持ち込むなっ!」


珍しく日本語で返したカインに語気荒く村雨は苛立ちをぶつけてくる。


(…?)


カインが時間にルーズなのも、周囲を無視するのもいつもの癖に嫌に突っかかってくる村雨に蓮は小さな疑問を感じた。共演者はみな気まずげに視線をそらす中、ふと村雨以外に愛華が少しむくれて自分と背後のセツカを見比べているのに気が付いた。


「カ、カインさんっ」


それと同時にテストでカメラを覗き込んでいたスタッフが、慌てて声をかけて駆け寄ってくる。


「これから撮影だっていうのにメイクに口紅なんかつけやがって!テメーそれでも役者かよ!?」


自分の口元を指差し非難する村雨と駆け寄ってきて唇のメイク直しをするスタッフ。わざとらしく背後から見れば口付けを交わしている風に見えただろうとは思ってはいたが、実際にはそんなことはしていない。メイク直しを施されながら、蓮は視線だけ動かした。

忌々しげに吐き捨てた村雨の隣の愛華の表情が更に険しくなり、ふっと視線を足元に落とす。愛華の逸らした視線の元をたどれば、こちらを眺めているセツカに行き着いた。目を細めて妖しげな微笑を浮かべた妹は表情の変った愛華を見ていたが、ふと自分を見た兄の視線に気づく。


絡んだ視線の先で。

セツカは表情を崩さないまま、さりげない仕草で親指で自分の唇をなぞっていた。

最上キョーコからは全く想像できないセツカの嫉妬と仕返し。セツカであってもそのベースはキョーコで、撮影に支障をきたすような行動を自ら取る事なんてしたことはなかったのに。


(……まったく、どうしてくれよう)


怒ってなんかいないと乱暴に盛られた食事を出された時とは比較にならない。考え込めばその背景にあるキョーコの感情に嫉妬が湧き上がるのだが、反射的に込み上げるのは悦びに近い感覚だった。








(……最後、だからいいよね)


カインのメイク直しで更に遅れて始まった最終シーンの撮影。すぐに終わると思っていた撮影は愛華がNGを出し一発でOKが出ずにすでにテイク5になっていた。

思わず取ってしまった仕返しにキョーコは人知れず心中で言い訳をした。


(敦賀さんに言い寄る女性に嫉妬しても、こんな風に振る舞えることなんてもう無いもの)


彼が敦賀蓮に戻れば彼に恋する女などそれこそ吐いて捨てるほどたくさんいるのだ。綺麗で実力があって誰もが認める素晴らしい女性だってたくさんいるだろう。

思えばこの気持ちを認めざるを得ない状況に陥ったのは、嬉しさよりも先に自覚してしまった嫉妬心からだ。カインが、ましてや蓮が愛華に惹かれるとは元々の付き合いで思ってもいないし、第一蓮の苦しい恋の片鱗だってキョーコは知ってる。

それでもキョーコの小さな嫉妬心は兄を溺愛するセツカとシンクロして大きく膨らんだ。


自分以外の女を撫でた兄に感じた苛立ち

そんな兄の気まぐれに酔って愚かな行動をとる愛華に感じた蔑み

兄は自分のモノだという独占欲


気がつけばカインは自分のモノだと知らしめて、そして迂闊な行動をとった最愛の兄に仕返しをしていた。

そんな仕返しすら、カインが許容すると確信を持って。


(これから先、こんな思いをずっと抱えていくの…?)


向き合うと決めたはずなのに、受け入れたら怖いと思っていた気持ちが蘇る。どんどんと育つ醜い気持ちを恐れていたのに、実際に育ってしまったこの気持ちは更に肥大していく予感がした。


「カーット!」


(…っ、いけない・・・!)


己の思考に囚われたキョーコは、カットがかかった監督の声で慌てて撮影現場に視線を走らせる。カインは後ろ姿で表情は見えないが、他の出演者は緊張の面持ちでカメラチェックをする監督を見つめていた。


「OK!これで終了です。クランクアップ!」


監督の声に、わっと歓声が沸き上がる。これでトラジックマーカーの撮影はオールアップとなる。すなわち、この仕事…ヒール兄妹としての生活も終わりなのだ。互いに肩を叩いて撮影終了を喜ぶ出演者には目もくれず、カインは気だるい足取りでセツカに歩み寄っていた。


『帰るぞ』


セツカの脇を通り過ぎ控室に向かうカインにキョーコは監督に声をかけるべきか迷ったが, そのままセツカとしてそれに従う。スタジオの扉を閉めれば、沸き立つ現場の喧騒が瞬時に掻き消えコツコツと二人の足音だけが廊下に反響する。


(…もう、終わるんだ…)


気持ちのまま手を伸ばしても許容されるこの偽りの関係はもう終わるのだ思ったら、キョーコの手は自然とカインの手に伸びていた。指先が触れると、ごく自然に絡め取られ指が絡まる。


『…どうした?』


繋がれた自分の手を見つめていたら、歩みを止めないままカインに問われる。


『ん…なんでもない。お疲れ様、兄さん』

『ああ、これでもう邪魔されないな』


控室のドアを開け中に入ると、カインの手に引き寄せられそのまま抱きしめられた。


『ありがとう、セツ…』


セツカとして抱きしめられているのにキョーコの心臓は勝手に速度を上げる。

でもその声色の中に、カインでなく蓮の色を感じ取ってキョーコはこの距離感を失う時が来たのだと早まる鼓動に重苦しさを感じていた。


『ウン…』


抱きしめ返した手は、弱々しくカインの黒衣を握っていた。


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なんだかグダグダとグアム編終了…。カイセツエピを活用しきれない感満載ですが、先に進むことを優先しますー…