大学客員教授の久和を公務執行妨害で逮捕されたところから物語が始まった。
次第にその事件の背景である財務省の暗部を辛辣に描いていった。
国民からの税収を自らの天下りに有利に導く出資金や貸付金としてばら撒くシステムができあがっていたのだ。税金という首木を課せられた国民が欺瞞で騙され続けていたのだろうかと。
また、震災復興にあたっては、国債での対応ではなく、なぜ国民広く増税するのかとこれまで何か抱いていた違和感が少し払拭させられた。
この国債と税金の説明は、学校で講義を受けているようなアカデミックなありその雰囲気で魅せられた。
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国債という名の借金が、将来にわたって国民を縛り続ける。
それが、亡き父の言った「見えないクビキ」に違いなかった。
【頸木】【軛】あるいは【首木】。
本来は、複数の馬や牛に車を引かせるとき、その首と首とを橋のようにつないだ「横木」を指す言葉だ。しかし、これが転じて「自由を束縛するもの」という意味を持つようになった。
国債という「首木」から、国民を開放する―。
私が手にいれるべきは、その首木を外す「鍵」なのだ。
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財務省は、いや私は、将来にわたって国民を縛り続ける、国債という名の「首木」を―。
「国債は、政府と日銀とがやり取りして財源を生み出す『装置』。片や税は、財務省が国民に課し、財務省が国民から取り立てる、いわば財務省が財源を牛耳るための『装置』、そりゃ、国債なんて便利なものを出すのが当たり前になってしまったら、財務省は困りますよね。自分たちの裁量で使える、『税収』というお金が減ってしまうんですから。政府と日銀で勝手に財源を作られてしまったら、財務省の出番なんてなくなってしまう。今までみたいに、大きな顔はしていられなくなる」
税は、財務省が、財源を牛耳るための、装置―。
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「財政法第四条と、国債を」
おお、そうだった、そうだった。
「はい、すみません……だから財務省は、国債を嫌う。国債は、政府と日銀とのやり取りでお金を生み出させてしまうシステム。そうなると、財務省は蚊帳の外。自分たちの……いわば収入源であり、財布とも言うべき「税」が軽んじられることになる。税収が減るのは、財務省としては絶対に困る。なぜなら、財務省が自らの裁量で、天下り先に出資金や貸付金を割り振ることが、できなくなってしまうから。天下り先というのは、つまり一般国民には指一本触れることのできない、彼らだけの『へそくり』にも等しい、隠し財産と言える。だから財務省は、財政法第四条を盾に取り、国費は税収のみで賄わなければならない、と喧伝する。国債を借金よばわりして忌避し、増税に次ぐ増税で、経済が疲弊しようが国民が飢えようが、そんなことは一切お構いなし。なぜなら、増税しないと、自分たちの『天空の城』が潤わないから……そういうことでは、ないでしょうか」
<目次>
第一章から第五章、終章
誉田哲也さん
1969年東京都生まれ。学習院大学卒業。2002年『妖の華』で第二回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞、03年『アクセス』で第四回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞。人物それぞれの精密な視点から物語を構築し、警察小説や犯罪小説、青春小説等を発表、多くの読者を獲得している