主犯格が姿を見せず、実行犯だけを使って犯罪を繰り返す「トクリュウ犯罪」。
弱みを握られ、脅され、抜け出せないまま事件に加担させられる――その負の連鎖が延々と続く。
高級時計強盗、なりすまし詐欺、未公開株取引などに関わった受け子・掛け子たちは、自分たちも弱みを握られた“被害者”だと主張する。しかし、安易に怪しいバイトへ手を出した時点で運命は決まっていたとも言える。個人情報を知られ、脅され、闇バイトをやめられない構図はまさに地獄であり、同情の余地は乏しい。
この作品は、トクリュウ問題の根深さと、そこに巻き込まれる人々の弱さを容赦なく描いている。
闇バイトの黒幕は、フィリピンの外国人専門の刑務所・収容所から電話で日本の手先に指示を出す。現実の事件と地続きの描写が続き、読んでいて背筋が冷えるほどだった。
詐欺で財産を奪われ、生きる希望を失った人々の無念を晴らすべく、ハングマンの復讐が始まる。
その“殺し方”は必殺シリーズを思わせる鮮やかさがあったものの、結末に爽快感はほとんど残らなかった。
むしろ、犯罪の連鎖が生む悲劇の深さだけが静かに沈殿していった。
✦ この作品から得られる教訓
「弱みを握られる」という一点が、人を簡単に犯罪の加担者へ変えてしまう。
どれほど軽い気持ちで始めても、一度情報を渡した瞬間に主導権は奪われる。
“楽に稼げる仕事”は存在しない。
安易な選択は、人生を破壊するほどの代償を伴うことがある。
被害者と加害者の境界は、想像以上に曖昧である。
弱さにつけ込まれた者が、別の誰かを傷つける側へ回る。その連鎖は止めるのが難しい。
犯罪の黒幕は、想像以上に遠く・深く・見えない場所にいる。
表に出てくるのは“使われる人間”だけであり、真の悪意は姿を見せない。
復讐は何も解決しない。
ハングマンの行動は痛快さよりも虚しさを残し、被害者の苦しみが消えるわけではないことを示している。
この作品は、犯罪の構造と人間の弱さを容赦なく突きつける一冊だったと思う。
目次
一 雛鵜
二 徒歩鵜飼
三 船鵜飼
四 鵜飼習得
五 鵜匠殺し
著者紹介
中山七里さん
1961年、岐阜県生まれ。会社員生活を経て、2009年『さよならドビュッシー』で第八回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、翌年デビュー。
以降、法廷、音楽、医療、警察、社会問題など幅広いジャンルでミステリー作品を発表し続けている。
