表紙の草野碧さんの装画が映える。
地質調査、狼犬、原爆、隕石、ウミガメなどを含めた自然科学をテーマとする5つの短編集だ。
地球規模の壮大な歴史や生命の神秘、宇宙へのロマン、それぞれに専門的で深い知識や経験を豊富に持ってないと書けない内容だと感じられる。
そして、それぞれ物語は、男と女たちの人間味が溢れ出てくる味わい深いおはなしだった。
262P
「残念なことやけど、今の姫ヶ浦からもうじき、ウミガメはおらんになる。でも、浜はずっとこのままやない。いつか誰かが何十年かかけて、昔みたいなえ浜に戻すかもしれへん。反対に、もし姫ヶ浦が誰からも見捨てられても、何百年後かには浜も自然と綺麗になっとるやろ。そしたらカメさんの方で、勝手にこの浜を見つけてくれる」
「何百年後……」
「気の長い話やけどね」と佐和は笑った。「人間も、同じや思うよ。好きなところで、気に入った場所で、生きたらええの。生まれた土地に責任がある人なんて、どこにもおらんのよ」
<目次>
夢化けの島
狼犬ダイアリー
祈りの破片
星隕つ駅逓
藍を継ぐ海
伊与原新さん
1972年、大阪生れ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。2010年、『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞。2019年、『月まで三キロ』で新田次郎文学賞、静岡書店大賞、未来屋小説大賞を受賞
