元刑事の五百旗頭、先輩清掃人の白井、後輩の秋廣香澄の三人。
彼らが特殊清掃時の裏に見え隠れする諸事情に奮闘し問題を解決に導いていく。
遺族や物件を所有する家主から依頼を受け、一般の清掃業者ではまったく手に負えない、いわゆる特殊な清掃現場に日々立ち会っていくのだった。
生まれたときも死ぬときも、人の世話になっている。
日々の生活では自分だけではなく他の人が関わる部分が多くあって社会で責任と役割を分担して生きている。
健康なときは目を背けているが、病気になったときやからだの都合が悪いときにやっと気づく。
人は決して独りでは生きていけないし、一人でも生きていない。
東日本大震災や度重なる災害、新型コロナ禍で、不安と孤独に蝕まれる現代の日本の社会情勢のもと、単身世帯が増えてきていることから、孤独で亡くなる方、いわゆる無縁死が増えていると感じていた。
若くて体が丈夫なときにはあまり考えないかもしれない。
良く死ぬため、いまを良く生きることを。
生まれてきたときは当たり前に普通に祝福されてきた。
死ぬときにたった独りで心残りで淋しくて素直に旅立てないのではないだろうか。
よい人生だと思えるようにして生きていきたい。
友人や仲間、家族などといっしょに、ワクワクドキドキしながら、いまのこのときを楽しく愉しく面白くイキイキとして歩んでいきたいと思った。
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「特殊清掃ってのは、住まいに染みついた怨念まで拭い取ることだ。坊さんみたいに人を成仏させるのは無理な相談だが、少なくとも部屋を祓うことはできそうじゃないか」
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「部屋には住む者の性格と嗜好が現れる。片づけ具合からは精神状態が、ゴミからは生活水準が窺える」
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「昔の仲間が何を遺したのか、何を言おうとしたのか気になるんだな」
「電気を止められ、熱中症に罹って誰にも連絡ができないまま死んだらしいんです。きっと、誰かに言いたいことがあったと思います」
「それを見つけてどうするつもりだい」
白井は少し考えてから口にした。
「可能な限り故人の思いを尊重したいと……」
「君の言葉で言え」
「あいつの最後の言葉を聞きたいんです」
「分かった」
五百旗頭は短く答えると、にやりと笑う。
<目次>
祈りと呪い
腐蝕と還元
絶望と希望
正の遺産と負の遺産
1961年、岐阜県生まれ。2009年、『さよならドビュッシー』で第八回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、デビュー