真夏の海のA・B・C…D -3- | 妄想最終処分場

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ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

真夏の海のA・B・C…D 



真夏の海のA・B・C…D -3-



苦しい


息ができない


揺らめく水面は太陽の光で明るいが、身を包む水温は次第にひんやりと冷たさを深める。

もがいてみても、体にまとわりつく服が重くキョーコは水面に這い上がることができない。

もがけばもがくほど水面が遠のき、苦しさが増す。



(……も、…ダメ……)


キョーコは自分が持ちえた空気が泡沫となって沈む自分と正反対に上っていくのを、遠ざかる意識の中で見上げていた。







(…………熱い)



何かが自分の中に入り込んでくる感覚に、キョーコの意識は浮き上がった。

息苦しいが、息を吸おうにも胸が一杯でとにかく吐き出さなければどうにもならなかった。息を吐こうとしても、口が塞がれてるのか息が押し込められているかのようにうまくいかない。


キョーコが力の入らない手を握りしめて振り回すと、ふっと圧迫感が外れた。


「…っ、はぁ…っ!」


詰めていた息を吐き出した後、喘ぎとともに自然と大きく息を吸い込んで空気を貪る。


「あ…、気がついた?」


目を開ければ視界はぼんやりと霞んでいた。

明るい空に照りつける太陽が頭上にあるはずが、刺すような日差しはぼやける瞳を焼くことはない。何かが陰になって、強い日差しを遮っているようだった。


次第に焦点を結び始めたキョーコは、それと同様に浮き上がり始めた意識の中で普段ならあり得ないほどの…唇が触れ合うくらいの至近距離に見知らぬ瞳を見つけていた。距離が近すぎて顔全部は視界に収まらなかったが自分に向けられた声色に、キョーコは目の前の人物が男だと認識した。


つい先ほどまでキョーコのの呼吸を塞いでいたのは、この男の唇であった。いや、塞いでいたというよりは息を吹き込んでいたのだが。


(……な…)


状況を理解する前に、喘ぎながら呼吸を繰り返していたキョーコの体は飲みこみそびれた唾液で激しく咳き込みはじめた。

海水の塩辛さも手伝って咳はキョーコに更なる苦しさをもたらした。生理的な体の反射に横向きに丸まり、ひとしきり咳き込みが収まると、キョーコは力が入らない自分の手を見つめた。


「…え、…わ、…わたし…」


海に転落して溺れた事実を混乱ですぐには認識できないキョーコは、咳き込む呼吸の間で疑問の掠れた声を漏らしていた。

見つめた先で自らの手首が長い指先の大きな手に掴まれ、自分に落ちた影にキョーコはゆっくりと頭上に視線を向けた。 気が付けば背中にも大きな手が触れていて、咳き込む自分を労わるように擦ってくれてる。


そこには、先ほど見た見知らぬ男性の顔。

整った顔立ちに切れ長の瞳が心配そうに覗き込んでいる。


完璧すぎるほど整ったその美貌に、働かない頭で天使がお迎えにでも来たのかしら…とぼんやりと考えていると、その瞳がキョーコの視線と絡まって…


……くしゃりと、いっそあどけない程ほっとしたように緩まった。


同時に体を抱き起されて、キョーコはぎゅっと抱きしめられた。

見知らぬ男からの突然の抱擁。


(あ……あったかぁい…)


鈍ったままのキョーコの思考は常ではないこの状況をすぐには理解できず、冷えた体に伝わってくる体温に心地よさすら感じていた。


「………はぁ、よかった」


キョーコの耳元に落とされた安堵の色をにじませた小さな声。

男はそう漏らして抱きしめていたキョーコから少し身体を離して、キョーコの顔を改めて覗き込んだ。

キョーコの瞳が意思を持って自分を捉えていることに、心底ほっとした様子のこの男。


キョーコは訳も分からず目の前にある美形の顔をまじまじと見つめていたが、ふとその顔が随分と近い事に気が付いた。

鈍っていた思考が徐々に動き出すが、まだ現実の時間の速度に追いついていない。


(……………え?)


近すぎて瞳しか見えないと思った瞬間に、唇に触れた熱。


(……な…に、何が…起こってるの…?)


「君、溺れてたこと分かる?…今はだいぶ意識はしっかりしてきたみたいだね」


(い……いま、キ、キキキキ…キス、された……!?)


訳も分からず固まっていれば、ちゅっと軽い音がして下唇を軽く食まれた感触に…





……………一気にキョーコの思考は突き抜けた。


「…き、…きゃあああああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!」


平均以上の肺活量をもって繰り出されたキョーコの大絶叫。

ギュッと目を瞑り思わず振り上げたキョーコの右手は、目の前の男に向かって振り下ろされようとしていた。しかし真っ直ぐ頬に向かって定番通り男の頬を打つ予定だったキョーコの手はその途中で手首を捉えられ、バチーンという肌を打つ音は響かなかった。


「…!?」


つかまれた手首に、手のひらに伝わってこない肌を打つ衝撃。


「それだけ元気があれば大丈夫だね?」


降ってきたその声にキョーコが目を見開けば、そこにはにっこりと笑った綺麗な顔。


「………へ…?」


同時にまたしても、塞がれた唇。


「っ…んぅ~~~!!!」


奪われた呼吸に、口内を遊ぶ滑る熱い何か。

キョーコの意識は、再度この場から離れることとなった。