六つの連作短篇集であり、桜木紫乃さんの真骨頂であった。底力を魅せつけられたおとなの作品だった。
いつものように、出身の北海道を舞台にしたものであり、鼠色のどんよりとした雲が全体に深く重く漂っていた。
アイヌの歴史や民族に関しては、簡単には語れないものだ。
アイヌ出自を持つ紋様デザイナーの赤城ミワは、独自のスタイルで不動の地位を確立していく。
彼女は、誰にも冷静に対応できる。相手を突き放すわけではなく、真面目で芯の強い。
触れると怪我をするのに関わらず、ミワにもっともっと近寄りたくなる。
おそろしく魅力的な不思議な女性の物語だった。
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遠慮なく酒が飲めて、一緒に食べるものが旨い。滝沢がそれだけで十分ではないかと思うのに懸命なのは、踏み込めば短命な関係を何度か経験しているからだった。長く付き合ってみたい女だが、長く付き合うためには多少の我慢が必要なのだ。
<目次>
谷から来た女
ひとり、そしてひとり
誘う花
無事に、行きなさい
谷へゆく女
谷で生まれた女
桜木紫乃さん
1965年、北海道生まれ。2002年「雪虫」でオール讀物新人賞を受賞、07年『氷平線』を刊行。13年『ラブレス』で島清恋愛文学賞、同年『ホテルローヤル』で直木賞、20年『家族じまい』で中央公論文芸賞を受賞