真夏の海のA・B・C…D -4- | 妄想最終処分場

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ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。


これまでの話

真夏の海のA・B・C…D     



真夏の海のA・B・C…D -4-



キョーコが意識を失っているその間。


キョーコが再度意識を失う原因を作った男は、仮設テント奥のライフセーバーの救護室前で同僚に進路を塞がれていた。


「社さん、どいてください」

「いーや、ダメだ!」


社と呼ばれたその同僚は眉間に皺を寄せて懇願してくる男を一瞥した。


「どうしてですか!救助した相手がまだ意識を取り戻してないんですから、誰かが側で看ていた方がいいでしょう?」

「蓮、訂正しろ。意識を取り戻してないんじゃなくて、再度意識を失わせたんだろ。ライフセーバーであるオ・マ・エが!」


社の言葉にキョーコを救助した男…蓮が若干ばつの悪そうな表情で一瞬だけ視線を逸らした。


「だいだいな。一時救助を行った後、救急隊を呼んで病院で異常ないか診察してもらうのが筋なのに、彼女にそれができないのはお前のせいだからな」

「……………」

「救急隊に言えるかよ。一時救助で最初は意識も確認できた患者がどうして今また意識を失っているかなんて」

「いや、病院での診察まで必要ないでしょう?意識もしっかりしてたし、バイタルサインも異常ないんですから」


社に通せんぼされた先の部屋からは、ピッ、ピッと規則正しい機械音が響いてくる。

奥の救護室に運ばれたキョーコは、いまだ意識はなく簡易の生体情報モニターを装着されベッドに寝かされている。キョーコの生体反応を示すセンサーは異常値を感知してアラームを鳴らすことはなく、現段階で容体に危険な予兆は認めらない。


「そういう問題じゃない!意識を取り戻した相手に救助に当たったライフセーバーがディープキスかまして失神させたなんてどういう状況だっ!」


神聖な仕事中に!お前は何をしているんだ!と拳を震わせながら説教モードで詰め寄ってきた社に、蓮は不貞腐れたように口を尖らせた。


「だって仕方ないじゃないですか…」

「何がだよ!」

「一目惚れだったんですから」

「………は?」


キョーコが海に転落したのを目撃したグループの騒ぎを聞きつけ、いち早く現場に駆け付けたのはこのビーチの安全管理を担うライフセーバーの一員の蓮だった。

水面に浮いてこないキョーコを心配して騒ぐ男たちに転落位置を確認すると、蓮はすぐさま海に飛び込んだ。


水中で動かないキョーコを見つけすぐに引き上げ救命活動を展開したのだが、引き上げたキョーコの顔を見たとき蓮のハートは打ち抜かれてしまったのだ。


「運命を感じましたね、一瞬で恋に落ちました。これって一目惚れですよね?」

「…………蓮?」


いきなり飛躍した話題に社の目が点になる。

この男は何を言っているんだ……?

社の思考は蓮の言葉についていけない。


「だから意識を取り戻して俺を見てくれた時に、こう…思わず、……ね?」


若干頬を染めてはにかんだ表情で「ね?」と同意を求める蓮に、社はくらりと眩暈に似た感覚を覚えた。


「嬉しさで思わずキスしちゃっても仕方ないじゃないですか」

「…………もしもし、蓮君?」


理解できない。

しちゃっても仕方ないって…


そもそも社の知っている同僚の蓮は、超美形で文武両道。傍から見たら非の打ちどころのないイイ男の評価をほしいままにする、そんな男だ。しかもこんな外見にもかかわらず女性に対して貪欲さはなく言い寄ってくる女性にもお友達、的なそつない態度で対応する紳士な男だったはずなのだが…。

過去告白してきた女性と付き合った時期も知っているが、いつも女性側のアプローチに始まり、不誠実なことはしないまでもやや淡白な蓮に女性側がしびれを切らして破局するいつものパターンも社は見てきている。


こんなに女性に対してぶっ飛んで男の面を見せる蓮に、社は今までの蓮のイメージを覆されるほどの衝撃を受けていた。


「まぁ、飛び出た悲鳴に十分元気なことを確かめられたし、その…ちょっと抑制が効かなかったことは認めますけど…」


ちょっと…なんだろうか?

相手の意識を奪うほどの濃厚なキスをしておいて。


色々とツッコみどころ満載な蓮のセリフに頭痛がしてくる。


「…………………どういう理屈だ」


混乱を極め、項垂れて片手で額を覆った社に蓮は心底不思議そうな顔をして首をかしげた。


「え?だから、彼女に一目惚れしたんです!好きな人とキスしたいなんて当然の衝動でしょう?」


蓮の理屈も行動理由も社の感覚では理解不能だ。

しかも社の脳内では仕事に対して真摯だったはずの蓮の行動に、ライフセーバーとしての職務や規律やら整理しきれないいろんな情報がぐるぐると脳内を渦巻いていた。


「…………ごめんよぉ、キョーコちゃん…」


そしてこんなぶっ飛んだ同僚の知られざる一面を今はじめて知った社は、蓮が背後の少女に今後猛烈にアプローチを開始するだろうことが容易に想像できた。いや、社が謝るのも筋違いなのではあるが…。


「え?社さん彼女の名前知ってるんですか!?」


そしてポロリと、救護室にいるいまだ意識のないキョーコに向けた社の言葉に蓮が目を丸くした。


「れ~ん~…名前も知らない女性にいきなりあんなことしたのかよ…」

「いや、だから一目惚れだって言ったでしょう!?あの短時間の中に名前を聞く時間なんてなかったですよ?」

「…お前があんなことしなければちゃんと本人から身元確認する時間もあったろうよ」


そもそもキョーコはお店のロゴ入りのエプロンを身につけた状態で救助されたのだ。

ライフセーバーとしてビーチの安全管理上、朝夕の巡回でビーチに出店している店舗には挨拶と見回りに回っているのに…。

本人に会ったことはないにしても、名前を知らないにしても、キョーコの所属を示す情報はちゃんと目の前にあったのにそんな事にもこの男が気が付かないなんて『マジなのか』と社は感じ、頭痛がしてくる。


そんな中、社の背後の救護室からごそりと何かが蠢く音がした。


「社さん、彼女が意識を取り戻したのかもしれない!通してくださいっ!誰もいない状態で気が付いたら、きっと怖がるに違いない!」


その物音に蓮が反応し、社の肩を掴んで押し退けようした。しかし整理しきれない思考の中にあっても、社はたった一つ分かることがあった。


自分の目の前の同僚が再度意識を取り戻したかもしれない人物に一番危険であることだけは…。



「だったら余計にお前はダメだ!!!」