「ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した。」
いつの間にか自分が虫になっている――その不条理さにまず圧倒された。
物事には必ず原因があるとどこかで思い込んでいたが、ここには理由も説明もない。
変身のために魔法を使ったのか、魔法をかけられたのか、それとも白昼夢なのか。
現実的に考えれば「なぜ自分がそうならなくてはならないのか」という思いが湧くが、腹の底から納得できる合理的な理解には到底たどり着けない。
家族に理解されず、気味悪がられ、孤独の中でひっそりと死んでいく――その設定からは、現代社会に拒絶された人の姿が重なって見えた。
作品全体に漂う違和感は、読者の心にじわりと染み込んでくる。
グレーゴルと家族との関係が淡々と描かれていく文体は、かえって薄気味悪さを強めている。
事実だけを静かに積み重ねるレポートのような筆致が、悲劇を過度に dramatize することなく、むしろ不気味さを際立たせていた。
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旧新潮文庫あとがき 高橋義孝
解説 有村隆広
年譜
